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n倍粥のnに入りうる数の集合について

はじめに

子供の成長は過ぎてみると本当に早く感じるもので、私の子もあっという間に離乳食を食べ始める時期を迎えた。

さて、離乳食で用いるお粥は10倍粥、5倍粥などのような数字を使って表現されており、お粥の柔らかさを示している。これを一般化して$${n}$$倍粥と言う表現を考えた時に、$${n}$$に当てはまりうる数はどれだけあって、それらはどのような数の集合と同型だろうか、ということを考察した。みなさんも少しだけ考えてみてから、この先を読み進めていただきたい。

雑考

例えば虚数単位$${i}$$を用いて$${i}$$倍粥というのもは存在しうるだろうか。

$${i}$$倍は$${e^{i\pi/2}}$$と同値であり、複素平面上において$${\pi/2}$$(90°)回転させる操作と同じである。

つまり、$${n}$$について複素数まで考えると実軸上にあるお粥を虚軸上に移動させる操作が可能となる。しかし、実際にこのようなお粥を作成するレシピは存在するだろうか。

まずは、適切な$${n}$$倍粥の定義を考える必要がありそうだ。

お粥の定義

引用: https://curiko-kaigo-gohan.com/work/kayu-howto-cook/

この表を参考にすると、お粥の作成に必要なものは、米と水であり、この分量によって5倍粥や10倍粥のように$${n}$$の数値が変化している。

実際に米と水を用意してお粥を作成する時のことを想像すると、お粥の作成に用いる米と水は現実世界にある実態を持ったものであり、虚数や負の数にはならないであろうことが分かる(証明略)。

このことを前提に、お粥について以下のような定義をしてみよう。

お粥の定義(仮)
米と水を以下の条件を満たす分量を用いて調理したもの$${\Harr}$$お粥である
・米の分量は0gより大きい
・水の分量は0ccより大きい

ここでは、材料とその分量によってお粥を定義した。調理の方法については省略した。

ここで少なくとも、米の分量と水の分量は実数$${\Reals > 0}$$の範囲であることが分かる。なぜなら、分量とは実際に存在するものの量を示す尺度であり、虚数単位の分量を用意することはできないためである(証明略)。また、負の数$${\Reals < 0}$$も実際に存在するものの量の表現として不適切なため、除外するのが妥当だろう。

では$${0}$$gの分量についてはどうか。

米が0gの場合もお粥としてしまうと、ただの水もお粥となる。これは現実的ではないと考え、米が0gのものはお粥の定義から外した。また、水が0gのお粥も同様で、それはただの米なので現実的にはお粥とは呼ばないだろうと考え、定義から外した。

このことから、米も水も0gである、何もない無の存在や、米と水を含まない存在(例えば水素ガスや鉄など)などが調理されていたとしても、それらはお粥ではないと言える。

分量の単位(g, cc)について

分量の単位に用いているg(グラム)とcc(シーシー)は、先に引用した表を参考にしている。この単位について数学的に厳密に定義できるものかどうかを検討したい。

まず、gは質量の単位とするのが適切であろう。重さではない。重さにしてしまうと、引力の影響を受けるため、例えば月でお粥を作った時と地球で作った時に異なる分量になってしまう。お粥は任意の空間に存在できるため、質量で考えるのが適切と思われる。

しかし、質量単位gは数学的に厳密なのだろうか。

ここで、別の単位molについて考えてみよう。$${1}$$molの定義は$${6.02214076×10^{23}}$$であり、物質量を表す単位である。水$${1}$$molであれば、水分子が$${6.02214076×10^{23}}$$個ある水のことである。

molを用いた表現のように、物質の量はその物質を構成する最小の要素(水の場合は水分子)の個数で定義した方が、質量で定義するよりも厳密ではないだろうか。例えば、水分子を正確にちょうど$${1}$$g分用意することができるだろうか。いや、厳密には不可能である。水分子1個足すと$${1}$$gを超えてしまうけど、1個足さないと$${1}$$g未満になってしまう、という分量が$${1}$$gに限りなく近い分量であるが、ちょうど$${1}$$gにはなりえない。分子を分割しない限りは正確に$${1}$$gになる分量なんて存在しないのである。

このことから、質量による定義は厳密性を欠くため、分量については物質量を用いるものとする。水やお米を構成する最小要素を1とする単位を用いて表現する。米を構成する最小要素が何かは分からないが、ここでは粒子と表現する。水を構成する最小要素はおそらく水分子1つであろう。

なお、ccは体積の単位であるが、物質の体積は、同じ分量でも温度や圧力によって変化してしまうので扱いにくい。これもccを用いずに物質量で考えることにする。

これらから、以下のようにお粥の再定義を行う。

お粥の定義
米と水を以下の条件を満たす分量を用いて調理したもの$${\Harr}$$お粥である
・米の分量は1粒子以上
・水の分量は1粒子以上
ただし、1粒子は、各物質を構成する最小要素。

この定義より、水と米の分量となる数は両方とも物質量(粒子の数)で定義されるため1以上の整数、すなわち自然数($${\N}$$)である。

n倍粥

さて、ここで$${n}$$倍粥の$${n}$$に入りうる値をお粥の定義から考えたい。この$${n}$$が表すのは、引用した画像を参考にすると米の分量に対する水の分量の比率であると定義できるだろう。

$${n}$$倍粥の定義
お粥の材料に用いる米と水の分量をそれぞれ$${r,w}$$とする。この分量で調理したお粥を$${w/r}$$倍粥という。

ここで、水も米も分量が0にならないことに注意すると、$${n}$$は0より大きい実数($${n \in \Reals > 0}$$)と言えそうであるが、先のお粥の定義より、$${r,w}$$は自然数($${r, w\in\N}$$)であるので、$${n}$$は必ず有理数( $${\mathbb{Q}}$$ )となる。そして$${n>0}$$である。

整理すると、以下が言える。

$${n}$$倍粥の定理
$${n}$$倍粥の$${n}$$の取りうる数の集合は$${\{n>0|n\in\mathbb{Q}\}}$$

無理数倍粥は不適切であることの例示

例えば無理数である$${\sqrt{2}}$$倍粥を考えてみよう。0を除くどんな整数を$${\sqrt{2}}$$倍しても整数にはならないことは自明である(証明略)。そのため、どのような米の分量を用意しても、$${\sqrt{2}}$$倍粥を作る水の分量を正確に用意することはできない。なぜならば水の分量は突き詰めると水分子の数であり、それは整数で表されるからである。

$${\pi}$$倍粥や$${e}$$倍粥($${e}$$はネイピア数)なども同様に存在しない。

まとめ

お粥が水と米から調理されることから、$${-1}$$倍粥や$${i}$$倍粥は適切な水と米の分量を用意することができないため、存在しないことが言えた。

また、水と米の分量は物質量で定義されるため、厳密には自然数の範囲でしか定義されないことから、$${n}$$倍粥の$${n}$$は有理数に閉じていることを確認した。

もし、有理数の範囲外である$${n}$$を用いた$${n}$$倍粥のレシピを見たり、提供されたりした場合は、ここでの定義とは異なるお粥であることが確定するので、注意されたい。


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