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感動の物語と理想的な脚


私は複雑な想いで、その女性の理想的な脚を眺めている。


チェーン展開をしている珈琲店。これも《カフェ》と呼ぶのだろうか。正午前だというのに店内は満席で、席に通されるまで15分ほど待たされた。4人掛けのテーブルに案内される。周りはみんな女性のグループ。男は私の他にはサラリーマンらしき格好をした人がひとり。女性のグループの年齢層は幅広い。80歳くらいのお婆さん2人は、注文した抹茶のパンケーキが思ったより大きかったのだろう、お互いの前に置かれた同じパンケーキを見ながら苦笑いしている。

注文の品が届くまで時間がかかりそうなので、タブレットを開き記事を読み始めた。昨夜読んだ記事のあとからタイムラインを追いかける。20分ほどしてから、注文したセットメニューのサラダとスープが運ばれてきた。私はある続きもののコラボ記事の最終回を読みながら、サラダをつついた。

その続きものの物語は前回までもとても面白く、夢中で読める記事だった。しかし、今回のものはそれを越えていた。私はサラダとコーンスープをやっつけ、皿とカップをテーブルの隅に押しやって、物語の続きに集中した。

愛らしいふたつのキャラクターに感情移入していた。途中でセットメニューのオムライスが運ばれてきたが、しばらく放置した。

物語を読み終えた。何度か涙が出そうな感情に襲われた。感動がおさまらない中、オムライスを掬った。

なんじゃこりゃー!!

子供の頃から食べてきたオムライスの中で、一番おいしくない。解凍したと思われるケチャップご飯はもとより、一応とろとろにはなっている玉子には味も風味もなく、玉子とケチャップご飯の間に女子受けを狙って投入されたチーズにも殆どチーズの味としての存在感はない。そしてオムライスのまわりを囲むデミグラスは、青臭い味が残ったあっさりし過ぎたソースだった。

私はタブレットをしまい、物語を頭で反芻しながら、その味気ないオムライスをやっつけた。

店内でなにか記事を書こうと考えていた私であったが、先程のようなスペシャルな記事を読まされたあとでは何も書く気になれない。仕方なく、店内を観察する。

すると目の前のテーブルに座る、OLさん3人組のうちのひとりの脚に目がとまった。

彼女は私に背を向ける形で椅子に座っている。だが、私が座る位置より1メートルほど右側にずれているのでよく見える。おそらく膝丈くらいの長さであろうグレーのスカートは、椅子に座った状態で足を組んでいる彼女の太ももの中間くらいまで、その美しいラインの脚を見せていた。

一般的に比較したらかなり細い方だと言えるだろう。しかし、ただ棒のように細いという訳ではない。締まった足首からふくらはぎの膨らみへと向かうラインは、ほど良い筋肉とほど良い脂肪で構成されており、その曲線が美しい。左脚の太もものラインもスリムでいて細すぎず、膝枕してもらっても気持ちいい、良い肉質をしていそうだ。

デザートのスタンダードなパンケーキとコーヒーが運ばれてくる。パンケーキにナイフを入れる。とてもやわらかくふわふわだ。何もつけず、そのまま口に放り込む。バターの風味が薄い。これもまたかなりあっさりとした味付けだ。ホイップを乗せて食べる。ホイップもかなり甘さ控えめ。メープルシロップを大量にかける。美味しくなった。最後の一切れにミントの葉を乗せ、口に入れる。爽やかな香りが鼻をぬける。

向かいのOLさん達の席に、もう一人加わった。60くらいのおば様だ。最初からいた3人は20代後半から30代前半くらいなので、彼女達からしたら大先輩なのだろう。脚の綺麗な彼女は組んでいた脚をおろし、膝を揃えて座り直した。

あとから来た女性は席に着くなり、愚痴り始めた。彼女達はそれまでと声色を変え、熱心そうに話を聞いていた。

聞こえてくる話の内容からして、彼女らは保険の外交員のようだ。

この脚の綺麗な女性とふたりっきりで、彼女に保険を勧められたら断る自信はない。

「もし保険に加入してくれたら、わたしのこと好きにしてくれていいのよ」なんて言われたら、すぐに彼女の脚にしがみつき、足の親指からしゃぶりついてしまうかもしれない。

ただ、手の指は細すぎる。細くて長い筋ばった指は私の好みではない。特に薬指とほぼ同じ長さもある小指は異様に細く、反対側へポキリと簡単に折れそうだ。

ほどよく酸味の利いたコーヒーを飲み終えると、私は席を立った。

彼女が立ち上がった姿での彼女の脚も観察したかったのだが、彼女は一度も席を立つことがなかったのは残念だ。

レジで会計をしている間に彼女の方をチラッと見ると、マスクをした彼女は小西真奈美に似ていて、三日月のように目を細めて素敵な笑顔を作っていた。

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