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この関係を何と呼べばいいのだろう〈中〉


里美はそれほど見た目が可愛い訳ではなかったし、性格が良さそうにも感じなかった。寧ろ、深く関わったら面倒くさそうだ。それなのに何故、俺は里美に会いに行くのだろう。なんらかの興味を里美に対して感じたからなのかもしれない。


里美からLINEが来た次の日、俺達はこの間とは別の居酒屋で待ち合わせた。店のテレビではサッカーワールドカップ予選の試合が流れていた。席についた時にちょうどキックオフの笛が鳴らされたところだった。

2人で乾杯をすると、俺は試合が気になりテレビの方に意識が向いていた。

「てっちゃん、さっきからずっとテレビばかり見てる。つまんなーい。私、帰っちゃおっかな」

「ごめんごめん。でもちょっとだけ見させて。お願い」

「えー、じゃあちょっとだけだよ。それまで私、食べるのに集中してるから」

里美はそう言うと、目の前の焼鳥を頬張った。

「悪いね。前半だけだから」

そして俺はジョッキを片手にテレビの画面に視線を移した。

だが、俺はそれから10分もしないで試合を見るのをやめた。

日本代表チームは相手チームより断然、いい選手が揃っていてボールをキープしているのに、全く相手ゴールへと進む気配がない。

これまでの予選のゲームと同じだ。つまらない。


俺は日本酒を熱燗で2合注文をして、冷めかけた焼鳥に喰らいついた。今日は里美が俺の左隣に座っているので、左利きの彼女の腕が邪魔になることはない。

「ねえ、私にも熱燗ちょうだい」

「いいよ。さっちゃんも熱燗好きなんだ」

「うん。あんまり呑む機会は少ないけどね。ゆうちゃんが日本酒呑めないから」

「もったいない。美味しいのに」

俺は里美に酌をし、自分のお猪口にも酒を継ぎ足してから、改めて二人で乾杯した。

「ねえてっちゃん、私のことやっぱりちゃん付けじゃなくて呼び捨てで呼んでもいいよ」

「里美? わかった。そうする」


「あのね、実はね、私、この間は言ってなかったんだけどね、子供がいるの」

「へー、そーなんだ」

特に何も感じなかった。

「男の子なんだけどね。ちょうど20歳で生んだから、今17歳の高校生」

「ふーん」

「ゆうちゃんが半年くらい会ってくれない時期があって、その間に私、寂しくて。他の男と付き合い始めてすぐ妊娠しちゃったんだ。で、その男に話したら速攻逃げられて、でも堕ろすのが悔しくて自分ひとりで育ててやろうと思って。私ね、看護士だからその頃からお金はそこそこあるのね。だから経済的には大丈夫なんだけど、夜勤もあるからなかなかねー、これが大変だったのよ。幸い両親が近くにいて、子供を預かってくれたりしたから助かったんだけどね。それにしてもやっぱり父親がいないのって、想像以上にしんどかった」

「それはほんとに大変だったね。これまでよく頑張った」

「てっちゃんその言い方、心がこもってないー。まっ、あんまり同情されても困るんだけどね」

「あっ、そー言えば今日は指輪してないんだ」

俺は話題を変えると、里美の右手をとった。

「そんなの当たり前でしょ。私だって、別の男と会う時に指輪をはずすくらいの礼儀はわきまえていますよ」

「失礼。そりゃそーだよね」

俺は里美の右手の薬指を、自分の親指の腹で擦りながら答えた。白くて細長く、掴んで反対側に少し力を加えたらすぐにポキッと折れそうな華奢な指だった。

俺は残った酒を二人のお猪口に継ぎ足して一気に飲み干すと、店の人に勘定を頼んだ。

「えっ、もうお店出るの」

「うん、ちょっと行きたいとこがあるんだ」

「じゃあ、ここは私が出すね」

「いいよ、俺が払うよ」

「いいの。私が誘ったんだし」

「じゃあ、ここはご馳走になるよ。次は俺が払うから」

店のテレビでは日本代表がようやく相手ゴールをこじ開けたところで、他の客が手を叩いて喜んでいた。画面に表示された時計を見ると、試合の前半が終わる間際だった。しかし、俺にはもうそんな事はどうでもよくなっていた。


店を出ると俺は、里美の手を掴んで繁華街を抜ける方向へと歩き出した。

里美の指を擦っていたら前回の帰り際のハグを思い出し、俺の鳩尾辺りに押しつけられた彼女の胸の弾力が脳裏に甦ったのだ。そして下半身から頭のてっぺんまで稲妻のような性欲が走った。それもこれまでに感じたことのないような激烈な性欲を。

俺は里美を引っ張るようにして、一番近くのラブホテルへと足早に向かった。




《中 終わり》

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