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小春のプロジェクトレポート①-3


11月も後半になると朝晩はだいぶ冷えてきた。
それでも作業をしていれば汗をかくし、ちょっと休憩するとその汗が冷えてまた寒くなる。

私は学舎を背にして右側の柵を作り終える頃、熱を出してしまい3日間、作業を休ませてもらいました。

アパートのベッドで横になりながら、何のためにこんな事がんばっているのだろう、強くなるため、強くなってそれからどうするの、強くなくったって他人に合わせて生きていけば幸せに生きていけるんじゃないの、皆だってそうして生きているじゃない、箱庭の中における人間の行動や心理を知りたいって、知ってどうするの、第一いま現在の参加者は私しかいないじゃない、そんな風にしてこのプロジェクトに参加した事を後悔していた。
でも私には解っていた。
私はやっぱり強くなりたいし、他人に合わせて生きてなんかいけない。
それに知りたい事は知りたいし、それは理屈ではなく自分の性分だということも。


柵を立てる作業が半分終わり、山の傾斜の上側の柵にとりかかると、竹を結ぶための丁度良い蔦を見つけるのが難しくなってきた。
蔦を探すだけで丸一日費やしてしまった次の日、教授は麻紐を調達してきてくれました。

「まあ、このくらい良いじゃろう、ここで予定が大幅に延びても仕方ないわい。本来の目的が重要なのじゃからな」
教授はそう言っていつものように笑っていました。

私は乾教授のその笑い方が好きではなかった。
なんだか小馬鹿にされているようだったから。


教授が、大晦日から三が日にかけて故郷に帰るということで、その4日間は休みになった。
私はぐだぐだとテレビを観ながら過ごしました。

1月の半ば過ぎ、ようやく柵を一周立て終えることが出来たのです。
私は敷地の中央に立ち、ぐるりと出来上がった柵を眺めていました。

「小屋のことじゃけどのう、この様子だと小春ひとりじゃまた出来上がるのがいつになるのか見当もつかんからの、助っ人を頼むことにしたぞ」

私もそれには大賛成だった。

実際には私は指示をするだけで、木材は組み立てられるように加工した木材を教授が手配した業者さんが運んできてくれたし、その木材を組み立てる作業は学生のアルバイトがやってくれました。

1ヶ月弱でその作業も終わりました。
学舎を背にして小川に近い右上の少し開けた場所に、大学を見下ろせる向きで小屋は完成しました。

ここからがこのプロジェクトの本番で、これから出来上がった小屋に住むことになります。
私はアパートから少しの衣類をバックに詰め込み、他の荷物は全て実家に送りました。

小屋での生活を始める初日、ひとりでは淋しかろうと、教授は私に1匹の柴犬と4羽の鶏をプレゼントしてくれました。

柴犬は亡くなった老婆の家から引き取り手がなく、譲り受けたのだと教授から聞かされました。
私はその茶と白の毛を纏った雄の柴犬をコウちゃんと呼ぶ事にしました。
理由はその時、紅茶を飲みたい気分だったというだけの事でしたけれども。
私がコウちゃん、と呼ぶと柴犬はふさふさの尻尾を振って、私の周りを駆け回りました。
お婆さんに親切に育てられたのでしょう、最初からとても人懐っこい犬でした。


その日は先ず、鶏の小屋を作りました。
小屋と言っても地面の上に被さるように、木の枝と麻紐を使って作った簡単なつくりのものでしたが、逃げないようにするだけなのでそれで充分でした。
地面の虫や草を勝手に食べられるよう、大きめに囲いました。

それから火です。
この一番寒い時期に火が無いと生きていけません。
私は落ちている枯れ葉や小枝を集め、小屋の中に作ってもらった暖炉に敷き詰め、ポケットに隠し持っていた簡易ライターで火を点けました。

翌日、教授にライターのことはバレていて、直ぐに没収されました。
それから夜、動画を観ていたスマホも。

そう、この敷地内には小屋の中の1ヶ所を除いて、全ての場所が監視できるようにたくさんのカメラが設置されていたのです。
そしてカメラを通したモニターの向こうでは、乾教授をはじめ、多くの学生が私の行動を見つめているという事でした。

今、この講義を受講しているあなた達の中にも、ここからの出来事を観察していた人が少なからずいるはずです。





小春のプロジェクト①-3おわり




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