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◆不確かな約束◆しめじ編 第2章 私とシュウの関係


私達は国分寺駅から徒歩10分の住宅街で生まれ育った。シュウの家とは隣同士で、親子ぐるみの付き合いだった。だから小学2年生くらいまでは、当たり前のようにシュウと一緒に遊んでいた。

シュウのお母さんなんかはよく、「ユキちゃんは本当にしっかりしていてお利口さんだね。同い歳なのにウチのシュウは頼りないんだから。大人になってもシュウと一緒にいて、ウチにお嫁さんに来てね!」なんて言っていた。

私が「うん。そしたらシュウのお母さんは、私のお母さんにもなるね! わーい。私には大好きなお母さんがふたりになるんだー。」って能天気に喜んでいると、隣でその様子を眺めていたシュウは、少し照れているような、不服そうにも見える表情でモジモジしていた。


小学校3年生くらいからは、異性と一緒にいるところを近所の友達に見られると、からかわれるので自然と一緒にいる時間は減っていった。

中学生の頃のシュウに至っては、朝、玄関を出たところで鉢合わせして、私から「シュウ おはよー」と言っても、無視して早足で学校へ向かってしまうのだった。

小学校6年生までは私の方がシュウより背が高かったのに、中学に入った途端、ちびっこだったシュウの身長はグングンと延び始め、中学を卒業する頃には5センチ近く、私より高くなっていた。

でも、いつも頼り無さげなのは小さい頃から変わっていなかった。そのクセに私に対しては偉そうな態度をとってくるのも変わらない。そして私のシュウに対する気持ちも、表には出さないまでもまた変わらなかった。


中学3年生の時に、同じクラスの女子から「シュウ君の事が好きだから、間に入って紹介して欲しい」と言われた。私は彼女の言う通り、シュウに紹介してあげた。シュウは「女子には興味ないから」と、素っ気なく断った。

シュウに振られて泣いている彼女のことを慰めながら、内心ホッとしている自分を見つけて罪悪感を感じつつも、もうシュウの事は絶対に他の子になんか渡さないと心に誓った。


自分で言うのもなんだけど、私は勉強も運動も出来て、コミュニケーション能力も高く、小学生の頃からクラスの人気者だった。少し気が強そうに見られ、女子としては敬遠ところはあったが、それでも男子にもそこそこモテた。中学に入ってから5人の男子に告白されたけど、一貫して断り続けた。


私は学年でもトップクラスの成績だったから、先生も親も当然のように都内の有名進学高校へ行くと思っていた。自分でもそのつもりでいたが、夏休み前の三者面談で、中間より少し高いくらいの平凡な進学校を志望する事を伝えた。先生と親はびっくりして納得出来ない様子だったが、無理して上のレベルの学校へ行くよりも、少し下のレベルの学校で上位の成績でいた方が良いから。という理由をつけて、無理矢理押し通した。本当の理由はシュウと同じ高校へ行きたかったから。シュウと離ればなれになりたくなかったから。


そうして私とシュウは同じ吉祥寺にある平凡な進学校を受験して、無事に合格したのだった。シュウは「なんでユキも一緒の高校なんて受けたんだよ。ユキならもっといいとこいけただろ!」って言ってきたけど「別にいいじゃない。家からも近いし」なんて適当な事言ってごまかした。


★★★★★★★★★★★★

中学の卒業式が終わり、春休みに入ったばかりの3月、普段ほとんど鳴らない家の電話が鳴った。急いで電話を取ると、お父さんの会社の上司からだった。仕事中の突然の事故で、父親が病院に運ばれたという連絡だった。直ぐにパートへ出ている母親の携帯に電話した。が、母親は出なかった。とりあえずタクシーを呼んでひとりで病院へと向かう事にした。

外でタクシーを待っていると、シュウが家に帰ってきたところだった。その時、タクシーも到着した。

「シュウ お願い。お父さんが事故で病院に運ばれたの。一緒に来て!」

訳が解らずボーっと突っ立っているシュウを、無理矢理タクシーの後部座席に引っ張り込み、運転手に行き先を告げた。

病院へと向かうタクシーの中で、母親からの電話があり、事情を説明し、病院名を伝えた。直ぐに母親も向かうという事だった。タクシーの中で不安を少しでもまぎらわす為に、シュウの手を握った。父親の無事をひたすら願った。シュウは黙ったままだったが、私の手をしっかりと握り返してくれていた。

病院へ到着して、受付でお父さんの運ばれた場所を訊いていると、青ざめた顔の母親も到着した。私も同じような顔をしていたのかもしれない。案内されたのは手術室。お父さんは既に亡くなっていた。先生が説明をしてくれていたが、ぼんやりとしか覚えていない。

病院まで付き添ってくれたシュウが私達より先に帰る時、

「これからは俺がユキのことを守ってやる」

と、怒ったような顔でボソっと呟いた。私はシュウの肩にしがみつき泣いた。





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