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#絶望のメリークリスマス

〈甘いキス〉や〈甘いくちづけ〉というようなフレーズは誰かの歌詞とか小説なんかで見聞きしたことはあるが、それらは全て比喩として使われる言葉だと私は思っていた。

久しぶりにふたりで会う時間を作ってくれた彼。
「メリークリスマス」と彼がシャンパンのグラスを掲げながら言ったのは、いつもふたりで会う時に利用しているホテルの一室。

ルームサービスで赤ワインと軽めのオードブルを注文して、古い映画を観た。
ボトルの中の最後の液体をふたりのグラスに注ぎきったタイミングで、彼が別れ話を始めた。
「妻に子供が出来たんだ」
そう彼は切り出した。
私は思わず、
「おめでとう」
なんて心にも無いことを口走っていた。

「今までありがとう」
「楽しかった」
「君は僕の人生に彩りを与えてくれた」
「今でも好きな気持ちは変わらない」
彼が放った言葉が断片的に頭の中を巡る。

「でも、もう駄目なんだ。別れよう……」

私は堪えきれず、涙を流し嗚咽を漏らして泣いていた。
困った彼が唇をふさぐようにキスをした。
彼の舌が私の口唇を割って入ってくる。
何もかもに負けてしまった私は脱力し彼の舌を受け入れ、自分の舌を絡ませる。
甘かった。
彼の唾液がとても甘く感じた。
〈キスが甘い〉というのは本当だったと今更になって知った。
そして次の瞬間、頭骨に電流が走り我を忘れてしまっていた。

一度、絶頂を迎えたあと、買ってきたショートケーキをフォークで掬い、彼の口へ運んであげた。
私は彼の上に跨がり挿入すると、ゆっくりと腰を動かした。
私の中で彼のものがまた膨らんでゆく。
それと同時に私の感情も膨らんでゆくのを感じた。

彼の上で揺れながら、ケーキを掬って口に運ぶ。
なかなか彼の口に入らず、発作的にフォークを彼の首筋に思いきり刺してしまった。
彼の首筋から赤い液体が飛び散る。
さっきまで飲んでいたワインみたいだと思ったら、笑えてきた。
彼は目を見開いて何か叫んだ。
反対側の首筋にもフォークを刺した。
血が滲んだ程度で面白くもなく、喉仏を狙った。
何度も右手を振り下ろし、骨を砕いた。
開いた皮膚の隙間から泡のように血が吹き出してきて、また笑えた。
彼は言葉を発しなくなっていた。
代わりにスピースピーという首から空気が抜けていく音がする。
落ちたケーキの破片を指で掴み、彼の首の泡立った液体をつけてから口に運ぶ。
ラズベリーの味に感じた。

このままもう一度絶頂を迎えたいと思い腰を激しく振ったが、抜けてしまったところでシラケてしまい、風呂場でシャワーを浴びた。
感情が昂り過ぎて風呂場で吐いた。

衣服を身につけてコートを羽織り、ホテルを出た。
イルミネーションが煌めく街を歩く人々は楽しげだった。
私も何故だか笑っていた。
路上でキスをしているカップルがいた。
「甘いんだよね」
と呟いて通り過ぎた。
駅の時計は深夜0時をまわったところで、
「メリークリスマス、ダーリン」
と叫んでやった。



【END】



この記事は山根あきらさんの企画参加作品です。

https://note.com/piccolotakamura/n/n73a067980d1d



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