見出し画像

故郷  #シロクマ文芸部

振り返ることはあまり好きではない。
というより、振り返るべき事など無いように思っていた。

いいことなんて何ひとつなかった。
私はいま小高い丘の上から、生まれ育ったこのつまらない街の風景を眺めている。
明日になればやっと煌びやかな都会へと旅立つことができる。
待ちわびた日はいよいよだというのに何故だろう、この寂しいさは。

180度、水平線が見渡せると謳われたその観光スポットからは、ちょうど夕陽が水面に落ちてゆくところだった。
春に差し掛かったところだが、まだ吹く風は冷たい。
そろそろ家に帰ろうか。
戻りかけた足が自然と止まり振り返る。
友達に呼ばれた気がしたから。
子供の頃の思い出が不意に甦る。
かくれんぼや缶けりをして遊んだこの場所。
母と一緒に犬を連れて散歩した海岸の砂浜。
父にせがんでドライブしてもらった海岸線の道路。
涙が滲んだ。

私は目を瞑っておもいきり息を吸い込んだ。
噎せるくらいの潮の香りが身体中に行き渡るようだった。
この匂い、忘れずにいよう。
再び目を開くと水平線に夕陽が呑み込まれていくところで、オレンジ色の宝石みたいで美しく、心に染みた。




https://note.com/komaki_kousuke/n/nf15a847db4ba





ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀