なぜ彼は死を選んだのか


自分のこれまでの人生での出来事の中で、引っ掛かっている事のひとつ。

自分は彼に対して、間違った言動をとってしまったのではないのか⁉ 自分のした事が(或いは、してあげられなかった事が)、彼の判断の引き金になってしまったのではないのか⁉ 今でも時々、考えてしまう。


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父親の会社で働き始めて8年目。私が30歳の時に、彼は面接を受けに来た。面接をしたのは私だった。

募集の内容は、午前中4時間のみのアルバイト。彼は27歳。3年間、両親と一緒に住む家でニート生活を送っていたが、そろそろいい加減 仕事をしないといけないと思い、面接を受けに来たと言っていた。

ちょっと暗い感じはあるものの、真面目そうだし、体力的には全く問題は無さそうだった(彼はとても頑強そうな体つきをしていた)ので、採用した。

思った通り、彼は真面目に働いてくれていた。殆ど、他の仕事仲間と話をしているところは見掛けなかったが、挨拶くらい出来れば、仕事には支障はなかった。

彼が働き始めてから約半年経った頃、私は彼を呑みに誘った。27歳で、週5日 1日4時間のアルバイトでは、収入的に足りないのではないか? 仕事にも慣れて来て、もっと長い時間働きたいと思っているのではないか? 将来に不安を抱えているのではないか? その辺の事を訊いてみたかったから。

私が、真面目な話をするために、他の従業員を呑みに誘う事は珍しかった。私より若い正社員やアルバイトは10人くらいいたから、皆で居酒屋とかカラオケなんかで騒ぐ事は多かった。仕事の話をするのなら、呑みにいかなくても会社で充分だったが、私は彼の本心を知りたかった。

彼は意外にも、すんなりと私の誘いを受け入れた。そして、その週の土曜日に私の行き付けの居酒屋で待ち合わせた。

彼は約束の時間にちゃんと現れた。ふたりで乾杯して、子供の頃に観ていたアニメの話やら、たわいのない話から始めた。彼はリアルタイムではない昔の、鉄人28号が好きだったと言っていた。

1時間くらいしてから、本題に入った。私の質問に対して彼は、かなりの間を置いてぽつりぽつりと返答した。

彼は、両親はもうけっこうな歳だし、自分ひとりで食べていけるくらいは稼ぐようにしていかないといけない。だから、そう言ってくれるのならば、出来れば長く働けるようにして欲しい。そう答えた。

私は彼に、今すぐには出来ないが、なるべく早い内に正社員若しくは、それに近い労働時間と給与を与えられるようにする。と約束した。

彼はあまりお酒が強くはないようだった。2時間近く経って、生ビール2杯とカルーアミルク1杯で、真っ赤な顔をして酔ってきた。それから彼は、60代半ばになる両親に迷惑ばかりかけていて申し訳ない。と言って泣いた。

私は、これから頑張って安心させてあげればいいじゃないか。と言って慰めた。

その日はそれ以上、彼は呑めなさそうだったので、タクシーに乗せて帰した。


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2週間後の朝、彼の母親から電話があった。彼の出勤時間の10分前だった。母親は自分を落ち着かせるかのように、ゆっくりとした口調で私に告げた。

「息子は亡くなりました。

今朝、息子が起きて来ないので部屋へ見に行くと、部屋には居なくて、家の中のどこにも見つからなかったから、外を探しに行ったら、車の運転席に横たわっていました。車の窓には目貼りがしてあって、鍵は全部閉まっていました。110番して警察に来てもらうと、息子はもう死んでいました。今、流行りの練炭自殺です。そちらでは、大変お世話になっていたのに本当に申し訳ございません。」

最後まで淡々とした口調で、彼の母親は語っていた。私には、それが余計に痛々しく感じられた。


2日後に通夜が行われた。彼と、彼の両親が住む家で。山の中途にある古く狭い家だった。彼の父親は終止、やり場のない怒りに耐えるような恐い顔で、胡座をかきながら下の畳を睨んでいた。母親はそんな父親の隣で、参列者ひとりひとりに足を運んでくれたお礼と、詫びの言葉を伝えていた。

私は、彼の母親からの電話でも、通夜の席でもお悔やみの言葉を伝えるので精一杯だった。只、彼と一緒に呑んだ時、それ以外の時、自分が何かミスを犯して、彼を絶望させてしまったのではないか。という不安なのかなんなのかわからないモヤモヤでいっぱいだった。


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そして今、この記事をどう終わらせれば良いのか途方に暮れている。最後に何を書くべきなのか言葉が見つからないので、ここで終わらせていただく事にする。綺麗に「ご冥福を~」なんて書く気分ではない。申し訳ない。


もし、もう一度やり直せるとしたならば・・・

彼とまた乾杯から。

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