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50歳過ぎて熱くなれるか

知り合いの壮年軟式野球の試合を観に行った。
今年初め、北海道にスキー旅行に連れて行ってくださった素敵なおじさま達だ。
還暦を迎えたばかりだというのにエネルギッシュで快活。遊び方を知ってるナイスな壮年だと思った。
幸いとてもありがたいことに、失礼が多々あったにも関わらずとても可愛がっていただいた。

そんなおじさま達のチームの平均年齢は恐らく55程度。
対する相手はほぼ40代、壮年としては若くてエネルギッシュなチームだ。
いや年齢のハンデえげつないなと思った。

前の試合が5回コールドで終わり、ベンチの消毒の後応援するチームのアップが始まった。

さすが皆さん高校・大学・社会人でご活躍されていただけあって、とても50代には見えない軽快な動きだ。
あたふたした動作も無駄な動きもなく、洗練されていて優雅さすら感じる。
そんな軽快な動きとボールをキャッチしたときにグローブから鳴り響く爆音、そして掛け声。
ベンチ前に綺麗に並べられたビヨンドやカタリストたち。元スポーツ用品店員の血が騒ぐ。

応援チームが表の攻撃で試合が始まる。
バッターボックスにおじさまが立ち、バットを構えた瞬間一気に雰囲気が変わる。
一塁ベンチの裏で観ている僕でもわかるヒリヒリした空気感。
思わず緊張してしまった。

相手ピッチャーは球威こそ速くないものの、緩急や制球力のあるピッチングでなかなか的を絞らせてくれない。
が、一回表、1.2塁のチャンスからセンターフライを相手がエラー。その時結構風が吹いていたので必然といえば必然だったと思う。

攻守交代時も皆さん軽快だ。
珍しく晴れて日差しもあり、一番暑い時間帯だったが、ダラダラしている人は一人もいない。
試合に出ていないメンバーもベンチから出てきてグローブを渡したり、バッティンググローブを預かったり。
チームのためにキビキビ動く姿がとても印象的だった。

北海道に一緒に行ったおじさまが、珍しいと聞く2エラーで交代になる。
悔しそうな背中がとても印象的だった。
普通ベンチでうなだれていそうなものだが、投手交代時は颯爽とベンチから出てきてチームのサポートに回る。
明るくチームメイトに振る舞う姿がおじさまらしくて素敵だった。

4回表、追加点のチャンス。
得点圏で打者の雰囲気が更に変わる。甘い球に対する嗅覚が凄い。
ライナー性の鋭い打球がフェンスに突き刺さりファールになると、威圧感を感じる。
自分の一打で点を取るという気迫が伝わってくる。
4回に1点追加し3-0のリードを保ったまま、最終回7回の裏が始まる。

この試合、特に印象に残ったのが応援しているチームのピッチャーだった。
6回最終回の直前まで都度ランナーを背負いながらも無失点の好投球。DHがあるにも関わらず、自らバッターボックスに立ち追加点を狙う。

隣で一緒に観戦していた監督の奥様に、決勝戦どこでしたっけ?と聞こうと思ったが、辞めた。
野球は9回裏から、最後まで何があるかわからないのだ。

独特の緊張感と疲れからか、制球は乱れてはいないものの、甘い球が放り込まれる。
しかしよく考えてほしい。50歳過ぎたおじさまが7回裏まで無失点の時点で結構ヤバいと思う。

そんな甘い球を相手は見逃さない。確実にヒットにしてくる。
ワンナウト満塁だったかな?ちょっと興奮してて覚えていないが、1点を返されたシーンではセカンド強襲の速い


打球だったが、途中交代のおじさまがキャッチする。素人が言うのも失礼な話だが、あんな球よく取れるなあと思う。
しかしダブルプレーへの焦りからかグラブからボールが出ず、3-1ワンナウト満塁の大ピンチ。


緊張感が走るフィールド。
正直こっからもうよく覚えていない。
気づいた時には相手打者がセンターの頭上を越す大きな打球を飛ばしていた。
走者一掃の2ベースヒットで3-4。劇的なサヨナラ負けを喫してしまった。

うなだれながらベンチ戻ってくる選手たち。
野球という競技の残酷さから僕も言葉が出ない。

ピッチャーの方はグローブをフェンスに思いっきり投げつけ悔しがる。
そんな姿がこの日一番印象的なシーンだった。

一度目のグラブ投げで、寄り添って慰める人はいなかった。
好投していたピッチャーに対して、チャンス時に追加点をやれなかったり、エラーだったり、それぞれ思うところがあったのだと思う。
だからこそ慰められる言葉も見つからなかったのではないか。
何よりそこまで本気でこの試合に挑んでいた人に対して、下手な言葉は掛けられなかったと思う。

自分も50を過ぎてから真剣勝負において本気で自分自身に激昂できるくらい打ち込めるものがあるだろうか。
僕もあと10年くらいバレーボールを続けられていたらいいななんて思っていたが、この人達の前でそんな事はとてもじゃないが言えないし、33歳でそんな考えは失礼だと思った。

50歳、17年後。60歳、27年後。
27歳年下の青年に感動を与えられるような素敵な大人になれるだろうか。
人が真剣に何かに打ち込む姿は本当に美しい。感情をグラングランに揺さぶられるし、ドラマがある。
心地よい風が吹き抜ける日曜日の市民教場で、高校球児さながらのドラマを観た。


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