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長くまがりくねった道9

それは2001年、広告代理店への出向から帰ってきて、元のシステム部門の部長に返り咲いた年に起こった出来事だ。またしてもトラブルの話だ。その出向していた広告代理店から受注したN社(自動車メーカー)の仕事で、所有した車の走行距離によりキャッシュバックをするというキャンペーンがあった。この時キャッシュバックを応募者の銀行口座に直接振り込むという仕組みを初めてトライしたが、見事に大失敗となり、振込みが遅れるにつれてクレームの嵐となり、得意先である広告代理店が現場に乗り込んできて大惨事となった。原因は銀行口座というものを良く知らない人間がシステムだけをたよりに業務設計をしたことだった。応募者が書いてくる銀行口座がしっかりしていないことに加え、振込みに使用するシステムが完全なものでない。結果、何日も帰れない状況が続き、ひげボーボーになりながらふらふらで仕事にあたり、その合間に乗り込んできたつい最近まで私が出向していた、得意先である広告代理店のやくざのような担当者に「うちだって年間何人かの死人が出ている。おまえのとこは問題を起こしておきながら、一人や二人死んだところでゆるされねーぞ」などと脅されながら対応せざるをえなかった。信じられないかもしれないが、これがその時実際に得意先担当者から言われた言葉だ。実際関係者一同営業も現場も家に帰れない日が何日も続いた。その当時、銀行から当社へ出向となっていた人まで動員して、振込先の特定を行うことまで行った。さらに、システムを使うのではなく、銀行のATMも活用して死にもの狂いで振込みを行った。ATMを使えば、振込先の情報が足りているかそうでないかが、その場でわかるからである。もちろん、ATMを長時間占有することになり、取引銀行からクレームが入った。でもそのような必死の解決策で、約2か月で収束に向った。この仕事では、そもそも銀行での送金を可能にする、内国為替の仕組みに対する知識不足と、新しいシステムを導入するにあたって、前提となるインプットデータが正しく支給されるかを検証しないで、理論値で実現可能だと判断してしまった事の失敗を学んだ。フィージビリティスタディ(実現可能性検証)ができていなかった。私自身、広告代理店への出向から帰ったばかりで、実際にこのような落とし穴が待っていることは気づきもしなかった。システムを使って今までできなかった事を解決できるという事は悪いことではなかったが、その前提となる銀行振り込みというものについての知識がなく、事を進めてしまった事がすべての失敗を招いた原因だった。皮肉な事だが、解決方法はシステムではなく、人間がマニュアルで振り込みを行うという手法で解決ができた。こんなに痛い目にあったので、その後はシステムで合理化できる仕組みを提案するにあたり、うまくいかなかった時の回避策まで事前に考えるようになった。また、システムだけに頼るのではなく、現実の背景をきちんと考えることの重要性に気づかされた。

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