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借りる力

仕事ができることと勉強ができることの違い

 高学歴である人が必ずしも仕事が出来るわけではない。これは誰しもが企業生活をしていれば経験するものである。高学歴ではあるが、なかなか仕事となると必ずしもみんながうまくいっているわけではない。勉強ができること=我慢強いこと、かもしれないが、勉強ができることと仕事が出来ることは異なるものである。

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 高学歴=受験勉強はできた。ということは事実である。しかし勉強とビジネスの最大の違いは、自分の力である程度完結するか、多数の相手が存在するかというところである。勉強は多少人から教えてもらうとはいえ、基本的には自分が勉強さえすれば良いわけで、ある程度自己完結できる。しかしビジネスは顧客や取引先、社内の組織など数多くの相手が関係する。よってビジネスでは、

数多くの敵と戦わなくてはならないともいえるし、

数多くの身方をつけることもできるといえる

当然ではあるが、数多くの身方をつけたものがビジネスでは成功し、逆に敵にまわしたものはうまくい。

ベンチャービジネスを行う上で必要な「借りる力」

 ベンチャービジネスは新たな事業である。新たな事業は巨大なポテンシャル市場がある。だからチャンスがあるともいえるが、今まで誰もやっていなかったことも事実である。今まで誰もやっていなかったのは何故か。それは実現するには様々な困難があるからである。ポテンシャル市場はあるものの、誰もやっていないのである。たとえて言えば、山奥に金塊が埋まっていることはわかっているが、道中、化け物がでてきたり、雷がなったり、台風が吹いたり、いろんなことが起きるので、だれも近寄らないというのがこれに近い。まさにアドベンチャーである。このようなとき、一人で立ち向かいのはすばらしいことであるが、決してそれは得策ではない。仲間を募り、多数のサポートを得る必要がある。仲間がいたからといってうまくいくとは限らないが、一人で行うよりは、遙かに成功確率が高い。またその仲間が呼び水となって、さらにサポートしてくれる仲間を呼び発展していけば、最初は到底実現できないと思われたことも、実現に近づく可能性がある。このときに必要なのは、勉強が出来ることではない「人から借りる力」である。「借りる力」があれば、自分が保有しない能力があっても、それを埋めてくれる人物がやってくる。自分でその能力をつけるのは相当時間も労力もかかるが、「借りる力」があればその時間と労力をまかなえるのである。しかし「借りる力」の付け方は学校では教えてくれない。

「借りる力」の増減

 「借りる力」は、誰もがある程度は保有している。しかしこのパワーは、いろんなことで増減する。たとえば、同僚のために一生懸命になってサポートしたことや、取引先のために必死になって努力したことは、必ず「借りる力」を生み出す原因になる。サービスには対価が存在するわけだが、その対価以上の「何か」がお互い提供しあえれば、そこには両者を結びつける「何か」が残る。これが「借りる力」の源泉となる。一方、「借りる力」を減少させることもある。人を裏切ったり、信用をなくしたりすると「借りる力」を一気になくす。たとえ正式なビジネス文書となっていなくても、約束を破ったりした場合も同様である。また、俺は部長だから、俺は役員だからといったようなリーダーシップを発揮しても、「借りる力」は急速に減少する。

項羽と劉邦

春秋戦国時代の後に出てきた項羽と劉邦。自己の実力値では圧倒的だった項羽。自己能力的には項羽より劣る劉邦。しかし、勝ったのは、自己の強みが圧倒的だった項羽ではなく「借りる力」を持っていた劉邦である。

ベンチャーの社長にも、いくつかのリーダーシップの取り方がある。

(1)圧倒的力量差で、部下をギャフンと言わす項羽型リーダシップ。主従がはっきりしており、親分の言うことは絶対。

(2)この人のために、みんなで頑張ろうと言う劉邦型リーダーシップ

私が見てきたベンチャーの多くは(1)の項羽型リーダーシップである。(2)の劉邦型リーダーシップの事例は、実はそれほど多くない。

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人間にも企業にもバランスシートが存在する

 「借りる力」はベンチャーの創業期、成長期に特に重要である。大企業になってもその重要性は変わらないが、大きな何かを実現するときには大きな力がいる。自分の力だけで、「借りる力」がなければ、大きなことは実現できない。企業にも貸借対照表(バランスシート)があるように、人間にも自己資本(自己の能力)に加えて「借りる力」とその裏側となる「貸す力」のバランスシートがあるはずだ。人間としても企業としても自己資本だけでは大きなことはできない。コロナ禍になり、より「利他」を考えなくてはならない中、借りる力、貸す力はより大きな意味を持つはずだ。

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