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BIO+FORM 考 自然と建築の幸せな関係『微生物舗装』のワークショップ

ビオフォルム環境デザイン室で設計を担わせていただいている『ちっちゃい辻堂』プロジェクト。
さまざまなテーマがあるが、大きな関心ごとの一つが「生物との共生」する場づくり。プロジェクトオーナーご自身が生態学を学生時代に学んできたこともあり、生き物が大好き、特に両性爬虫類が好き、という。
辻堂のプロジェクトは“お隣さん同士の健康的な関係性”と“環境配慮型の住まい” であるが、その二つのテーマは連関している。それを生物がつないでいるかもしれない。生物層が多い環境は人の幸せにつながっている、という研究があるのだという。
生態系は「すべてがつながっている」。
できるだけ、健全な生命が多様で豊富な環境を作ることが、人にとっても良い住まいの場を作ることにつながる。

さて、微生物舗装。
「ちっちゃい辻堂」の建物周りはコンクリートや硬質な素材で「固める」のではなく、生物資源で覆っていく(つまり舗装)。それにより生物層=特に土中の微生物を増やし、環境を健全に保っていく、という試みである。湘南地域で活動している「黒松プロジェクト」のランドスケープデザイナーである岡部さんのアイデアとデザインである。岡部さんとはちっちゃい辻堂プロジェクトの設計の初期から、一緒にデザインをしてきた。建物先行ではなく建物とその周りは一体、という意識で設計を相互的に協働している。
建物周りのいわゆる外構、庭の部分をこの「微生物舗装」で覆う計画だ。
今回、「ちっちゃい辻堂」の二期工事である、「出口」プロジェクトにて微生物舗装による整備のワークショップが行われた。設計者としても実際に手を動かし、それを体感し、腹に落とすために実際の作業に参加しました。

舗装の構成は、
・地面を数十cmほど掘る。
・水の土中への通り道を作るため、穴を堀り、そこに燻炭や藁を入れながら、有機物の道を作る。
・その上にさらに炭や藁(ここでは黒松プロジェクトらしく、松の葉も使用)を交互にレイヤリングしながら微生物が棲む層と水、空気の通り道を作る。
・栗石、砕石をその上に敷き詰める。これがいわゆる路盤的な存在。
・最後のレイヤーはチップを敷き詰め、仕上げとする。
有機物の層が重なっているので、最後は足で踏み固めてある程度安定させているが、硬いようなふわふわしているような不思議な足裏の感覚である。

燻炭、炭、藁、石 すべて地上の自然資源をつかう

現在、土中環境に注目しよう、という意識が高まっている。その土中環境改善のワークショップにも何回か参加したが、基本的な考え方は同じように思う。生物資源を使い、生物層と水と空気の通り道を作る、ということだろうか。
それにより、生物量が地面の中から、地表まで含めて多くなり、それが結果的に地上の生物量を増やしていくことにつながっていく。
昨日はタイミングよく、曳地トシさんのオーガニックガーデンの講座を受け、「有機的なつながり」の大事さ、を改めて学んだ。話はつながっている。
「植物は良い音楽を聴くと育ちがいい、という話があるが、ある研究では、実はその音楽は鳥の鳴き声だった」という。
植物を鳥が育て、そこに虫たちが生き、その果実がまた鳥に還元される、というめぐりめぐる恵、という連続した循環がある。
微生物舗装により、生命量が増え、地上の植物が増え、虫が増え、鳥が増える、ということがこの辻堂のプロジェクトでも目指すことである。
『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社/桐村里紗著)という本がある。外部環境と人の体内環境が微生物によってつながっている、というとても示唆的な内容だが、外部環境が良くなることが人の健康と連関している、ということはその通りだろう。

微生物舗装のもう一つの目的は、水のデザインである。
「ちっちゃい辻堂」の一期、「久根下」では、建物の屋根に降った雨は地面の高低差を作り、微生物舗装をした場所に集まってくるように設計している。土中に雨が入っていき、大きな帯水層的な状況を作ることになる。外部への雨水の流出を遅らせ、土中の水分を涵養する。現在の都市構造は、人間にとって厄介なことは多大な投資をして重厚なインフラを作り、とにかく排除していく、という仕立てだ。しかし、自然の力は抗うには大きすぎる。しっぺ返しをすぐ喰らう。それよりは柔道のように柔らかく受け止め、柔らかく流していく、というのが正しい態度ではないだろうか。
だから、降った雨はまずは敷地で柔らかく受け止め、柔らかく流していく。「雨庭」も最近話題だが、いわゆるグリーンインフラとも同じ発想である。
このプロジェクトでは、「雨水タンク」を設置していない。その代わり、敷地の一部に手彫りの井戸を掘っている。地中自体が大きな水瓶であるとして、そこにまずは水を貯め、その水を手押しのポンプで汲み上げる、という格好だ。
地面がしっとり水分を含んでいる、ということは夏などはそこからの水分の蒸発で地表を冷やしてくれる効果もある。そもそも植物層が多いとその葉っぱの蒸散作用で地表面温度が低いが、さらに冷やす効果が期待できる。 気圧の微妙な差がそこに空気の動きを呼び込む可能性も増す。そうした微気象形成は建物内の温熱環境にも良い影響を及ぼす。

土、炭、藁、微生物、植物、水の協働

微生物舗装、というネーミングは岡部さんの命名によるものだが、「微生物」+「舗装」というのがトリッキーな組み合わせだと思う。「ん?なになに?」となる。
こうしたことの「効果」はなかなか数字では表現しにくいが、ワークショップに参加すると、本能として、これはいい、と感じる。
住環境を作っていく上ではこうした「人の感覚」も大事にしていきたいものだ。

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