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2015年 8月 COMITIA113 出品捨て娘(すてご)「ぼくらの時代 もしくは、機嫌の悪い女たち」

ありきたりなエロの展開に冷や水をぶっかけようとして書いた気がします。
今思うとなぜわざわざそんな、誰も得しないことをするのかがわかりません。
イキっていたのだと思います。
懺悔の意味も込めて公開。

 道端に女の子が捨てられていた。一刻も早く家に帰りたかったので、気づかない振りをして通り過ぎたが、気になってつい振り返ったら目が合った。

 仕事が終わり疲れ切っていた。今日も結局終電になってしまった。電車から降りるとあまりの寒さに体が震えた。日が落ちるといきなり寒い。いつも明日は上着を持って出ようと思うのだが朝になるともちろん忘れている。寒いし食欲もないほど疲れているので、ご飯は食べずお風呂に入ってすぐに寝ようと急いでいた。
 いつもの帰り道で街灯の下に打ち捨てられた見慣れぬものに気を取られ不意に目線を向けたらうずくまっている人だった。誰かがゴミでも捨てていったのかと思っていたら人間だった。はじめは気づかないふりをしてやり過ごそうとおもったのだが、こんな季節に路上で寝て大丈夫かと心配になったのでつい振り返ってしまった。そうしたら向こうもこちらを見ていて、目が合ってしまった。そうなると困っている人を見捨てるようなことになってしまう。

 道端に座り込み街灯にもたれかかっている女の子は、下から睨みつけてくる。一緒に終電で帰ってきた人たちは足早にやり過ごしてゆく。声が届く所まで近づいてみたけど、それでも目を逸らす気はないらしい。怯えもせず笑いもせずじっと睨みつけてくる。
 こんな夜中に何故一人で道端に座り込んでいるのか尋ねても警察に連絡しようかと聞いてみても、じっと睨みつけてくるばかりで返事をしない。仕方が無いので放っておく事にして立ち去ったが、またも気になって振り返ると遠くからやはり睨みつけてきている。
 引き返し、泊まる所が無いのかと尋ねても相変わらずただ睨みつけてくる。お腹は減っていないか尋ねると首を振った。減っているのかと聞くとうなずいた。言葉もわかるのになぜこんな事をしているのか疑問に思った。何か売春のような物だろうか。食べ物は必要らしい。何か食べるかと聞いたら立ち上がった。歩き出すと後ろについて来ているようだ。まだ睨んでいるのだろうか。振り返るとやはり睨まれた。ついて来てるようだ。

 こんな時間にスーパーはやっていないのでコンビニに立ち寄った。お茶と発泡酒をカゴに入れていた時に女の子がいない事に気づいた。さすがにどこかへ行ったかと思ったが、辺りを見回してみるとコンビニの出口で待っているようだった。
 女の子が何を飲むかはわからないが、普段は飲まない甘いジュースも買った、けっして下心があった訳ではないが、何かあった時の為に困ると思い念のためコンドームも買った。替え用の下着も買おうかと思ったが店員が顔見知りなため余計な勘ぐりをされるのが嫌で買わなかった。会計の時にはレジの店員と極力視線を合わせないようにした。これからアレをするのかと思われただろうか。普段行かないコンビニを選べばよかったと帰り道で気づいた。

 まるで女の子を家に連れ込むような感じになってしまった。実際のところは困っている人がいたので力になろうと思っただけである。路上で夜を明かすよりはゆっくり休むことができるだろうと思ってのことである。それに何より若い女の子が一晩中外をうろつくなんていくら安全な日本だと言ったって危なすぎる。今の世の中、突然凶悪な事件に巻き込まれることだってあり得るのだから。だから、見知らぬ女の子を部屋に入れるのは仕方のないことである。だが、本当にこの子は部屋に来るつもりだろうか。どうだろう。もしあの子と同じ立場に置かれたらそんなことはしない。見ず知らず男についていくのは危険すぎる。若い女性が出会ったばかりの男の家までホイホイついて行くというのは男が思い描いている願望の世界の話だ。この子が部屋に上がらなかったとしても当たり前のことで、気持ち悪いとか臭いとか思われている訳ではないはずだ。きっと内心では「さっさと出すもの出してくれればすぐにでもこの場を立ち去れるのに」と思っているに違いない。玄関で彼女が躊躇しているようなら買ったものを持たせてあげよう。そう決めて部屋の鍵を開け玄関に上がると、戸惑うことなく彼女も靴を剥いでいる。この部屋に泊まるつもりだろうか。が、これは人助けであり部屋に友達を連れてきた時と同じことである。
 コンドームは素早く隠しテーブルにコンビニの荷物を広げた。それで初めてコンビニで食べるものを何も買っていないことに気づいた。
 料理はしないので家の中に食べ物はない。買いに出るのも間が悪い気がしてピザの宅配を頼むが良いかと尋ねると、うなずいたような気がしたので宅配のピザを頼む事にした。どこかにチラシがあったはずと部屋中をひっかき回してようやく見つけたメニューを見せても、ただ眺めるだけで何か決めようという気はないようだ。そのうち飽きたのかメニューを見る事も止めてしまった。それで、チラシにあるメニューを見て勝手に決めることにした。普段は食べる事もないのでLサイズの35センチがどれほどの物か検討もつかないけれど、Mサイズでも2個はいらないと思い一番大きいLサイズを1つ。具は書いてあるメニューの名前を見ても何のことかさっぱりわからなかった。前にウェブの記事で女の子が好きなピザの具ランキングを見た気がしたがそれがいつどこに書いてあったか思い出せない。パソコンで調べようかと思ったが女の子に手際の悪いやつだと思われたくないので2番目に高価な4種類の具が組み合わさったものにした。ヘルシーに越したことはないのでサイドメニューでサラダとヨーグルトも頼んだ。サラダは2個頼んだ。

 宅配ピザに注文し終えた頃には夜中の2時を過ぎていた。帰ってからエアコンを点けていたが部屋はなかなか暖まらない。コーヒーを飲むかと尋ねたが、睨みつけてくるだけで返事をしなかった。紅茶を飲むか訊いても返事をしなかった。少し考えて紅茶にしてみた。目の前にあれば飲むようなのでコーヒーでも良かったのだろうか。よくわからないのでコーヒーが良かったのか紅茶が良かったのかに関しては考えない事にした。

 暖かい飲み物を飲んで一息ついた。
 外では暗くてわからなかったが明るい所でよく見てみると、部屋に座っている女の子は秋物のコートを着ているが、下はショートパンツに何かタイツのような物をはいているだけでこの季節だと肌寒そうだった。それに着ているものが少し汚れているように見える。コートを着ていてもわかるくらい痩せているし、本当に食べ物や生活に困っているのだろうか。
 猫舌なのかゆっくりと紅茶を飲んでいる女の子にシャワーを使うか尋ねると初めて嬉しそうにした。タオルを持たせると黙ってお風呂に立っていった。風呂場がどこか声をかけようかと思ったが、無視されるのが嫌な訳ではなく迷うほど広い部屋ではないのでほうっておいた。

 スーツを脱いで楽な服装に着替えたついでに、女の子のためにスウェットとティシャツの着替えを持って行った。風呂の前に荷物がなかったので、中にまで持ち込んだのだろうか。着替えは必要かと声をかけると、それまでしていたシャワーを止め静かに息をこらしている雰囲気が伝わってきた。大丈夫かと声をかけてみたが返事はないので、着替えを扉の前に置いておくと言って部屋に戻った。脱いだスーツや鞄を片付けていたら、玄関のチャイムが鳴った。慌てて財布を探し代金を払いピザを受け取った後、ビールっぽいものを飲んでいるとふわりといい匂いがした。何かと思ったら女の子がお風呂から戻っていた。

 シャワーを浴びて暖まったせいか険しい雰囲気はだいぶ和らいだが、顔色を伺うとまだ睨みつけている。冷たいジュースをコップに注いで出すとそれには目もくれず、手づかみでピザを食べだした。一切れは瞬く間になくなった。お腹が空いていたのだろうか。気づけばもっと食べたそうな顔をしている。どうぞどうぞと言いたかったが痰がからんでごそごそしたので、手でどうぞどうぞというジェスチャーをした。彼女はまた一切れ手にとって食べ始める。ちょうど半分食べた所でまた様子をうかがっている。気にせず食べてくれと今度は口に出して言えた。
 食べている間にこっそり見たのだが、実は痩せているわけではなく、極端に足が長く背が高いので痩せて見えるだけで、女性らしく肉がついている部分にはきちんと肉が付いているようだった。とくに胸は予想していたよりもずっと大きい。ティシャツがゆったりと大きめなのに、その形がわかるほどの大きさだった。腕やウエストが細い事も胸が大きく見えることに関係しているのだろうか。
 気付くと女の子はピザを食べ終わり距離をとるように部屋の隅で人殺しが目の前にいるかのような険しい表情をしている。胸を隠すように腕で抱き目を見開いて睨んでいる。とてもじゃないが顔を合わせていられなかったのでキッチンへ飲み物をとりに立った。そのまま部屋に戻らず冷蔵庫の前で発泡酒をゆっくりと飲んだ。
 発泡酒を飲みきって戻ると空き箱を片付けてお風呂に入った。
 お風呂はいつもより良い匂いがした。
 あの女の子は何があったのだろう。家族と喧嘩でもしたのだろうか。洋服の汚れがわかるくらいだから、随分と長い間洗ってないのではないだろうか。仮に、捜索願いのような物の対象になっていた場合は、あの女の子を部屋に連れてきたのは犯罪行為になるだろうか。未成年には見えないが、最近の女の子は大人びて見えるから未成年であってもおかしくない。よく考えると不安な事は多いが、もう部屋にあげてしまったのだからお腹いっぱい食べてゆっくり眠ってもらって穏便に済ますしかないと思った。

 お風呂からあがると、ベットに寝転んでいた女の子が飛び上がって睨みつけてきた。どうやら部屋に入ったのは彼女がちょうどまどろんでいた所だったので驚いたようだ。使っていない布団と毛布を出して床にひいた。女の子は部屋の隅から監視するように見ていたが、かまわずに明日起きる時間を言って床に敷いてある布団に潜り込み灯りを消した。明日の仕事の事を考えるとすぐにでも寝ないといけなかったが、女の子が心配だったので寝息が聞こえるまで安心できないと思いずっと耳を澄ましていた。いつまでたっても寝付いた様子がないので、心配になって起き上がりベットの上を見ると、女の子が息を殺して身構えているような気がした。女の子が布団を頭まで被っているのでわからないが警戒しているのは確かだとおもった。

 結局ずっと緊張してまったく眠れないまま朝になった。気づいた時には起きなければいけない時間を過ぎていて、慌てて出勤の用意をした。ベットではまだ女の子が布団を被って寝ているようだった。財布から2万円を抜いたが思い直して、1万円を財布に戻し、1万円と部屋の合鍵をテーブルに置いて部屋を出た。

 その日一日は風邪を引いたのか熱があるようで仕事中意識が朦朧としていた。何とか仕事をこなし家に帰ると女の子はいなかった。テーブルの上の1万円と最近買ったポータブルの音楽プレイヤーがヘッドフォンごとなくなっていた。
 風呂上がり女の子に貸した着替えがベットに畳んであったので匂いを嗅いだ。
 いい匂いがした。


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