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とある日本人によるドイツ語との格闘の記録 Teil3

まず初めに、今回の記事ではドイツ語文法の基礎について書き記していきますので、ドイツ語に関して造詣が深い方にはつまらないものになると思われます。それを踏まえたうえで読んでいただけたらと思います。

Rote Apfel oder Roter Apfel? 形容詞の格変化について振り返ってみる

さて、なぜ今回「形容詞の格変化」について記事にしようと思ったのかを説明させていただきます。前回、私がドイツを意識し始めたきっかけについて綴らせていただきました。

私は自身のドイツ語向上のため、記事の中に敢てドイツ語をねじ込んでいますが、前回の記事ではナチスの正式名称をドイツ語と日本語で表記させていただきました。

Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei
国民社会主義ドイツ労働者党

日本語表記でも言えることかもしれませんが、ナチスの正式名称はとにかく長い。アルファベットの塊を目にするだけで苦痛に感じる私には、この名称は呪文のように思えます。

しかし、この呪文を実際に詠唱してみると、実は思っていたほど難しくはないことが分かります。この名称は

Nationalsozialistische(国民社会主義の)←形容詞
Deutsche(ドイツの)←形容詞
Arbeiterpartei(労働者党)←名詞

二つの形容詞が一つの名詞を修飾しているという、とてもシンプルなものなのです。

しかしここである疑問が生じます。あの形容詞の語尾に付いている"e"とは何なのか。それが今回の主題となる「形容詞の格変化」です。

Was ist eigentlich Deklination? そもそも格変化とは何なのか

格変化を説明するためには、まずドイツ語の名詞について説明しなければなりません。ドイツ語が難しいとされる理由の一つに、名詞の性別が挙げられます。例えば私の机には乱雑に参考書やら漫画が置かれていますが、「本」の性別は何だと思いますか?本に性別なんてあるかよって感じですが、彼らにもちゃんと性別があります。男性女性?いいえ、中性です。

上記のように、ドイツ語の名詞には三種類の性が存在します。その性別に応じて、形容詞の語尾や冠詞(英語でいうaとthe)などが変化するのですが(名詞が複数形の場合も変化します)、それに加えて、修飾したい名詞のポジションによってもそれらは変化するのです。

分かりやすく説明するために、私が日本で初めて購入したドイツ語文法の本「『本気で学ぶドイツ語:発音・会話・文法の力を基礎から積み上げる』滝田佳奈子氏著」の名詞編から格変化の説明を引用させていただきます。

さらに、ドイツ語には4つの格があります。
1格は主語になる格で、だいたい日本語の「〜が」「〜は」にあたります。
2格「〜の」にあたります。
3格は英語の間接目的語に近く、「〜に」にあたります。
4格は英語の直接目的語に近く、「〜を」にあたります。

「本気でも学ぶドイツ語:発音・会話・文法の力を基礎から積み上げる」
初版132ページより抜粋

「その赤いリンゴおいしいそうだ」のその赤いリンゴ1格
「その赤いリンゴ皮は美しい」のその赤いリンゴ2格
「私はその赤いリンゴナイフを差し込んだ」のその赤いリンゴ3格
「私はその赤いリンゴ食べた」のその赤いリンゴ4格にあたります。

その格によって起こる形容詞などの変化を格変化と呼ぶのです。

Wie bildet man Sätze mit Adjektivdeklination? 形容詞の格変化を使った文の作り方

さて、それでは本題の形容詞の格変化について上記のリンゴ文章を使って説明してみます。まず1格の文章の「その赤いりんご」の部分だけドイツ語で書いてみます。ちなみにリンゴは男性にあたります。

der(その)rote(赤い)Apfel(リンゴは)

続いて2格のリンゴは・・・

die Schale(皮)des (その)roten(赤い)Apfels(リンゴの)

続いて3格

dem(その)roten(赤い)Apfel(リンゴに)

最後に4格

den(その)roten(赤い)Apfel(リンゴを)

このように、名詞を修飾する定冠詞(der des dem den←英語でいうthe)と形容詞の語尾(e en en en)が格によって変化するのです。しかも冠詞が不定冠詞(英語のaにあたる)や不定冠詞類(私の、彼の、などといったもの。英語のmyなどにあたる)の場合も一部の形容詞語尾が変わるという仕様です。

ちなみに2格のApfelssってなんだという話ですが、それは本題とは関係ないので省かせていただきます。とりあえずsのことは忘れていただけたらと思います。

ここで、言語学習者の大きな味方である「東京外国語大学言語モジュール」というサイトから、形容詞の格変化についてのページを紹介させていただきます。

不定詞、不定冠詞類が前についている時の形容詞の語尾変化はこちら。

そして冠詞類がつかない時の語尾変化がこちらになります。

もう何年もドイツ語を勉強してまいりましたが、未だにこの格変化は間違えますし、冠詞を付けるものと付けないものの違いがよく分かりません(数えられない名詞には冠詞はつかないとされていますが、それでもイメージが湧かず、恥ずかしいかぎりです)。ちなみに私は複数形の格変化が苦手です。とりあえず語尾はenを付けておけばいいだろうという気持ちでいます。

Wie bildet man die Namen von den deutschen Parteien mit Adjektivdeklination? ドイツの政党を正式名称で表記してみる

さて、ここでもう一度ナチスの正式名称を見ていきましょう。変化の核となる名詞はArbeiterpartei(労働者党)、名詞の性は女性にあたります。

そして政党名の場合、その名前は唯一無二であるため、数えられない名詞にあたるかと思います。ですので冠詞をつける必要がない場合の格変化がおこります(間違っていたらすみません)。

ではここで、冠詞類がない場合の女性名詞の形容詞の格変化を表で見てみましょう。

冠詞類なしの形容詞語尾の格変化(女性名詞の場合)

この表とナチスの正式名称を照らし合わせてみると、Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterparteiが女性名詞の1格か4格(ただの名称表記のため今回は1格)であることが分かります。

ちなみに現在、ドイツはSPD(ドイツ社会民主党)、FDP(自由民主党)、同盟90/緑の党からなる連立与党と、バイエルンではおなじみのCSU(バイエルン・キリスト教社会同盟)、今では極右の代名詞のような扱いになっているAfD(ドイツのための選択肢)などがありますが、その5つの政党の内AfD以外の政党は前述のように核となる名詞の性によって形容詞が語尾変化しています。

  • SPD Sozialdemokratische Partei Deutschlands(女性名詞)

  • FPD Freie Demokratische Partei(女性名詞)

  • 同盟90/緑の党 Bündnis 90/Die Grünen(形容詞の名詞化)

  • CSU Christlich-Soziale Union in Bayern(女性名詞)

  • AfD Alternative für Deutschland(修飾された名詞なし)

緑の党はgrün(緑)のあとの名詞が省略されたものと思われますが、冠詞のDieと語尾変化のenから予測すると、おそらくLeute(人々)やPolitiker(政治家)といったような複数形の名詞が隠されているのではないかと思います。

ちなみにDie Grünenのように、形容詞が名詞化することはよくあります。一番に思いつくものとしてはドイツ人を意味するder/die/das  Deutscheでしょうか。この名詞は、ドイツ人男性、ドイツ人女性、またはドイツ語という意味で使う場合の中性、そして複数のドイツ人と、性別と人数によって語尾が変化します。例えば「そのドイツ人(男性)は流暢に日本語を喋る」とドイツ語で書く場合、そのドイツ人は1格にあたるので、「Der Deutsche spricht fließend Japanisch」となり、「私はそのドイツ人に酒をプレゼントする」のドイツ人は3格にあたるため、「Ich schenke dem Deutschen Sake」となるわけです。慣れないうちは「普通にドイツ人って名詞作れよな」なんて思ったりしたものですが、もともとあった名詞を言葉に出すのが面倒臭くなっちゃったんだなと思うようにしたら少し楽になりました。

形容詞の名詞化についての詳しい説明はこちら。

Interessantes Deutsch, aber trotzdem… ドイツ語って面白い。でもやっぱり・・・

難しい!!!今回記事にするにあたり、改めて文法書などを読み直したりしましたが、頭がこんがらがって泣きたくなりました。そして文法を分かりやすく説明する事の難しさも学びました。全世界の教師の皆さんは日々試行錯誤していらっしゃるのだろうと想像し、とても頭が下がる思いです。先ほど自分で書いた説明文を読み直してみましたが、こんなに分かりづらい説明では、せっかく読んでくださった皆さんをより混乱させてしまうのではないかと感じております。ここまで読んでくださった皆さんに心から感謝申し上げます。

ところで実際、ドイツ人と話す時はそんなに性別や格変化は気にしなくてもよさそうです。皆さん、ちゃんと理解してくれますし、ドイツ人でも文法は間違えます。

しかしドイツに住む日本人として恥じることのないよう、基礎文法はしっかりと復習していきたいところです。

そういえば、この前バイエルンのとある旧市街を散策したのですが、薬局のショーウィンドウに対応言語の旗が貼られており、ドイツやイギリス国旗などに加えてバイエルン州旗も貼られており面白かったです。バイエルン語は発音のみならず文法や単語も独自のものなので、ドイツ人でも他州生まれの場合、意思疎通が難しいと聞きます。しかも広いバイエルン州です。地域ごとに方言があり、バイエルン人同士でも住む地域が違えば言葉が通じないこともあるとか。さて、標準ドイツ語だけで四苦八苦している状態でバイエルン語もマスターできるのか、まだまだ先は長いです。頑張ります。


余談ですが、ナチスの正式名称ってなんとなく左翼的な気がします。この前見た映画「帰ってきたヒトラー」でも、ヒトラーが緑の党に肯定的な表現があったと記憶していますが、実際の所どんな思想の持ち主だったのでしょうか。そもそも世界中のあらゆる思想は左翼か右翼か決めつけられるものなのか私には分かりません。そこのところも、知識が身について腑に落ちる結論を導き出せたら記事にするのかもしれません。政治や思想のことは徹底的に調べないと人を傷つけると思うので。

映画に興味のある方は是非。


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