生まれて初めてアイドルを好きになった【4】
2024年3月10日、日曜日。
この日に起こったすべての出来事を生涯忘れたくない。見たこと、聞いたこと、感じたこと。
全部を鮮明に思い出せるようにしておきたい。
一度目のアラームは、サイン会の集合時間の2時間30分前に設定していた。
血圧が低く、起き上がることができない日もある。
この日も身体は重く、結局わたしが起き上がったのは一度目から30分後に設定していた二度目のアラームが鳴ったときだった。
新品の服に袖を通す。
少しでもマシに見えるように化粧をする。
液体だけを取り込む食事をする。
メモ、ペン、スリーブ、硬質ケース。
スマートフォンと身分証。
最低限必要なものだけを鞄に入れる。
会場への地図を確認する。
そして友人に見送られ、会場に向かった。
1.15分
目的地には、余裕をもって到着した。
会場前には既に15〜20人程のファンの方が列になっていた。
(治安が終わっている界隈に身を置いていたので、スタッフが来る前の段階でも自然と周辺に迷惑をかけないよう列形成がされていることに驚いた)
少しすると、会場内に誘導された。
2.60分
BGMには今回のミニアルバムが流れており、
テヨンが座るであろう席の前に、
参加者用の椅子は50〜60脚ほど並べられていた。
本当にここにテヨンがくるのだろうか。
教員と生徒のような距離にくるのだろうか。
本人確認が終わり、名前を書く紙を受け取る。
自分の本名をアルファベットで書き、
少し迷って3列目あたりに腰を下ろした。
ループするBGMを聴きながら、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
誰かわたしの手を握っていて欲しかった。
開始を待つ時間は、人生でいちばん長い1時間に感じられた。
3.20秒
*記憶が飛んでいる部分があります。
テヨンが入場した瞬間から目が離せなかった。
1日ぶりに見たテヨンは、この世で見てきた人の中でいちばん綺麗な人だった。
初めの挨拶から「最後ですね」と日本語で言っていたことが強く印象に残っている。
誘導され、名前を書いた紙を渡す。
この場にきてわたしの汚い字を見られることが死ぬほど恥ずかしかった。
そして、あっという間にわたしの番が回ってきた。
メモは持っていたが、見る気はなかった。
目の前にテヨンがいるのだ。
1秒だって、彼の姿以外を見たくなかった。
正確に伝わってはいないと思う。
発音も声量も最悪だった。
もっと上手くできただろうし、もっと他の言葉があったとも思う。
それでも後悔はなかった。
大好きだ、と笑顔で伝えられた。
それだけで、満足だった。
振り返ることもせずに席に戻った。
ふわふわした気持ちで、椅子に座った。
サイン会は、
最初の挨拶→サイン貰った後は全員一度着席→最後の挨拶をして解散という流れだった。
最後の挨拶では、涙が止まらなかった。
話したいことがたくさんある。
日本を全部行きたい。
彼は、ファンに「これから」を感じさせてくれる約束のような言葉を選んでくれていた。
「そのままで」
そのまま、このまま。
彼にとって今この瞬間や、公演中に見た景色は
ずっとずっと守りたい大切なものなんだろう。
これまで歩いてきた道のり。
これから作り上げる最終日の公演。
わたしは圧倒的に知らない景色の方が多いけれど。
テヨンがそのまま、このままと望む景色があるならそれを守りたいと思った。
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