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2019〜2020年のベストデザインとデザインアワード

去年の年末ころ、よくいろいろなジャンルで見かけるように、2019年のデザインBEST10を選ぼうと考えてみたが、うまくまとまらなかった 。幅広いデザインの中から、主に自分が目にした範囲で印象的だったものを並べても、あまりに客観性に欠けて意味ないな、と。その点、Alice Rawsthornが12月23日から29日にかけてインスタグラムに7回にわたり投稿した「Design in 2019」はさすがだったと思う。1回目のリンクは下記。
https://www.instagram.com/p/B6aGBq3hvl6/

そこで選ばれていた7つのトピックは…
・環境問題を訴えるExtinction Rebellion (絶滅への反逆)のロゴ
https://rebellion.earth/

・目に見えない男性優位を調査したCaroline Criado-Perezの著書「Invisible Women」
https://www.penguin.co.uk/books/111/1113605/invisible-women/9781784706289.html

・ミラノ・トリエンナーレの「Broken Nature」展
http://www.brokennature.org/
これは自分の2019年のベストにも入れていたもの(上の画像)。英語版の展覧会図録もAmazonで入手可能になったので是非。

・ Google Android の絵文字に性別を超えた人物が登場したこと

・海洋プラスチックを回収するOcean Cleanupの苦労の末の成果
https://theoceancleanup.com/

・バウハウスの秘められた面に着目したElizabeth Ottoの著書「Haunted Bauhaus」
https://mitpress.mit.edu/books/haunted-bauhaus

個人的なバウハウス・ブームもあり(もちろん100周年でもあり)思わず購入。

・立て続けに大事故を起こしたボーイング737MAXの設計(これは悪いデザインの事例として)
https://www.boeing.com/737-max-updates/

さらにアリス・ローソーンの投稿には続きがあるのが興味深いところで、2020年に予定/予想されるデザインのトピックも「Design in 2020」として7つ挙げてあった。

・日本の上勝村のゼロウェイストへの取り組み
http://www.kamikatsu.jp/zerowaste/shorikeikaku.html

・ロンドンのサーペンタインギャラリーで始まるFormafantasmaの「Cambio」展
https://www.serpentinegalleries.org/exhibitions-events/formafantasma-cambio

展覧会自体の予定は知っていたが、ローソーンのテキストを読み、4月のミラノ出張の際に寄ることを確定。

・NASAによる火星探索とマーズ・ローヴァー
https://mars.nasa.gov/mars2020/

・建築家ピーター・バーバーによるロンドン郊外の再開発Beechwood Mews
http://www.peterbarberarchitects.com/beechwood-mews

・電気自動車の普及

・ピート・アウドルフによるデトロイト川の中洲ベルアイルの公園の植栽
https://oudolfgardendetroit.org/

アウドルフはハイラインの植栽やPeter Zumthorとの協働で知られる。

・東京オリンピックに関する一連のデザイン(やはりこれも首尾一貫、悪い事例として…)
https://tokyo2020.org/
あらためてウェブサイトを見たがなかなか大変だな…

全体を通して感じるのは、現代の多岐にわたる社会的な事象/動向/課題をデザインと結びつけて捉える方法論の巧みさ。このテーマで1000Like近くを得られるとは、爪の垢を煎じて飲みたい。そういえば少し前に、看護師の日勤と夜勤の制服を違う色にすることで定時退勤を促し、残業を減らした熊本地域医療センターの記事が、一部で「いいデザイン」だと指摘されていたけれど、それはローソーンの視点に近いとも言えそう。
https://kumanichi.com/kumacole/medical/1318065/

それに対して最近届いた「Wallpaper」(Feb, 2020)の毎年恒例のデザインアワードは、デザインが社会の幅広い場面で中で活用されるようになった状況に対し、良くも悪くもあまりぶれていない。石油系樹脂を使わずにデザインしたPriestman Goodeの機内用食器や、スウェーデンのForm us with loveによるFORGOのハンドソープなども選ばれていて、環境問題はじめ社会性を無視しているわけではないが、Designer of the yearがSabine Marcelisだったりする(彼女の作品で最初に思い浮かぶのは樹脂の塊「Candy Cubes」)。
https://sabinemarcelis.com/candy-cubes/

とはいえこの選択は、ほとんど量産品を手がけないデザイナーが選ばれたという点では画期的でもあった。彼女のデザインに使われるプラスチックの総量は、フィリップ・スタルクやジャスパー・モリソンよりはるかに少ないとも言える。

ちなみにこのアワードの今年の審査員を務めているボッテガ・ヴェネタのクリエイティブディレクター、ダニエル・リーも彼女を推したひとりだと誌面にある。リーはフィービー・ファイロ時代のセリーヌ出身で、サビネの出世作であるCandy Cubesは当時のセリーヌのブティックに数多く使われていた、というつながりがある。そういえば都内のセリーヌでもよく見かけたCandy Cubesは今どこへ…。そして去年、ミラノデザインウィークのヴィトラのプライベートパーティで見かけたサビネは、フィービー時代のセリーヌを美しく着ていたな(と、このあたりはどうでもいい話)。
なおバルセロナ・パビリオンで1月前半まで開催された彼女の「No fear of Glass」展は、ガラスとトラバーチンによる新作で構成されていた。これはもちろんミース・ファン・デル・ローエ建築へのオマージュ。

なおサビネ・マルセリスの他のアワード候補は、Max Lamb、Michael Anastassiades、Cristina Celestino、Virgil Abloh。去年の活躍から順当なのはマイケル・アナスタシアデスだが、エル・デコやメゾン・エ・オブジェも直近で彼をデザイナー・オブ・ザ・イヤーにしたことが影響したか。マックス・ラムはいい作品もあったが、よりふさわしい活躍をする年がこれからあるだろう。クリスティーナ・チェレスティーノはイタリア代表という感じで、今年を象徴するひとりとしては小粒のような。ヴァージル・アブローはIKEA、Vitra、Carpenters Workshop Galleryそして最近のGalerie Kreoの個展など話題作が多くもうひとりの本命だったが、作品そのもののクオリティとしては・・・というところ。

ただしWallpaperがイギリス発の雑誌であることを考えれば、国際的アワードとはいえやはりイギリス発信のBeazley Design of the Yearの去年がKate Crawford and Vladan Jolerの「Anatomy of an AI System」、一昨年が Forensic Architecture の「Counter Investigations」と総じて社会派寄りであることとバランスがとれている、のかもしれない。

翻って日本のデザインアワードというと、日本グッドデザイン賞ということになると思うが、その意義は大きいとして、権威や行政から自由な数人の審査員の合議によって世界のデザインを対象にする(そして応募制ではない)アワードがあったらな、とは思う。これは前回に投稿したデザインミュージアムの話とも関連させられるテーマ。もちろん意義は異なるにせよ、ミュージアムをつくるよりもはるかに簡単なプロセスで、現代にふさわしいデザインの方向性を広く発信できる手段ではある。


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