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2010年代のミラノデザインウィークを振り返って

本来だったら今日(4月25日)は、ミラノデザインウィーク(Milan design week)が終盤を迎えているはずだった。恒例の4月から、COVID-19のために一旦6月へと延期になった今年の催しは、先月になって実質的に中止(来年への延期)が発表されている。

こんなタイミングに2010年代のミラノデザインウィークを振り返るのは意味があるかも、と、先日「Keep our creative」というオンライン勉強会で編集者の山田泰巨さんとデザイン&建築ライターの田代かおるさんとトークをした。その内容もちょっと踏まえつつ、10年間の年ごとの展示のトピックや傾向などを自分なりに記しておこうと思う。自分はミラノデザインウィークについて2000年代前半からいくつかの媒体の記事にかかわっているけれど、今回は主に「商店建築」で2011年からつくってきた記事を見返して記憶を新たにした。

なおミラノデザインウィークは、近郊のロー・フィエラを会場とするミラノサローネ国際家具見本市(以下サローネ)を含む、同時期にミラノ市内各所で行われる無数のデザインイベントの総称。サローネは主にインテリア業界のための新作発表の場だが、市内では家具に限らず多様なデザインが披露される。それでは2010年から……

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2010年

この頃は来場者数にまだリーマンショックの影響があった。そして金融危機以降の傾向として、家具ブランドの新製品が堅実になっていく(実際に堅実でないブランドは、注目を集めても長続きしにくい)。若いデザイナーがエディション作品の発表でデビューすることが増えたのは、その反映でもある。市内北東部でこの年から始まった新会場Ventura Lambrateは、そんな状況の受け皿に。ますます商業化してきたトルトーナ地区に代わり、新世代のデザイナーやブランド、そして学生たちの牙城になっていった。

ほか市内で印象的だったのはエンツォ・マーリの「Intellectual Works」展(上の画像、なお筆者撮影、以下同じ)。彼がArtekから椅子「Sedia 1」を発表したのもこの年で、それはDIY的アプローチのトレンドを先取った。ガエターノ・ペッシェの回顧展があったり、故ヴィコ・マジストレッティのスタジオが公開されたり、アンジェロ・マンジャロッティやパオラ・ナヴォーネが目立ったりと、何かとベテランの存在感が大きい年でもあった。それもまた、堅実化の一面なのかもしれない。

あとはナチョ・カーボネルの集大成的な個展「Diversity」があり、デビュー当初から彼の作品を扱ってきたデザインギャラリー Spazio Rossana Orlandiの勢いもピークに。ブランドとして印象的だったのは、気鋭のデザイナーを積極的に起用していったイギリスのEstablished & Sons。この年はコンスタンティン・グルチッチ、マルティノ・ガンパー、シュテファン・ディーツらの新作を広大なスペースに並べた。またKARIMOKU NEW STANDARDがショルテン&バーイングスらを起用してミラノに初出展、Wallpaper* Handmadeもスタートした。

サローネでは、ヘルツォーク &ド・ムーロンによるVITRAHAUSが年初に完成したVitraが、アレハンドロ・アラベナの「Chairless」を発表。サローネサテリテではセルビアのアナ・クラシュが照明「Bonbon」を出品していたのも懐かしい。

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2011年

東日本大震災の直後だったこの年の4月、ミラノ初出展を果たしたエルメスは、紙管を用いた坂茂設計のパビリオンを会場に設置して大きな注目を集める。その新作家具はエンツォ・マーリとアントニオ・チッテリオが手がけた。早くも定着したVentura Lambrateでは、リンジー・アデルマン(上の画像)やフィリップ・マルアンを起用したレバノンのデザインギャラリー  Carwan Galleryが出色。Rossana Orlandiではフォルマファンタズマが前年に続いて新作「Botanica」を発表していっそう評価を高めた。

この年にHAYからもラグなどを発表したショルテン&バーイングスの影響か、やがて蛍光系のイエローやピンクなどとグレー系のカラーの組み合わせが増えていく。インテリアのコーディネートという目線ではなく、プロダクトデザイナーが機能や構造に並ぶデザインの主要な要素として色を扱うというアプローチが、この頃から目立ってくる。並行して、リーマンショック前後までよく見られたデコラティブなスタイルが姿を消していった。

リー・エデルコートがキュレーションした「Talking Textile」展も好評を得た。そこでは、テキスタイルにおけるテクノロジーの進化と、テキスタイル本来の手工芸的な指向性が同時に表現されていた。また個人的には、De Padovaの旧ショールームの空間構成を担当したデザイナーとして、Studiopepeの存在を知った。

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2012年

DIYテイストの家具や展示構成が多く目についた年。無垢材をシンプルに使うデザインが増えた一方で、3Dプリンタなどのテクノロジーとのミックスからもさまざまな発展があった。当時「DOMUS」編集長だったジョセフ・グリマがクレリチ宮で開催した「Autoprogettazione 2.0」(上の画像はその2013年の様子)がDIYの新機軸を象徴。ちなみにAutoprogettasioneは、1970年代にエンツォ・マーリが提案したDIY家具で、ものづくりを一般の人々の手に取り戻そうという試みだった。サローネではトマス・アロンソのMax designの家具「Offset」などにDIY的要素があった。

またトム・ディクソンがレオナルド・ダ・ヴィンチ国立科学技術博物館を使って新会場「MOST」をスタートし、フランスのLa Chanceなどが出展。フランス人デザイナーらしい豊かな色彩や造形の感覚は、装飾の再解釈でもあり新鮮さがあった。ランブラーテではデンマークのグループ展「Mind Craft」をセシリエ・マンツがキュレーション。そのほか、デザイナーとしてはnendoの活躍が目覚しく、Bisazza、K%、Lasvitなどのプロジェクのほか、ヴィスコンティ宮でエディション作品の個展「Trial and Error」を行い、EDIDAのデザイナー・オブ・ザ・イヤーも受賞。授賞式では佐藤オオキがイタリア語のスピーチで会場を沸かせた記憶がある。

この年、新しいブランドとして注目されたのは環境に配慮した木工家具のMattiazzi、デザイナー起用もプレゼンテーションも秀逸だったDiscipline、社会課題への回答でもあるコロンビア製の椅子を発表したMarni。PRADAの施設内でOMAによるKnollの家具の発表もあった。

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2013年

どちらかというとニュースに乏しく、過去のクリエイションの再構成が目立った年。展示もスタイリングに注力したり、定番製品の色や素材をリニューアルしたり、復刻のバリエーションも増えた。ただしマイケル・アナスタシアデスがFlosから新作照明「String」を発表したのはこの年で、彼が現在のように活躍する大きな転機になった。また彼が多用する幾何学形態と、真鍮などの昔からある素材の組み合わせが、2010年代後半に向けてトレンドになっていく。

その他のデザイナーとしては、Ventura Lambrateに出展したベルギーのミュラー・ファン・セヴェレン(上の画像)、La Chanceでラグを発表した伝説的デザイナーのナタリー・ドゥ・パスキエ、ロッサナ・オルランディ監修の「Bagatti Valsecchi 2.0」に出品したナチョ・カーボネル。また巨匠ルイジ・カッチャ・ドミニオニのデザインで知られるAzucenaの新ショールームをディモーレスタジオがデザイン。ディモーレは、前年のボッテガヴェネタのホームコレクションの空間構成を手がけたことから名前を聞くようになった。

ブランドとしては、数年ぶりに広大な会場で展示を行なって復活を印象づけたMOOOI、サローネ単独出展を果たしたマルニ木工、歴史的空間でクオリティを見せつけたHermes。一方、Established&Sonsが規模を縮小し、あらためて堅実でないと生き残れない業界の現状を知らしめた。

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2014年

デンマークのHAYはミラノ市内で初めて大規模な展示を行い、ナタリー・ドゥ・パスキエのテキスタイルがフィーチャーされて、80年代のポストモダンのリバイバルが決定的に。ソットサスはじめ当時のデザイナーのモチーフの転用や復刻などが、その後しばしば見られるようになった。Amanda Karsbergのように若いデザイナーによる樹脂やテラゾーを象徴的に用いたアイテムも増えていく。またこの頃からベルベット、大理石、真鍮などを組み合わせたプレモダン〜アール・デコ風のスタイルも徐々に目立ってきた。

市街中心部では新たに5vieが始まり、地元に密着しつつキュレーションの行き届いた展示がいくつも見られ、マーテン・バースの個展「Baas is in Town」が噂になり、このエリアにNYの家具店BDDWがオープン。その他のデザイナーでは、Moroso「Chair Lift」展と百貨店La Rinascente「In a State of Repair」展を行なったマルティノ・ガンパー、民族的なモチーフを用いるドーシ・レヴィン、ジョセフ・グリマによるAtelier ClericiでCaesarstoneとキッチン「Island」を発表したローエッジズ。トリエンナーレでの田根剛によるCitizenのインスタレーション「Life is Time」も評判に。またインタラクティブなテクノロジーとデザインの融合にユーモアをミックスしたEcal「Delirious Home」により、このデザイン学校が知名度を大きく高めた。

サローネでは、コントラクト系をメインに賑わうArper、Vitra傘下になってコンスタンティン・グルチッチらの新作を出したArtek、Ecal卒のザネラート/ボルトットの「La Serenissima」をラインアップしたMorosoなどが印象に残った。
(上の画像は市内で個展のあったFaye Toogood のエディション作品)

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2015年

サローネの会期を前に、デザイン評論家のアリス・ローソーンが「Frieze」誌でミラノデザインウィークについて批判的な考察を発表。デザインの意味が広がる中、いつまでも最新の家具にこだわるべきでない、またマーケティングのためのイベントになりすぎている、という指摘だった。加えてこの年が盛り上がりに欠けた気がするのは、5月からのミラノ万博を控えていたからだろう。

その中で圧巻だったのは、デザインギャラリーのNilufarによる広大な新スペースNilufar Depot(上の画像)。ヴィンテージとコンテンポラリーともにスケールの大きさと層の厚さに圧倒された。また折衷的なスタイルでトレンドをリードするディモーレスタジオの展示「Palmador」もギャラリーに人があふれた。Louis Vuittonによる「Objets Nomades」のミラノ初出展も盛大なもので、ハイブランドのミラノデザインウィークへの出展が当たり前になっていく。一方、5vieでのマックス・ラムの「Exercises in Seating」展は、彼の求道的なスタンスが端的に表現された。(……といふうに、デザインウィークで目を引く作品の大半が量産家具メーカーのものではなくなってくる。)

前後してPoltrona Frauグループ、Driade、De Padovaなどのオーナーが交代したり、期待されていたDisciplineが実質活動休止したり、水面下の動きも多かった。イタリアの名門ブランドの再編はその後も続いている。

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2016年

万博を機にガリバルディ地区などの再開発が進み、地下鉄の新駅ができたり、この年にはミラノトリエンナーレが復活するなど、ミラノの街に目に見える変化があった。オランダの新進デザイナーのグループ展「Dutch Invertuals」が行われる、ガリバルディ北側のイゾラ地区も新たに注目され始めた。

街の変化とともに、デザイナーの世代交代を実感した年でもあった。大規模なインスタレーションを毎年行なってきたレクサスがFormafantasmaを起用したり、Herman Millerがマイケル・アナスタシアデスを初起用したり。

全体的には前年までの延長線上にレベルの高い展示があった。Ventura Lambrate(LensveltTakt Projectデザインアカデミー・アイントホーフェンなど)、Atelier Clerici(クラム/ワイスハールほか)、5Vie(ローエッジズスタジオペペほか)、Nilufar Depot(リンジー・アデルマンほか)、Rossana Orlandi(ゲルマンス・エルミッシュほか)、Wallpaper* Handmade、それぞれに安定感があった気がする。

驚かされたのはNikeによる「The Nature of Motion」展で、前年にOMA設計のFondazione Pradaが開館した市内南部エリアの広い会場に、マックス・ラム、リンジー・アデルマン、マルティノ・ガンパー、ザヴェンはじめ8組のデザイナーによるコミッションピースを展示。スニーカーに用いられるテクノロジーを家具に応用していた。またHAYの2年ぶりの大規模な展示があり、以前にEstablished&Sonsで発表されたアイテムがコレクションに入ったりも。

ブランドで目立ったのは、ピエロ・リッソーニのディレクションの下でショールームを移転したDe Padovaヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンがクリエイティブディレクターに就いたMolteni&C。前年にはデイヴィッド・チッパーフィールドがドリアデのアートディレクターになっていた。個人の感覚を生かして世界観を発信するという意味で、ブランドとアートディレクターの関係の重要性があらためて認識されるようになった。(上の画像はBDDW)


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2017年

この10年間で最も充実していた年だと思う。大きなイベントとしては、Cassinaが設立90周年を記念して暮らしのヴィジョンを提示した「Cassina9.0」展を開催。また新作はコンスタンティン・グルチッチとロナン&エルワン・ブルレックを強く打ち出し、2015年秋からアートディレクターを務めるパトリシア・ウルキオラの色を鮮明にした。

その他のブランドでは、フィリップ・マルアン、フェイ・トゥーグッド、ペドロ・パウロ・ヴェンゾンらの新作を揃えたNYのMatter Made、マックス・ラムの家具とクリスティン・メンデルツマのリサーチで構成したReally 、アメリカをイメージしたスタイリングが秀逸なDiesel Livingの「Pop-up Home」がよかった。Matter Madeのように、量産とエディションの要素を併せ持つブランドは増える傾向にあり、どこまで市場に根づくか期待されるところ。ReallyはデンマークのインテリアテキスタイルブランドのKvadratの参加にある、リサイクル材を用いる内装用ボードのブランド。Diesel Livingは、ファッションブランドのホームコレクションがそれぞれに個性を模索する中、トータルな世界観の構築についてレベルが高い。

デザイナーについては、照明をテーマに個展「Foundation」を行ったフォルマファンタズマ、5Vieで2つの個展があったオランダの新鋭サビネ・マルセリス(上の画像)、リッソーニとの協業をステップに一躍スターデザイナーになったエリザ・オッシノStellar Worksのディレクションが冴える上海のネリ&フー、複数の会場で新作を発表したDimorestudio、ホテルがテーマの「The Visit」を開催したStudiopepe、Calico Wallpaperが起用したAna Kraš。Studio SwineによるCOSの「New Spring」(トップ画像)も、未知の体験をもたらすインスタレーションだった。

会場で人気だったのはVenturaが新しくミラノ中央駅近辺で始めたVentura Centraleで、ルカ・ニケット & Salviatiマーテン・バース & Lensveltの出展があった。またCassinaとは異なる立ち位置から変化する住環境を捉え、著名デザイナーとコラボレーションした、Ventura Lambrateでの「Ikea Festival」展も好対照で興味深かった。こうした意味で、インテリアにおいても未来がキーワードになった感があった。

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2018年

サローネの来場者数が一昨年比で17%増の43万4千人を記録し、サローネとミラノ市との連携が進んだこともあって、市内の展示も大混雑。ブレグジットが決まった影響でデザインシーンでのミラノの重要度が高まったというマーカス・フェアズの指摘もあったし、市場としても生産国としても重要な中国の人々の往来が目に見えて増えた。また触覚や聴覚を重視したり、インタラクションの要素があったり、会場の空気感が独特だったり、その場で体験しないと理解できない展示が増えた。とにかく行列の多い年だった。

ジョセフ・グリマ率いるSpace Caviarと盟友Studio Vedetが主導する新会場ALCOVAが始まり、以前のAtelier Clericiのように先鋭的なデザイナーやブランドの結集を図る。グリマがクリエイティブディレクターを務めるデザインアカデミー・アイントホーフェンの「Not for Sale」も、庶民的な街の機能に先鋭的なコンセプトを融合する姿勢が新鮮だった。彼は翌年にはトリエンナーレのデザインミュージアムのキュレーションも手がけている。

デザイナーについては、ディモーレ、ペペ、オッシノに加えてクリスティーナ・チェレスティーノキアラ・アンドレアッティキンコセス・ドラゴザネラート/ボルトットマッテオ・チビックフェデリコ・ペリザヴェン、そして木工職人でもあるジャコモ・モールはじめイタリア拠点の新世代デザイナーが台頭してきた(10年前はイタリアデザインの若手不在がよく指摘されていた)。その傾向としては、歴史からのインスピレーション、手工芸の再評価、古典的ディテールの多用などがある。

ブランドではクレリチ宮でHAYが、セルベローニ宮でGUBIが、それぞれ力の入った展示を開催。前年にオープンしたカフェなどを併設する複合スペースSixも話題に(上の画像)。Nilufar Depotのリナ・ボ・バルディ展や、オズヴァルド・ボルサーニ邸を公開した「Casa Libera!」展も好評で、ともに現代の視点で過去の遺産に光を当てていた。Azucenaが扱ってきたルイジ・カッチャ・ドミニオニ作品のB&B Italiaへの移行(復刻)もこの年に発表される。

色のトレンドとしては、オッシノによるAminiのショールームやSpotti Milanoで展示したクリストフ・デルクールのように、数年続いたグレー系の流行を経て、ベージュやグレージュの比率が増した。

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2019年

基本的にはおとなしい年で若干の物足りなさを感じたものの、後半に訪れた「Broken Nature」展ですべて取り返した気がした。これは3年前に復活したミラノトリエンナーレのメインイベントで、総合キュレーターはMoMAのパオラ・アントネッリ。気候変動などの現代的なテーマに対して、いまデザインが取り組むべきことが提示されていた。アプローチは異なるものの、前年からより拡大したALCOVAでも多くのデザイナーが地球的課題を取り上げていた。またKartellが木や環境負荷の低い樹脂を採用、Rossana Orlandiがプラスチックのリサイクルのアワードを開催、などのトピックもあった。

Nilfar DepotはStudio Vedètがキュレーション、Space Caviarが会場構成した「FAR」展で未来志向のデザインを展示。そのほか、ラフ・シモンズがKvadratのコレクションの展示を自身で手がけた「No Man’s Land」、スタジオペペが自らの多面性を表現した「Les Arcanistes」、エリザ・オッシノとFile under Popのジョセフィン・アクヴァマ・ホフマイアーによる新タイルブランド H+Oの「Perfect Darkness」も盛況。ベルギーの新進コレクティブであるBrutと、その一員でFAR展にも参加したデストロイヤーズ/ビルダーズ(Linde Freya Tangelder)もよかった。

フィエラでは、コクトラクト市場を意識し、従来のホール区分を超えて多様なブランドが出展するS.projectがスタート、新機軸を模索する姿勢が窺えたが、現時点ではその可能性は未知数に思える。(上の画像はS.projectにてKarakter

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2020年代のミラノデザインウィークはどうなっていくかというと、2019年春にデンマークで創刊してミラノでもローンチイベントがあった「ARK JOURNAL」(上の画像)にひとつのヒントがあると思う。この雑誌が紹介するのは、自然素材と手仕事を重視し、時代に左右されない価値をもつ、未来を見据えたアナログ志向に基づく空間やプロダクト。「Broken Nature」展で示された地球規模の課題に対してデザインができることは幅広いが、一般の個人のレベルでそこに対処するなら、その行動はライフスタイル(=どんな環境でどう暮らすか)が鍵になる。そしてこの動きは、たぶん北欧が世界をリードしている。

さて10年間のそれぞれについて、今回の記事のようなボリュームで強く印象に残ったデザインをピックアップしていくと、年月を経ているわりにあまり古さを感じないことに気づく。たとえば2010年に出会ったAna Krašの照明「Bonbon」が、去年にHAYから製品化されたようなこともある。もちろん、その割合はわずかではあるが、無数の新しいものの中から時代に流されない何か(それは「もの」とは限らない)を見出すのは自分のような仕事の役割かもしれない。

さて、こんな長文をここまで読んでいただいてありがとうございました。この投稿は以上で約9割を占めますが、続きでは独断による2010年代のミラノデザインウィークのベスト10を挙げました。

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