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【試し読み②】日本随一のブルースマン、吾妻光良の名著『ブルース飲むバカ歌うバカ[増補改訂版](電子版)』

16年の歳月を経て電子版として復刊した、日本随一のジャイヴマンで真のブルースマン、吾妻光良の幻の名著『ブルース飲むバカ歌うバカ[増補改訂版]』。

本書は本場ブルースマンの貴重なインタヴューや共演体験記、ブルースマン姓名判断、ブルース福笑いなどの抱腹絶倒のエッセイに加え、電子版には追悼記事やコージー大内をはじめとする日本各地の弁ブルースの紹介、さらにはブルース・コスプレ大会(!?)などを追加収録。ユーモラスに、時には涙とともにブルースを綴る、ファン待望の1冊となっている。

今回は、電子化にあたり追加収録された「ワダくん、ギターは見た目だよ! 秘蔵ブルース・ギター・コレクション一挙公開」を特別公開。吾妻さん、ワダマコトさんのギター・コレクションとともに開催されたコスプレ大会(!?)、お楽しみをいただけたら幸いだ。販売中の電子版には続編も収録されているので、ぜひチェックしてほしい。


ワダくん、ギターは見た目だよ! 秘蔵ブルース・ギター・コレクション一挙公開

吾妻「ダメだ、ワダ君、別頁でギターの話をしてたら止まらなくなってしまったよ。」
ワダ「ですよね、ですよね、そうですよね。」
吾妻「憧れのブルースマンのギターを持ちたい、と思うのは当然の話で私もそれで今や所蔵ギターが30本近くになってしまってね。」
ワダ「僕も20本ぐらいはあります。」
吾妻「よし! 折角の機会だ! 今回は吾妻とワダがここ日本で手に入れた“秘蔵ブルース・ギター・コレクション”一挙公開と行こう!」

言わずと知れた『ロバート・ジョンスン/コンプリート・レコーディングス』(ソニー)

ワダ「こ、これは何ですか?」
吾妻「ワダ君、判らないのかね、ロバート・ジョンスンのL1だよ、勿論。」
ワダ「あれえ……、ギブソンL1、ってこんな形でしたっけ?」
吾妻「良いんだよ、細かいことは。本質論の話をしてるんだから。」

 ジョンスンの奏でるL1の音を聞くとそれほどの大音量のギターでは無かったのではないか、という感じがする。それよりも繊細であくまでクリーン、かつ枯れた音色が最大の特徴だと思う。また、超絶テクもあれど相当弾き易い楽器だったのではないか、というのも何となく想像できる。で、本機はもちろんL1ではなく、英国のFaridaというメーカーが中国で作らせたもので、とある楽器店の正月バーゲンで約5万円で転がっていたのを、お屠蘇の酔いも手伝って即刻入手したものだ。ヘッドもボディも全然形は違うが色とか全体のムードはかなりL1に近いものがあり、手前ミソだが音も結構肉薄している。ただ、これをライヴできちんと使いこなせるマイクやピックアップを持っていないため、以前あるイヴェントで一緒になったROIKI氏からは、「ずいぶんペナペナな音のギターですなあ。」と言われてずいぶん落ち込んだものだ。


『ブルース・ギター大名盤』にも登場する若きB.B.のお姿

吾妻「おお! これは判る! ギブソンES-125ではなくてハーモニーだが、メンフィス時代のB.B.キングだな?」
ワダ「その通りです。愛器ルシール以前のB.B.ですね。」
吾妻「ワダ君、折角こういう上物を持っているんなら、どうしてボディにWDIAの代わりにWADA、って書かないんだね!」
ワダ「WDIAというと、若きB.B.が番組をもっていたメンフィスのラジオ局ですよね。でもなぁ。解り辛いうえに恥ずかしすぎます。お願いですからやめてください……。」
吾妻「あとは、もう少し下唇を突き出した方がいいよ。」
ワダ「ギターと関係無いじゃないですか。」

 ES-335が発売されたのが1958年であるから、B.B.がセミアコを手にするのも恐らくはそれ以降。50年代のB.B.はフルアコ、もしくはフローティング・ピックアップ搭載のピックギターを主に使用していたと考えられる。チョーキングのスピードや音程の上がり具合から考えて、だいぶ弦は太かったに違いないし、箱鳴りの音が強引に歪んだ感じもまたフルアコならではの味わいだ。この時代のB.B.に高いジャンプ指数を感じるのは、これらギターの音色によるところも大きいのだろう。

 で、このハーモニー社のブロードウェイという名のモデル。ピックアップの位置が少し真ん中寄りである以外は、B.B.のギターと全く関係ないですね。知人から譲り受けたもので、恐らくは50年代製。昔の安いギター特有の硬くて薄いトップ板がバカ鳴りを生んでいる模様です。ただし、トラスロッドの入っていないネックは極太です。僕は6弦のギターは変則的な5度チューニングで使うので、左手の押さえ方が物凄く指の開いたフォームが多いんですが、このギターは辛い。2曲も弾いたら左手にみるみる乳酸がたまって握れなくなります。久しぶりに走ってみたら、気持ちはまだいけるのに足がもつれて転んでしまうとか、あんな感じですね。愛着はありますが、非常にもどかしいギターです。


右はゴリー・カーターのリイシュー盤(Blues Boy 306)

ワダ「ああっ! これ年内で渋谷店が閉まるSレコードのカレンダーでも使われてたゴリー・カーターのコスプレじゃないですかっ!」
吾妻「失礼だね、コスプレとは。でもこれは凄いよ、コピーモデルだけど、ブルースギターの本でも紹介されていたヤツだ。」
ワダ「でもゴリー・カーターかなあ……?」
吾妻「ローラーコースターの山崎さんはこれを見て俺がロックンロールに転身したんだと思ったそうだよ。」

 ブルース・ギター本でも最高に贅沢な機種として紹介されているギブソンES-5、本物を触らせてもらったこともあるが、大きな図体ながら物凄く弾き易いギターだった様に記憶している。Tボーンではなくてゴリー・カーターがこんな贅沢なギターを持っていた、という事実に対しては、結構良い生活してたのかな?と多少下世話なことも気になる。往時のヒューストン録音がこのギターだったかは不明だが、歪みながらもまるまっちい音でトンチのあるメロディを奏でるカーターの芸風にはピッタリ、というモデルの様にも思える。

 一方、写真のものは韓国製エピフォンで型番はゼファー・ブルース・デラックス、というちょっとこっぱずかしいもの。中野の楽器屋さんでやはり4万円台で売られていたものを一瞬にして掴んだ。本物のES-5は右手が弾き易い様に、中央のピックアップだけフロントとリアに比べて高さが削られているという、心にくい作りなのだが、こちらのギターはそういう配慮ゼロで大変弾きにくい。更に甘く歪ませようとトーンを絞ると、音が小さくなり聞こえなくなる、という弱点もあり困っていたが、工作好きのメカ前田さんから極上コンデンサーを貰って付け替えてOKとなった。


右はアーフーリーが68年に制作した『2 Bugs and A Roach』

ワダ「吾妻さん! これは凄いですよ! このチョッキ、とてもタオルには見えませんよ!」
吾妻「って、そう見えてるってことじゃねえか。でも見ようによってはギター好きのオヤジが風呂上がりにダブルネックを弾いて喜んでる、という風にも見えるけど。」

 ブルース・ギター本で“モンスター”と呼ばれたSGダブルネック、ロック界のジミー・ペイジと並んでこのギターを一躍有名にしたアール・フッカーだがジミー・ペイジがこのギターで何を弾いていたか、と尋かれた場合、「天国への階段?」と何となく答えられるのに比べてフッカーの場合はどうもピンと来ない。レコードで何となくこれがそうかな……?と思えるのは、レッド・ライトニンのLP『There’s a Fungus Among Us』の“Hold On”ぐらいだが、定かではない。録音よりもライヴで使っていたのだろうか、結構曲芸じみた弾き方をしていたのだろうか、などと想像すると興奮してくる。本機は20年近く前に大特価7万5千円で入手したバーニーというメーカーのもので、バッパーズのライヴで「キング・クリムゾンの宮殿」を演奏する以外はほとんど使っていない。というのも運ぶだけで疲れてしまうからなのだが、昔はこれを担いで(恐ろしい特注のケースがある)ツァーに出たこともあり、若いというのは素晴らしいことだ、と再確認できる。

(以下次号の続編を待て!)


吾妻光良(あづま みつよし)
1956年新宿生まれ。1970年にB.B.キングの来日公演を見て以来ブルースを聴く様になり、1973 年の或る夜に愛犬のチャーリーに飯をよそった時以来、更にのめり込む様になる。高校、大学を通じ、様々なブルース・バンドで活動したが 1980年某社に就職。が、バンドの魅力は断ち難く、休日などを中心にバンド活動も継続していた。しかし2021年には勤めを終え、遅まきながらプロ入りを果たす。吾妻光良&The Swinging Boppersや吾妻光良トリオ+1などで活動中。

【書誌情報】

「ブルース飲むバカ歌うバカ[増補改訂版](電子版)
◆各電子書店にて好評発売中
◆価格:1,500円(税別)
◆発行元:トゥーヴァージンズ

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『ブルース飲むバカ歌うバカ[増補改訂版](電子版)』の詳細はブルース&ソウル・レコーズ 公式サイトからご確認ください

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