04 ポシェットとサコッシュ
ある日、転校生が来た。
「はじめまして、サコッシュです! よろしくお願いします!」
サコッシュはペコッと頭を下げた。
「わあカワイイ!!」
クラスの袋たちは、そう言って笑顔で騒いだ。
「なにあの子……」
ポシェットは面白くなかった。
腕を組み、遠くから、すっかり舞い上がっているサコッシュを睨みつけた。
サコッシュはそんなポシェットの目力に気づくこともなく、あっちにぺこっ、こっちにぺこっと、にこにこしながら頭を下げまくっている。
「なにあれ……。プライドってものが微塵もないのかしら……。下品よ」
ポシェットは放課後、サコッシュを体育館の裏に呼び出した。
体育館の中では、
「そーれ!」「ポーチ決めて!」「いくよ巾着!」
と女子袋たちがバレーボールをしていた。
「ねえ、あなたわたしが何者かご存じ?」
とポシェットが言うと、
「知ってます、時代遅れのポシェットさんでしょ?」
「なんですって!? もう一回言ってごらんなさいよ」
「何度でも言ってやるわ、恐竜並みに絶賛絶滅中の、ポシェットさん!」
「なんですって!!」
ポシェットがサコッシュの腕をつかむと、サコッシュもポシェットの腕をつかんだ。
二人はもみ合って倒れ込み、つつじの植え込みの中に転がり込んだ。
「いいかげんにしなさいよ!」
「そっちこそいいかげんにしなさいよ!」
「そのいかにもやる気なさげな、どこまでが取っ手でどこからが袋か不明な脱力したぺらぺらの烏賊スタイルは何よ」
「そのこっからが取っ手でここからが袋でござーいっていう時代遅れの甲冑スタイルは何よ!」
“袋叩き”を繰り返すと、つつじとポシェットとサコッシュは渾然一体となってぐるぐるとローリングした。もうどこまでがつつじで、どこからがポシェットでサコッシュなのか、まったく不明な修羅場だった。
しばらくして、植え込みからサコッシュが這い出てきた。
そこを通りかかった風呂敷先生が
「ポシェットを見なかったか?」と尋ねた。
「ポシェットが今朝、相対性理論を覆す絶対袋小路理論を思いついて、それを『ネイチャー』に発表したいから聞いてほしいって話だったんだが」
「ポシェットさん? 見ませんでした」
「そうか、ありがとう」
風呂敷先生が職員室に戻っていくのを見届けると、サコッシュはひとつゲップをして、
「ちょろいちょろい」
と言いながら、歩きだした。
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