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04 ポシェットとサコッシュ

[編集部からの連載ご案内]
白と黒、家族と仕事、貧と富、心と体……。そんな対立と選択にまみれた世にあって、「何か“と”何か」を並べてみることで開けてくる別の境地がある……かもしれない。九螺ささらさんによる、新たな散文の世界です。(月2回更新予定)


ある日、転校生が来た。
「はじめまして、サコッシュです! よろしくお願いします!」
サコッシュはペコッと頭を下げた。
「わあカワイイ!!」
クラスの袋たちは、そう言って笑顔で騒いだ。

「なにあの子……」
ポシェットは面白くなかった。
腕を組み、遠くから、すっかり舞い上がっているサコッシュを睨みつけた。
サコッシュはそんなポシェットの目力に気づくこともなく、あっちにぺこっ、こっちにぺこっと、にこにこしながら頭を下げまくっている。
「なにあれ……。プライドってものが微塵もないのかしら……。下品よ」
ポシェットは放課後、サコッシュを体育館の裏に呼び出した。

体育館の中では、
「そーれ!」「ポーチ決めて!」「いくよ巾着!」
と女子袋たちがバレーボールをしていた。

「ねえ、あなたわたしが何者かご存じ?」
とポシェットが言うと、
「知ってます、時代遅れのポシェットさんでしょ?」
「なんですって!? もう一回言ってごらんなさいよ」
「何度でも言ってやるわ、恐竜並みに絶賛絶滅中の、ポシェットさん!」
「なんですって!!」
ポシェットがサコッシュの腕をつかむと、サコッシュもポシェットの腕をつかんだ。
二人はもみ合って倒れ込み、つつじの植え込みの中に転がり込んだ。

「いいかげんにしなさいよ!」
「そっちこそいいかげんにしなさいよ!」
「そのいかにもやる気なさげな、どこまでが取っ手でどこからが袋か不明な脱力したぺらぺらの烏賊スタイルは何よ」
「そのこっからが取っ手でここからが袋でござーいっていう時代遅れの甲冑スタイルは何よ!」

“袋叩き”を繰り返すと、つつじとポシェットとサコッシュは渾然一体となってぐるぐるとローリングした。もうどこまでがつつじで、どこからがポシェットでサコッシュなのか、まったく不明な修羅場だった。

しばらくして、植え込みからサコッシュが這い出てきた。
そこを通りかかった風呂敷先生が
「ポシェットを見なかったか?」と尋ねた。
「ポシェットが今朝、相対性理論を覆す絶対袋小路理論を思いついて、それを『ネイチャー』に発表したいから聞いてほしいって話だったんだが」
「ポシェットさん? 見ませんでした」
「そうか、ありがとう」

風呂敷先生が職員室に戻っていくのを見届けると、サコッシュはひとつゲップをして、
「ちょろいちょろい」
と言いながら、歩きだした。

絵:九螺ささら

九螺ささら(くら・ささら)
神奈川県生まれ。独学で作り始めた短歌を新聞歌壇へ投稿し、2018年、短歌と散文で構成された初の著書『神様の住所』(朝日出版社)でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著作は他に『きえもの』(新潮社)、歌集に『ゆめのほとり鳥』(書肆侃侃房)絵本に『ひみつのえんそく きんいろのさばく』『ひゃくえんだまどこへゆく?』(どちらも福音館書店「こどものとも」)。九螺ささらのブログはこちら

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