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TRN BA15 イヤホンレビュー

連続してイヤホンレビューとなります。今回は TRN BA15 です。

良いイヤホンの本質は、どれだけ多くのドライバが搭載されているか、凄いドライバを使っているか、などではなく「純粋に音が良いか」その上で「コストパフォーマンスがあるか」という点にあるかと思ってます。そのため、KZ ZAS や AS16 といった「一つの筐体に 8 つもドライバが積んであるんですよ!」といった特徴は語るべきではない利点と個人的には思っております。
BA15 は一つの筐体にドライバを 15 も搭載し、両方の合計で 30 ものドライバで音を鳴らしております。しかし、BA15 の魅力はそのようなスペックではなく「本当に音が良い」ということです。

  • 純粋に音が良いか → ○

  • コストパフォーマンスがあるか → ○

決して安価ではないイヤホンですが、間違いなく買って後悔しないイヤホンの一つです。

レビュー内容は、エージングは 200 時間程度、2 ヶ月使った後になります。購入時期は Amazon で 2021 年 12 月のものとなります。

音質

低音がやや軽いがフラット。音の明瞭さ、分離の良さ、そして音の輪郭は非常にはっきりとしておりクリアさはとても優秀。音源によっては、静かなシーンなどやや薄い膜がかかるイメージがあるが、値段に対して期待されるパフォーマンスは優に超える。
全体的なアタック感はそこまで強くはなく必要以上には出していない。明瞭さを保つ上で必要十分という印象。聴き疲れはほぼしない。音の味付けは全体的に薄く、原音の忠実さをきちんと保たせている。ウォームさはあまり感じず、かといって硬質な表現というわけでもない。
音場は普通。広くは決してない。もう少し広いと個人的には好みだった。見通しとしては、縦方向では低音のみが目線から下への広がりがあり、中・高音は低音と綺麗に分離して目線まっすぐの方向へ伸びるイメージがある。左右へは自然に広がっている。それぞれの方向の音の配置や明瞭さは非常に明確。楽器が重なっていたとしても明確に分離をしていると感じることができる。

個人的にイヤホンの課題曲としてよく使っている Dua Lipa の Levitating を例に上げると、ベースの重心やエッジと音の太さを非常によく表現しており、また 1:47 ごろからの複数のシンセサイザの重厚に重なったパッドを上手にさばいている。音源を綺麗に分離させているのが非常に見事。

メヌエットの表現もさることながら、冒頭からのフルート・ハープの繊細さから息遣いが手に取るように分かり、自然な余韻を持たせながらすっと音が減衰していく。そして、性能の良さを特に感じるのはファランドールの、豪快かつそれでいて楽器の構成がつぶさに分かるような音の分解の良さであろう。特に終盤の一同に鳴らされる箇所を、とてもよくさばいている。弦楽のアタック感・厚みも見事に表現できている。

ドラムンベースのような、ベースや低音のアタック感や厚みを要求されるような曲はやや向かない。軽快さは良いものの、量が欲しい場合がある。性能の良さから聴けないわけではなく、不向きと言ったところ。低音寄りではない、かつ繊細な表現をすることの方に向く。

低音

非常に明瞭であり、質が良いと非常に感じる。量はそこまで多くない。必要な帯域をきちんと出して不要なところを抑えているのかな、と思った。
ドラムのキックなどは量からやや軽さを感じる。余韻はそこそこすっと減衰していく印象。主張は少なくすっきりとした印象。とても素直な表現である。50Hz 以下は薄め。
繊細さに比重を付けた鳴りかたであり、重低音を重視しなければ音源をあまり選ばない。

中音

こちらも非常に明瞭。アタック感は低音よりは強く感じる。量も非常にバランス良く、繊細さも感じながら時にはっとするような力強さと艶を感じるときがあり、原音に忠実ながら厚みを持たせるところは持たせることに成功している。リップノイズが分かるような解像度の高さもありながら、音楽を楽しく聴かせられる能力がある。
音源は選ばない。

高音

非常に明瞭。輪郭も明瞭で量のバランスも非常に良く、とても自然で聴き疲れをさせない。歯擦音や高音の「キンッ」と鳴るノイズも適度に抑えられている。音楽鑑賞での不快さをあまり感じない。
余韻はやや薄め。空間に響くようなキラキラさを求めているのであれば大人しく感じるであろう。硬さは抑えられており、さらっと流されるイメージである。

作りと装着感

まず、シルバーとブラックのモデルがあるが、ブラックは何故か返り血がついているような外観でなんとも微妙。『隕石』なるデザインらしいが、最近の隕石は血が付着しているのが普通なんだろうか。南無三、きっと人か動物にぶつかった後なんだろう。大気圏を通り抜け燃え尽きず、その後に人や動物に当たったという珍しい隕石である。酸化が進んでおらず鮮血そのままなので、事故が起こってからの時間経過もさほどないと考えられる。

……シルバーは特に突飛なデザインではなく、ロゴが印字されているのみ。ブラックも完全にブラックであればよかったのにと思う。シルバーであればシンプルなデザインである。
15BA というスペックながら重厚さはなく、かなり軽い。装着感も普通。大きさもそれほど大きくなく、耳への収まりは良い。アルミニウムの金属シェルのため、冬は装着するときに冷たい。ブラックも隕石デザインではあるがシルバーと同じくアルミニウム合金であるため、隕石の比重のような重さではないはずだ。

ケーブルはデフォルトで太さのあるケーブルが付属している。通常の 3.5mm ミニピンの他、 2.5mm や 4.4mm のケーブルのバージョンが選べる。なお、私の BA15 は 4.4mm のものを購入したので、別途 3.5mm のケーブルを購入した。期間限定のセールでそっちの方が安かった。

遮音性と音洩れ

遮音性は普通のカナル型イヤホン相当。
音洩れも電車内でも通常の音量であれば全く問題なし。ベント穴もなく、しっかりした密閉型。

総評

冒頭にあれほどドライバの数などスペックが、と書いたが、白状すると「片方 15 BA は流石にすげえな」とドライバの数で購入を決めてました……。恥ずかしながら、 DD 一つのイヤホンを買うときはちょっと損した気分になります。
KZ でも ASX が片方 10 BA と、こっちもスペックだけ見れば化け物なのですが、初期不良の多さや、そこまで音は良くないなどの評判から購入を決めかねており……。そこに目に止まったこのイヤホンで、そして「セール」の文字に踊らされ……、気付けば購入していたイヤホンでした。
ですが、その音質は非常によいものであり、癖がなく何でもオールマイティに鳴らすことができる逸品でした。繊細さがある、バランスの取れた自然な鳴りかたのオールラウンド型のイヤホンを探している場合、これ一つで十分満足できるでしょう。下手に 1 万円程度のイヤホンを二つ購入するより TRN BA15 を買われることを強くお薦めします。
10 年前は 2 万円前後のイヤホンというと通称「テンプロ」こと Ultimate Ear の TF10 が定番だったと記憶しておりますが、同じ価格帯なのに解像度は BA15 の方が段違いで上ですね。 IE80 なんかと比べても、性能はこちらの方が上でしょう。中華製品の品質の向上にも驚きながら、凄い時代になったと身を持って知ったイヤホンでした。
TRN BA15 、非常に良いイヤホンです。強くお薦めします。

老後、奥さんと世界一周のための費用にします。