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「レインコートとチマキとタコと」第3話

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◯夜霧市内の屋敷・ボスの部屋(夜)
  豪奢な洋室内、窓際にデスクと回転イス。
  エマ(63)、イスに座り、窓の外を見ている。犬系亜人(犬種サルーキ)。エルダードッグス・ファミリーの巨大な女ボス。
  エマの近くには、側近の殺し屋スペックル(25)。犬系亜人(ダルメシアン)。
エマ「レインコートが私に会いたいだって?」
スペックル「交渉したいそうです。いかがなさいますか?」
エマ「フフフ、構わないよォ……」

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  エマ、イスを回転させ、スペックルの方を向く。顔には顔パックが貼り付いている。
  エマ、憤怒の表情で、
エマ「この私が直々に、噛み殺してくれるわッ!(クワッ)」
スペックル(パック中だったか……)

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◯同・外観(夜)
  屋敷の前に車が止まっている。
  車から屋敷の入口に向かって歩くブリー。その後ろにレイニー、チマキ、オクト。さらに後ろから手下たちが続く。
ブリー「ここがエマ様のお屋敷だ」

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  レイニー、屋敷を見上げ、
レイニー「へー。結構大きいな」
  ブリー、胸を張り、
ブリー「この程度で驚いてもらっては困るな。ここはただの別荘。エマ様にとっては、数多くあるコレクションのひとつにすぎないのだ」
  オクト、イライラして、
オクト(自分の家でもないのにエラソーに)
チマキ「タコー。顔にシワ寄ってるー」

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◯同・玄関前(夜)
  一同、両開きの玄関の前に集合。
  手下たち、金属探知機を使い、レイニーたちのボディーチェック。服も触り、調べていく。オクトはモニモニ揉まれる。
レイニー「車に乗る前に散々やっただろ?」
ブリー「信用できない。しっかり調べろ」

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◯同・玄関内(夜)
  玄関へと通されるレイニーたち。中は広々、天井にシャンデリア。
レイニー「おおー。広いじゃん」
ブリー「だろ? すごいだろ~? お前らのような平民には見納めだぜ。しっかり拝んでおけよ」
  オクト、さらにイラつき、
オクト(この程度で驚くなって、言ってなかった?)
チマキ「タコ……梅干しになってる……」

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◯同・廊下(夜)
  ブリーが先頭に立ち、ボスの部屋へと向かう廊下を進む。レイニーたちが後から続く。後方に手下の姿はなし。
ブリー「お前らは今日の幸運を喜ぶのだな」
  レイニーたち、話を聞かず、
チマキ「ねえ、あっちに何かあるよ」
レイニー「なんだあれ?」
ブリー「エマ様は今回たまたま夜霧市に滞在されていた」
  レイニーたち、廊下の別の通路へと入っていく。
  ブリー、それに気づかず、
ブリー「だから、お目通りが許されたのだ。感謝しろよ」
  ブリー、後ろをふり返り、
ブリー「……って、いねえ!(ガーン)」

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◯同・ボスの部屋(夜)
  部屋のドア前に、ブリーとレイニーたち。部屋の奥のデスクを挟んで、エマ、その横にスペックルが立っている。
  ブリー、汗だくで、
ブリー「ぜぇ……ぜぇ……。お、遅くなりました」
  エマ、超不機嫌で、
エマ「もう! ガチで遅いじゃないの! どうなってんの?」
ブリー「す、すみません! でも、こいつらが……」
エマ「言い訳はいいから! 早く席に着かせなさい!」

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  レイニーたち、背もたれのついたイスに座る。レイニーは背もたれに片肘を乗せ、足を組んで座り、オクトはイスの上で爆睡。チマキは座らずに、壁際の窓に貼り付いて外を眺めている。
  スペックル、それを見て、
スペックル(察するに余りあるな。ご苦労さま、ブリー)
エマ「それで、レインコート」

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エマ「この私と交渉がしたいとか? 本気かしら?」
レイニー「ああ。少なくとも、アンタの事務所のひとつにカチコミかけるくらい、こっちはマジだぜ?」
エマ「フフフ、そうらしいわねェ……。うちのブリーがお世話になったとか。いいわ。その度胸に免じて、話だけでも聞いてあげる」
レイニー「恩に着る」

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エマ「そちらの要求は?」
レイニー「アタシたち三人の保護。一生面倒見ろとは言わない。山猫組の手の届かない外国に逃がして欲しい」
エマ「代わりに何をくれるの?」
レイニー「夜霧山猫組、組長サメジマのタマとシマ」
エマ「そう、まさにそこよ!」

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エマ「そこが信用ならないのよねェ~」
  とエマ、イスから立ち上がる。背丈が2メートル超の長身。
  エマ、レイニーの前にやってきて、
エマ「なぜ山猫組の飼い猫が、急にご主人様を裏切る気になったのかしら?」

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レイニー「アタシは組員じゃない。フリーランスの殺し屋だ」
エマ「長年一緒に仕事したくせに情が移ってないとでも? そういう上っ面の話じゃなくて、もっと肝心なとこ教えなさいよ」
  レイニー、無言でチマキを指さす。
  エマ、チマキを見て、再びレイニーを見る。
エマ「冗談でしょ?」

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  だが、レイニーの顔は真剣そのもの。
エマ「本気なの? あんな子供のために?」
レイニー「あの子はスーツケースに入れられて、売りに出されるところだった。そのケースを運んだのは……アタシだ。中身は知らされていなかった」
エマ「なるほど。じゃあ、先に裏切ったのは山猫組の方ってことね。動機は十分と。でもなァ~」

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  エマ、腕を組み、首をひねり、
エマ「正直、抗争に発展するリスク負ってまで欲しいシマじゃないのよねェ~」
レイニー「言っとくけど、アンタが断るなら他と手を組むまでだよ」
エマ「ああー、それはそれでムカつくわー!」
  とエマ、頭をかきむしる。
  エマ、レイニーに向き直り、
エマ「いいわ。こうしましょう」

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エマ「24時間以内にカタをつけなさい。そうしたら、あなたの望みを叶えてあげる」
レイニー「ずいぶんと短いんだな」
エマ「長引けば長引くほど、密会は密会じゃなくなるのよ。その代わり、組長を始末したら即出国させてあげるわ。どう?」

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  レイニー、エマと握手。
レイニー「交渉成立だな」
  レイニー、チマキを指し、
レイニー「あの子、しばらく預かってもらってもいいか?」
エマ「いいけど、うちは託児所じゃないからね。24時間経っても迎えに来なかったら外にほっぽり出すわよ」
レイニー「そうならないことを祈っててくれ」

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◯夜霧市内の屋敷・門の外(夜)
  門の外に立つレイニー。頭の上には眠そうなオクトが乗っている。
オクト「ごめん。爆睡しちゃった」
レイニー「しょうがないさ。テレポートは体力を使う。今日はだいぶ無茶したもんな」
オクト「少し寝てスッキリしたわー」
  とオクト、伸びをして、
オクト「そういえば、交渉ってどうなったの?」
レイニー「うまくいったぜ」

19P
レイニー「24時間以内に組長のタマ取りゃいいんだと」
オクト「短ッ!?」
レイニー「ま、なんとかなるだろ」
  とレイニー、カラカラと笑う。
オクト「のん気ねぇ。でも嘆いてもしょうがないか」
レイニー「そゆこと。それじゃ」
レイニー&オクト「作戦実行とシャレ込みますか!」

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◯夜霧市内の道路(夜)
  リーネの超小型車が道路を走行中。

◯リーネの車・車内(夜)
  リーネ、運転しながら、
リーネ「レイニーさん、いないかなァ」

21P
リーネ(家でじっとしてろって言われたけど、そんなことできないよ)
  と屋根の上で、ガタンという音。
リーネ「ん? なんだろ?」

22P
  と突然、車がガタガタと振動。
リーネ「アワワワ……」

23P
  車のフロントガラスに映る、満点の星空。
リーネ「え? え?」

24・25P(見開き)
◯夜霧市・上空(夜)
  夜空に浮かぶ、リーネの車。眼下には街の灯り。屋根の上にはレイニーとオクトの影。
リーネ「ええ~ッ!?」

26P
  車の屋根に貼り付いたレイニーとオクト。
オクト「ダメだわ。寝起きで制御ガバガバ」
レイニー「ちょ、早くなんとかしろ!」
オクト「今集中してるから待って」
レイニー「どこでもいいから早くー!」

27P
  リーネの車、空から消える。

28・29P(見開き)
◯レイニーの隠れ家・居間(夜)
  居間にリーネの車が出現。テーブルを破壊。

30P
  レイニー、車の屋根から降りながら、
レイニー「えぇ……マジかー」
オクト「んー? どこでもいいんでしょ?(半ギレ)」
レイニー「いや、まあ……はい」
  レイニー、車の中を覗き込み、
レイニー「おーい。生きてるー?」

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  車の中で気絶したリーネ。
オクト「気ィ失っとる」
  ソファーに寝かされたリーネ、目を覚ます。
リーネ「ん」

32P
  リーネ、床に座るレイニーとオクトに気づく。
オクト「やっと起きた」
レイニー「よう。気分はどう?」
リーネ「うっ……うわあああん!」
  とリーネ、泣きながらレイニーに抱きつく。

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オクト「なんか思ってた反応と違う」
レイニー「拉致ったのに気まずいな」
  リーネ、泣き止み顔を上げる。
レイニー「落ち着いた?」
リーネ「はい。二人とも会いたかったですゥ。二人がいない間、大変だったんですよ。実は……」

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レイニー&オクト「あの子がブラッディ・ボマー!?」
リーネ「問題はそれだけじゃなくて」
レイニー「まだなんかあんの?」
リーネ「実は本部から通達があって、お二人に懸賞金がかけられました」
オクト「懸賞金? いくら?」

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リーネ「二人合わせて1200万ドル」
レイニー&オクト「ハァ!?」
リーネ「この金額だと、全国から殺し屋が集結し、お二人の命を狙うことになるそうです」
レイニー&オクト「な、なんだってー!?」

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◯夜霧市内の屋敷・医務室(夜)
  中年の医師(ヤギ亜人)がチマキの首輪を見ている。その様子を眺めるエマ。
エマ「どう?」
医師「こりゃ薬剤を打ち込む装置ですな。昔、精神病院で同じものをよく見ましたよ。たぶん外せるかな?」

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  エマ、チマキに向かって、
エマ「苦しいでしょ? おじちゃんに取ってもらいなさい」
チマキ「うーん。わかった」
医師「すぐにすむからね」
  チマキの首輪に近づく、医師の手。
N『夜霧市 壊滅まで、あと30秒』

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