2023/08/18

金魚には可哀想なことなんだけど、白点病に罹った尾鰭は冷える秋の日に霰の散った道路のような、面白味に欠けて顧みられることの少ない星系のような、どこか寂しい美しさがあって小学生だった私はいつもより数分は長く水槽に張り付いていた。メチレンブルーという濃紺の薬を水に溶かせば晴れた夜空のように暗い水を割って、奥の方から顔を覗かせる黒出目金や和蘭陀獅子頭は意思薄弱の惑星のようで、夕飯ができたと母が声をかけてくるまで肘掛けをパッチワークにした一人掛けソファは、私のための見晴らしのよい丘として直方体へ流し込まれた夜の対面に静まり返っていた。病気が原因ではなかったけど、金魚はたしかその夏全部死んだ。水槽の写真が一枚くらい残ってないかとも考えたけど、撮った記憶はない。実家は倉庫も居住スペースも取り壊してしまったから多分水槽もない。おそらく今日書かなかったら私が小学生六年生だった2010年に我が家に金魚がいたことはどこにも残らないだろう。もう一度金魚を飼いたいと思うけど、転勤と出張が多いこの仕事じゃね。だめだね。

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