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広島湾岸レットイットビー

忘れられないことがひとつ増えました。
9月24日に開催された広島湾岸トレイル(108km、D+6,900m)を走ってきた時のことです。

午前6時のスタートに合わせて、余裕を持って会場入り。と思っていたのは、自分だけですでに開会式が始まっていました。定員1,000人の大きな大会だから、そういう式典もあるよなあ、などと妙なところで納得していました。

思い返すと、これくらいの規模感の大会って最後に出たのはいつだろう。というか、100kmのレースって最後に走ったのはいつなんだっけ。記憶をたどると、どうやら5、6年前の模様。大会前に膝を痛めて失敗したレースでした。

思い返しても参考にならず。行けそうなペースで行こう。作戦は「Let It Be」です。それっぽく言ってみたものの、成り行きまかせなだけです、はい。

開会式が終わって、スタート直前になって気づきました。
寝起きから、ずっと同じシャツだと。着替えるのを忘れていました。
メリノウールの厚手のTシャツです。標高の高い山で能力を発揮してくれそうな厚い生地。この日走るのは広島市街からほど近い、背の低い山ばかり。すなわち、不向きです。
加えて、気温は30℃近くまで上がる予想が出ていました。

着心地がよいゆえに着替え忘れたのです。icebreakerの200オアシスSSクルー。

車に戻れば、薄手のタンクトップがあるものの、停めたのは2kmほど離れたコインパーキング。スタートまであと20分を切っています。迷ったものの、戻らずに待機。こんな人間なのに、招待選手なんですもの。スタート前にバタバタするの避けようという大人の判断です。

自分でもたらした状況は、すべて受け入れて走るだけです。Let It Beの精神を体現します。

スタートからしばらくは涼しい時間帯ということもあって順調。最初の20kmくらいは楽しく、のほほんと走っていたものの、途中から体に熱がこもるように。8月をヨーロッパで過ごしていたせいか、暑さ、湿気に弱くなっていました。そこにきてのTシャツです。自分で自分の首を絞めていました。

序盤は竹村選手と並走。ここだけで、すでにいい思い出ができました。

こもった熱気が形を変えて、口から飛び出てきそうな予感。これはマズい。リバースするわけにはいきません。
序盤にもかかわらず、川沿いのエイドで思い切って休憩。川に入って体を冷やします。リバースせずにリバーでドボン。

文字通り、不調を水に流してリスタート。気持ちは一新できたものの、それくらいで復活できるはずもなく、順調に内臓がやられていきます。

ほどなくして固形物を受け付けなくなる始末。エイドについても、混ぜごはんや天むすなどをスルーしなくてはなりません。ちょっと無理しておにぎりを食べたところ、こみ上げてくるものがありました。吐かないようにペースダウン。

やはり成り行きに任せた方がよかったようです。それ以降は、川を見つけては水を浴び、水道を見つけては体を濡らし。なりふり構わず進みます。

地面が友だちです。撮影:堀田志帆さん

そこからは、唯一食べられるゼリー、コーラとスポーツドリンクを燃料にして山を徘徊します。
半日も経つと、体のダメージを考えてリタイアも視野に入れようかなと弱気に。

それにしてもコンディションが崩れすぎでした。振り返ってみると、脚の状態がいまいちで、走り込めてなかったり、前日まで金沢ー九州ー広島と西日本を豪快に移動していたり。いつもなら、自分にとって都合のいい情報を抽出して、ゴールを目指すのですが、なんらいいところなしです。

これはまずい。弱気になり、次のエイドで本格的に検討しようと思い、トボトボ進んだ先で待っていたのは、大きな歓声。あれ、ここって自分の地元だったかな?と勘違いしそうになるくらいの応援でした。

黄色い声援で元気をもらいました。撮影:森下淳子さん

応援が嬉しくて、ついレースを続行。ヘロヘロによれながらエイドへ。また声援をいただく。以下、そのループ。走っているのか、なにかに走らされているのか。不思議な感覚のまま、気がつくとゴールまで辿り着けていました。

得難い経験のできた広島湾岸トレイル。台風の直後にも関わらず、きれいに整備されていたトレイルも、スタッフの笑顔も忘れられません。そして、なにより着替えは忘れてはいけません。

日付が変わる前にゴール。撮影:堀田志帆さん

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