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サッカー五輪代表のサッカー界内での位置づけ問題

今世論を見ていると、A代表より五輪代表のほうが好きという人がまあまあいるという状態である。今回の五輪代表に限らず、もともと「育成世代マニア」みたいな人も多いのだが、そういう見方に違和感を持っていたので、ここでまとめてしたためる。

サッカーの育成年代は「世代最強決定戦」ではない

「育成年代マニア」の方は、育成年代を甲子園のような「世代最強決定戦」であるかのように見ている人がいるように思えるが、それはサッカーにおいてはハッキリと間違いで、野球では甲子園等は「その年代で最強を決める大会」であるのに対して、サッカーでは「育成を主目的として大会は実戦形式の練習の場」に近い立場である。この性格の違いは、最近両スポーツで話題になった記事にも反映されている。

野球では、少年野球といえど「最強を決める戦い」であって大会の結果が重視され、スタメンが固定化され控えに回るとスポーツの楽しみを経験できない例が説明されていた。

一方、サッカーの育成では(現実的に勝利至上主義の監督が出現するとはいえ)名目上は全選手に試合を経験するチャンスを与えることが推奨されており、そのために同一クラブから大会に複数チームをエントリーさせることも多い。最近同一大学から複数チームが出場して移籍禁止ルールに引っかかったことがあったが、それ以前にも高校サッカーで選手と監督の軋轢があった際に同一高校からA、Bチーム出て反監督派のBチームが優勝したニュースがあった。

サッカー育成年代は自分のレベルと合う大会に出る

サッカー(の特に育成年代)では、基本的に選手のレベルが一致するように組み合わせた大会が複数展開されており、選手の側も自分のレベルに合わせて大会を選ぶ。

この手の仕組みでわかりやすいのはスペインの育成システムだろう。高校年代のユースチームは(人数に余裕があるところは)フベニルA~Cの3チームを置き、それぞれ18±1、17±1、16±1歳と高校の各学年に対応させる。高校年代は1年ごとにどんどん成長するので1~3年を一つのチームにしたら3年が中心で1年は試合に出られないので、1学年ごとにチームを作って同じレベルで試合をする仕組みである。

加えて、各学年が±1歳の幅を持たせているのも特徴である。このうち-1歳のほうは、要は1学年下でうまい選手が飛び級でレベルを合わせるためにある。と同時に、+1歳——つまり1学年上でも遅生まれの選手などが試合に出られないことがないよう、飛び級の逆、下げ級が行われることが推奨されているのである。これはレアルやバルサでもそうで、例えばメッシは身長の伸びが遅く、下げ級で1つ年下の体格が同じ選手と競って試合感覚を磨いたことで有名である。

五輪代表の「レベル」感

さて、以上のようにサッカー育成年代では「自分のレベルに合致する」大会に出るわけだが、五輪と言えどそのレベル付けがされている。五輪は裏にEURO(欧州選手権)があるので、A代表に選ばれるレベルの選手はそちらに行く。そうでなくてもCL/ELの予選から出るなら8月は予選の真っ最中で、日本でもリオ五輪では久保裕也がELの予選のため派遣が取りやめになっていた。

► A代表クラスの選手はA代表の試合を優先するので五輪には来ない
► CL/ELに出られるクラブのレギュラーならそちらを優先するので五輪には来ない

五輪代表はそのレベルの一つ下にある。つまり、代表級、CL/EL級の一流選手は23歳以下でも五輪代表からは「卒業」し、五輪は準一流あたりの選手が競うレベルの大会という位置づけになる。今回五輪でフランスと対戦するとしても、欧州選手権に出場しているエムバペが来る可能性は極めて低い。

もっとも、開催国だけは例外であり、リオ五輪の際にはブラジル協会がPSGに特別にお願いをしてネイマールをOAとして貸し出してもらっていた。日本でも吉田、酒井、遠藤や、あるいは移籍が噂される冨安や堂安が呼べているのは開催国だからである。日本もリオ五輪時は、OA枠に国際経験のないJリーグ選手が入り、U23選手でも海外組では招集拒否された選手もいた。

「卒業」者を出せる国であれば五輪に来る選手の質は「準一流」で揃いそう大きな差はなくなるので、どこがメダルを取ってもおかしくない。日本も東京五輪でなければU23から冨安や堂安は「卒業」していたであろう程度の選手層はあり、ロンドン五輪時は比較的当たり世代だった日韓のアジア2国が3位決定戦を戦っているし、東京五輪は開催されれば金メダルの可能性は十分ある。逆に言えば、五輪はその程度の水準である。

年代別代表は年齢層が限られどの国も選手層が薄い

ロンドン五輪では日韓が3位決定戦を戦った。その後、3位韓国は五輪代表がA代表にスライドするような形で世代交代したが、A代表時代に世界3位と言える実力を示したかと言えば、そうではない。それは五輪4位の日本にしても同じことである。ロンドン五輪代表でも後に20以上の代表キャップを得たのは6人にとどまり(それでも多いほう)、A代表の国際序列を覆すほどの影響はなかった。

なぜ五輪で活躍してもワールドカップで成績が良くならないかというと、一つは先ほど説明した通り五輪世代であっても五輪を経験せずに「卒業」している一流選手たちがいるので五輪優勝が世界一と結びついていない、ということが挙げられる。

そしてもう一つ、五輪代表は実質2学年分の代表(4年に1度だが、21歳と20歳は統計的に明らかに選ばれにくく実質22歳と23歳の代表という状態)で、ゆえに「当たり年」かそうでないかという偶然の要素の支配力が大きくなるという点も見逃せない。日本など人口が多い国では大数の法則で偶然の要素は小さくなるが、ポルトガルやベルギー程度の大きさの国ではこの効果は無視できない。

一方で、A代表は複数の年代の合体チームなので年代別では存在した実力のムラが均される。例えば、ベルギーの東京世代代表(U19欧州選手権2017、2018は予選落ち、2019メンバー)は2020年時点で目立った選手は少なく、今のOA入りの日本の東京五輪代表なら勝てると思えそうな相手だが、ベルギーのフル代表に勝てるかといえば全く別の話である。

U24は「伸びしろのある若手」ではない

さて、もう一つ東京五輪世代で気を付けるべきは、東京五輪代表の年齢が高く若手とは言えないという点である。OAまで加わったジャマイカ戦は満年齢の単純平均が24.3歳と、A代表でもたまに見るような年齢となっている。事実、今回のセルビア代表は若手を主に派遣してきて平均年齢が24歳を切っており、セルビアA代表より日本U24(OA入り)のほうが平均年齢が高いという状態であった。

両チームについては差がないものだとし、「U-23vsサムライブルーではなく、U-24とサムライブルー。この1年の差は大きい」と、世代別代表だとしても1年違えば全く違うとし、「他の代表チームは平均年齢がそれぐらいなんです」と通常の代表チームも20代半ばが平均年齢だとコメント。「弟でもなんでもない」と、“兄弟対決”と言われる中で、その差はないと語った。

海外移籍で若手枠として扱ってもらえるのは23歳までで、24歳はもう中堅の年齢である。Jリーグからブンデスリーガへの移籍は23歳までは青田枠として1部に直接買い取りがあるが、24歳になると大迫や乾のような実力者でも2部との契約で渡独となっている。

東京五輪代表は、A代表ですでに主力を張れる選手が5人程度入っているチームで、年齢層も比較的高いため、「数年後にはもっと成長しているに違いない将来性のあるチーム」というのとはやや様相が異なっている。

そもそも論として、東京五輪にはJFAもかなり力を入れており、五輪代表とA代表を兼任させて五輪年代の選手をA代表でも積極登用して、堂安は20そこそこ、冨安は10代のうちにA代表のエースとして定着している。今A代表の主力として定着していてないU24のメンバーは、単に実力不足で定着できていないというだけの話である。

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