【ナッシュ均衡】Champions League Group A MD2 パリ・サンジェルマン×マンチェスターシティ

 みなさん遅くなりました、CLアーカイブ企画Matchday2編です。今週にMatchday3を控えるなか、ようやく重すぎる腰を上げて書いてます。もはやプレビュー代わりにしてください。笑

スタメン

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 ホームのPSGは前節に引き続きメッシ・ネイマール・エンバペのMNMトリオがそろい踏み。怪我で戦線離脱していたヴェラッティが復帰し、エレーラ・ヴェラッティ・ゲイエの3センター。前節活躍短い時間ながら目立っていたヌーノ・メンデスがスタメンに入っています。そしてキーパーは意外にもCL初先発のドンナルンマ。ようやく役者が揃ってきた感じがします。

 一方のシティ。リーグ前節のチェルシー戦で見事な勝利を果たしたメンバーをベースにしており、DFラインと中盤には変更なし。FWのみ、中央がフォーデンに代わってスターリング、右がジェズスに代わってマフレズとなっています。


ナッシュ均衡

 この試合の状態を一言で表すならば、「ナッシュ均衡」だと思います。

ナッシュ均衡とは:全てのプレイヤーが、一定のルールのもと、自分の利得が最大となる最適な戦略を選択し合っている状態のことをいいます。
引用元 https://www.ipros.jp/technote/basic-game-theory3/


 シティの選択→相手を敵陣に押し込んで主導権を握りたい

 パリの選択→広いスペースでMNMトリオを暴れさせたい

 「押し込みたい」シティと、「背後にスペースを作りたい」パリの思惑がかみ合い、試合のほとんどがPSG陣内で進んでいくことになります。

 まずPSGの守備から見ていきます。前節のクルブ・ブルッヘ戦と比較してわかる大きな違いは「相手の前進を許容している」こと。1-4-3-3のフォーメーションのうち、MNMの3人は攻撃に集中してもらいたいので、主に守備で頑張るのは残りの1-4-3のひとたち。まず3センターで中央のパスルートをつぶしてシティの攻撃をサイドに誘導、しかし誘導してもサイドは基本的に数的不利の状態のため、IHはスライドしてプレスに出るのではなく、中央へのパスラインを塞ぎながら後退してシティを前進させ、狭いスペースでの勝負に持ち込む。一歩間違えば失点は免れないリスキーなプランですが、そこはDFラインとGKに頑張ってもらおう、ということでしょう。

 パリの守備を受けたシティの攻撃。相手は4-3ブロックということでスライドで横幅を全て埋めきることは理論上不可能。というわけで隙あらばサイドチェンジを発動します。左で組み立てれば右のマフレズへサイドチェンジ。右で組み立てれば左のグリーリッシュにサイドチェンジ。広いスペースで自慢のウインガーたちを躍動させにかかります。

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 このように書いてみれば一方的にシティがボール保持してそうな印象を受けると思いますが、前半のボール保持率は意外にもほぼイーブンでした(パリ48-52シティ、Sofascoreより)。理由はいくつかあります。

 一つはパリのボール保持能力が高いこと。特筆すべきは今節から復帰したヴェラッティ。彼の高いプレス耐性により、パリはセーフティに蹴り出すだけでなく、自陣深い位置からのビルドアップによって広いスペースでMNMトリオを活かそうとしていました。

 もう一つはシティのプレスに思い切りがないこと。MNMの3人に対して同数でマーカーを設定するのは流石にリスクが高すぎると判断したのか、DFラインは4人を残しておくことが多かったです。同数マークも厭わなかったリーグのチェルシー戦とは違ってガチガチにハメ切ることはできなかったので、ウイングの裏などを使われて前進されることも多かった印象です。


整理されてきたMNMトリオ

 話題のMNMトリオについて。ようやくお互いの共通理解が進んできたのか、特にボール保持の際のポジショニングはかなりすっきりしていた印象です。基準となるのはやはりメッシ。メッシ様と呼んでもいいかもしれない。右ウイングを主戦場としつつも、ふらふらと中央にポジションを移すメッシ様。そうなると空気を読むのが家来(?)のエンバペとネイマールです。メッシが中央に移れば入れ替わって幅を取るなど、家来としての役割を存分にこなしていました。

 この役割分担がはっきりしていなかった前節は、MNMトリオがひっきりなしに中盤まで降りてボールを受けに行くところを相手ディフェンダーに狩られてカウンターを受けることが多かったですが、今節はうってかわって、そのスペースはちゃんと中盤に使ってもらおうね!という意識が見えました。ブロックの間に顔を出したIHがワンタッチで相手ウイングの裏にいるウインガーに落としてドリブル突破、という形は再現性をもって見られたので、恐らくあらかじめ準備していた形だったと思います。

 そんな中で先制ゴールを奪ったのはパリ。カウンタープレスの流れからヴェラッティが2トップの間でフリーで前を向きます。無数の選択肢を持つヴェラッティに対してフリーズしてしまうシティの守備ブロック。エンバペの間受けから右大外に上がってきたハキミがフリー。ハキミから再びポケットに飛び込んだエンバペにパス。折り返しに合わせたネイマールのキックはミスになりますが、ルーズボールを上がってきたゲイエが叩き込みました。

 ポケットの攻略、逆サイドのIHがフィニッシュに絡むなど、4-4-2崩しのお手本のようなゴールでパリが先制します。


デブライネをめぐる駆け引き

 先制後もお互いの狙いが変わるわけではないので、大勢は変わらず。しかしシティは、30分ごろ、具体的にはヌーノメンデスの治療が行われていたタイミングから、デブライネとベルナルド・シルバが左右を入れ替えるようになります。

 恐らく攻守に理由があったとみられます。ボールサイドのIHが前に出て4-4-2のようなブロックを形成していたシティの守備ですが、この変化からは明示的にデブライネがトップ下の位置に入ってアンカーのヴェラッティを抑えに行きます。これで、苦しめられていたPSGの自陣からのビルドアップを抑えにかかります。

 また攻撃面では、上述の通りメッシが右ウイングから中央に流れてきたスペースで漂うため誰かが埋めない限りその位置は空いていることが多く、前進が容易になっていました。左で前進して右で刺す、をより先鋭化させるなら得点能力の高いデブライネを右に置いてフィニッシュに関与させようといったところでしょう。

 シティの狙いはしっかり効果を出しここからいくつもチャンスを作ります。しかし立ちふさがるのがドンナルンマ。チャンスの数はシティの方が多い前半でしたが、彼がしっかりシャットアウトして1-0でパリがリードしたまま試合は後半へ。

 後半、先制されているものの、試合全体としては狙った状態になっていたはずのシティなので、ペップは大きなテコ入れを入れてきていない印象でした。一方のパリ。前半途中からのデブライネとベルナルドのサイド交換を踏まえて、デブライネにIHのゲイエをべったりつける作戦に出ました。ゲイエはデブライネがDFラインに入り込もうとした際もマークを引き渡さずそのまま5バックを形成する徹底ぶり。

 デブライネへのパスがカットされてカウンターに繋がるシーンを受け、いちはやくパリの狙いを共有したシティは、この「マンマーク」を逆用して攻めるようになります。デブライネとマフレズの2人でゲイエとメンデスをピン留めして大外に上がってきたウォーカーにクロスを打たせる形、デブライネが遅れて上がってくることでゲイエがマークにつききらないうちにアーリークロス、デブライネの位置にマフレズが入ってマークを混乱させる、などなど、手を変え品を変えパリのブロックを崩しにかかります。

 後半のパリは自陣からの保持に固執せず、サイドやロングボールに逃げるケースが多くなり、前半と比較するとよりシティのボール保持率が上がり押し込むシーンが増えていました。ここでシティはグリーリッシュに替えてフォーデンを投入。敵陣に押し込めているので、より狭いスペースで効能を発揮してくれるフォーデンを投入したものとみられます。

 70分を過ぎ、少し試合がオープンになってきたところで追加点を決めたのはパリ。トランジションの流れから前線でボールを受けたムバッペがヒールで落とし、合わせたのはメッシ。パリ・サンジェルマンでの初ゴールを決めます。これぞメッシとも言えそうなキーパーのタイミングを外したシュートに、名手エデルソンも一歩も動けず。

 セーフティリードを得たパリは復帰初戦のヴェラッティに替えてワイナルドゥムを投入。ワイナルドゥムはインサイドハーフに入り、ゲイエがアンカーに。同じタイミングでシティもスターリングに替えてジェズスを投入。この交代で攻めに行きたいシティでしたが、チェルシー戦の疲れも残っているのかややプレスに行ききれないシーンが目立ち、むしろカウンターで危ういシーンを作ることも。

 パリはアディショナルタイムにこの日大活躍のゲイエに替えてダニーロペレイラを投入。ファウルも辞さないプレッシャーでシティの攻撃に耐え抜き、パリサンジェルマンの勝利で試合は終了。



 前節はまだまだチームビルディングの途上と思われたパリですが、シティという強大な相手を前にしてチームの役割整理が進み、今節は素晴らしい結果を得ることができました。一方で押し込まれすぎてしまっていたところもあり、決勝までこれをやりきることのリスクを考えると、もう少し自分たちの時間を作れる仕組みがあってもいいかもしれません。

 シティは内容はいいけど……な時間を90分過ごしていました。あれだけ押し込んでいて1点も取れず、それならトランジションの局面で、と思ったところでも独力突破ではなく減速して味方のサポートを待つシーンが多いなど、どうしてもセンターフォワードの頼りなさが目立ってしまっています。今後もシティ相手にこういうサッカーを選ぶ相手はあるでしょうから、そこでもう一声、ができる選手が求められそうです。



ちくわ(@ckwisb

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