【流行の4-2-3-1?】Champions League Group A MD1 クルブ・ブルッヘ×パリ・サンジェルマン

 こんにちは!前回記事で案内していたUEFA CL 2021-22アーカイブ化計画1本目の記事になります。今回は第1節、クルブ・ブルッヘとパリ・サンジェルマン(以下PSG)の一戦。


メンバー

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 ホームのクルブ・ブルッヘは、直近のリーグ戦から中4日(恐らくリーグ側の計らいで金曜夜開催)。そのため、スターターはほぼリーグ戦と変わらず。変更は、フォルメルとリッツのみ。

 一方、アウェイのPSGは今節ついにメッシ・エンバペ・ネイマールの3トップが出そろいました。GKは前節PSGでの初出場を果たしたドンナルンマに代わってナバス。最終ラインこそ前節のリーグ戦と変更はありませんでしたが、中盤から前はがらっとかえてきており、これがCLに向けた本気スタメン、ということなのかもしれません。


機能するブルッヘのカウンターサイクル

 実戦では初めての組み合わせということもあってか、CBがボールを持ってパスコースを探すシーンが多く、序盤からかなり手探り感のあったPSG。バックライン・中盤のビルドアップ隊は4-3の形を保ったまま相手の出方を探っていた印象です。

 対するクルブ・ブルッヘはこの形をしっかり頭に入れたうえで守備のオーガナイズを準備してきていたようです。PSGの4-3-3に対して、4-2-3-1で中盤を噛み合わせ、中央を埋める守備を徹底していました。

 キーマンとなっていたのは20番のファナケン。4-3-3から大きな変化を行わないPSGに対し、トップ下の位置でパレデスへのマークを基本としつつ、90番のデ・ケテラエルがCB間に立ってPSGの攻撃を方向付けした後に、ファナケンが相手の状況を見てパレデスを背中で消しながらCBに寄せていく、という手順でPSGの選択肢を限定。プレッシングのスイッチ役として機能していました。

 PSGは、新加入選手が合流間もなくチームの練度を高める時間が少なかったこともあってか、プレッシングをどう剥がすかについての方針が共有されているようには見えませんでした。相手のマンマークで中盤がなかなか前進に関与できないなか、その受け皿となっていたのが3トップの列落ちです。ただ、この列落ちについても、基本的にはアドリブの感が否めませんでした。幅を取って受ける"こともある"ネイマール・積極的に落ちてくるメッシ、という双方のプレーヤーとしての性向の差もあって、PSGの前進ルートは右に限定されていくことになります。

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 当然この応手もクルブ・ブルッヘは計算済みだったでしょう。落ちる動きに対して最終ラインがしっかりついていき前を向かせない、相手のパスがズレるなどスキが生まれれば奪ってカウンター、といった対応が徹底されていました。この試合で右CBのエンソキが記録したインターセプトは実に8回。いかにチームとして誘導、ボール奪取という狙いが機能していたのかが分かるスタッツとなっています。

 更にクルブ・ブルッヘが素晴らしかったのは、奪った後の同サイドの活用までしっかりサイクルがデザインされていた点です。メッシはやはり積極的なプレスバックを行うタイプではないため、奪った直後のPSGの右サイドにはスペースがありました。このスペースで10番のラングが躍動。

 中盤を噛み合わせて攻撃方向を誘導→落ちてくる3トップを潰して回収→そのまま同サイドでカウンター、というサイクルが機能し、試合はクルブ・ブルッヘのペースで進んでいました。

 しかし先制点を奪ったのはPSG。CBからサイドに流れていたエンバペにボールが通り、対面の77番マタをキックフェイントで剥がしてフリーでクロス。IHの位置から飛び込んできたエレーラのシュートが決まります。

 質の高さで強引に押し切った理不尽とも言えるようなゴールでPSGに先行を許しますが、クルブ・ブルッヘのゲームプランに迷いはありません。先制された後も愚直に上述のサイクルを回していました。その取り組みが結実し、同点ゴールが決まるのはPSGの先制から10分後。

 上述の形で列落ちの選手からボールを奪い、10番ノアラングがスペースを前進。前線のプレスバックが期待できないPSGの中盤は同数で対応せざるを得ず、大外を駆け上がった2番のソボルがフリーに。90番のケテラエルがCBのマークを引き受け、上がってきたファナケンがフィニッシュで同点。

 スコアこそ1-1でしたが、明確な狙いを表現しチャンスを作っていたのはクルブ・ブルッヘでした。対するPSG、メッシのコントロールショットがポストを叩いたシーンなどアドリブが繋がればチャンスは作れるのですが、まだコンディションが上がっていないのかトランジションの反応などに遅れがありなかなか自分たちのペースに試合を引き込めません。


途上のPSG

 前半の出来をよしとしないPSG・ポチェッティーノ監督はハーフタイムでいきなり2枚の交代カードを切ります。ワイナルドゥム→ドラクスラー、パレデス→ダニーロ・ペレイラ。

 このメンバーチェンジとともに、PSGは攻守において2つの変更を施しました。一つは攻撃時の3バック変換。前半もパレデスの列落ちによる3バック変換はやったりやらなかったりで、"相手のプレスに対するアドリブの応手"といった趣でしたが、後半からアンカーに入ったペレイラは最終ラインのボール回しにおいてはっきりCBの間に落ちる動きを取るようになりました。クルブ・ブルッヘのプレスの基準点をずらし、かつSBを高い位置に置くことでサイド攻撃の効率を上げたい狙いがあったと見られます。

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 もう一つは守備時のポジショニング。トランジションにおけるメッシの振る舞いによって少し中途半端になっていた自陣守備について、3センターがスライドで埋めてボールサイドのブロックを作る動きがより鮮明になりました。これで自陣で人が足らない状況を解消しバランスを改善する狙いがあったとみられます。

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 ただこの変化はPSGに対してポジティブな影響をもたらしませんでした。恐らくPSGの3バック変換がクルブ・ブルッヘの守備コンセプトに影響を与えていなかったからです。デ・ケテラエルによる方向付け、ファナケンがペレイラに対してプレスのスイッチを入れる、中盤はかみ合っておりパスコースは消せている、という形で前半と同じ判断基準で守備が行えていました。

 PSGとしては相手が捨てている大外の効率を上げていきたかったはずですが、右は新加入のハキミとメッシでなかなか息の合ったプレーができず、左SBのディアロは本職がCBということもあって相手を脅かす仕掛けがほとんどみられないためなかなか機能しません。

 また守備においても、メッシを含めた2トップではなかなかミドルプレスを機能させることができず、フリーでボールを持てるクルブ・ブルッヘの最終ラインにクリティカルなパスを通すことを許していました。また、ブロック守備に移行した後の守備練度も高いとは言えず、間を使われて被決定機を招くシーンが散見しました。

 そんな中、PSGはエンバペの負傷交代によってさらに動くことを余儀なくされます。代わって投入されたのはイカルディ。その後、PSGはメッシをトップ下に置く4-3-1-2のような形に変化。以降、度重なるフォーメーションの変更もあってお互いにチームとしてどこに再現性を見出すかを共有できないのかややゲームは停滞、以降は個人の輝きがフォーカスされる時間帯になっていきました。

 クルブ・ブルッヘで目立っていたのはトップに入ったデ・ケテラエル。192cmで左利き、まだ20歳の若手、と夢要素が満載のプレーヤー。広い懐を活かしたポストプレーがうまく、マルキーニョスやキンペンベといったトップレベルのCBを相手に、最終ラインからのロングボールを収めて前を向いた味方を使うプレーを何度も成功させていました。そして前を向いた際に牙を向くのが10番のノア・ラング。得点こそありませんでしたが軽快な動きでホームのサポーターを沸かせていました。

 PSGも、ネイマール→メッシ→ネイマールのような往年のコンビネーションプレーが炸裂した時には少ない人数でも決定機を作ることができていました。しかし、経験豊富なGKミニョレをはじめとしたクルブ・ブルッヘの守備陣は、ジャイアント・キリングを望むサポーターの強力な後押しもあり集中した守備でゴールを割らせません。時間が経つにつれコンビネーション・プレーへの依存度が上がっていくPSGは、中央に多くの選手が集まり使えるスペースがない状態に。

 そこでポチェッティーノ監督は左SBのディアロに替えてこれまた新加入のヌーノ・メンデスを投入。ディアロと比較するとよりサイドプレーヤー然とした特性を持つメンデス。投入直後から、彼の「大外で仕掛けて突破→クロス」という形からのチャンスが目立つようになります。彼の突破を活かすため、PSGはダニーロ・ペレイラを右CBに置いた5-2-3の形に変化し、メンデスを高い位置で躍動させることに集中します。

 クルブ・ブルッヘはゲームプランが当たっていたこともあってか、バランスを崩すリスクのある選手交代に踏み切れません。そのためプレスに出ることができず、PSGに押し込まれる展開となりました。そこで、蹂躙されつつあったワイドのケアのために、最終盤は割り切ってアンカーを落とした5バックに変化。交代カードを切らなかったこともあってか、この試合のアディショナルタイムはわずかに2分。辛抱強く守り切ったクルブ・ブルッヘ。結果は1-1の引き分けでしたが、選手の顔は明るく、サポーターはまるで勝利したかのような大歓声を上げていました。

 

4-2-3-1は「強者」対策の定石?

 さて、せっかくアーカイブに残す!ということなので、最後に時代性を切り取れるような()トピックを残しておきたいと思います。

 この試合で気になったのはやはりクラブ・ブルッヘの守備→カウンターのサイクル。PSGの中盤の逆三角形に人を噛み合わせることで攻撃ルートを限定してボールを奪い、奪った後は薄くなっている同サイドで攻め切るというサイクルが機能していました。

 このやり方について自分が良いな、と思ったのは、
 ・攻める側に「変化」を強要すること
 ・「変化」のパターンを限定でき、その応手までをデザインできること

 だと思います。

 PSGのような「強者」たるクラブの標準フォーメーションとなっている4-3-3。フォーメーションは電話番号、のくだりは一旦置いといて、各レーンにバランスよく人を配置でき、突出した個を活かすのであれば一番この形が自然だからこそ「強者」はスターターにこの並びを採用している、という現状があると思います。

 そんな4-3-3に対して、各レーンに人を確保する5-4-1、そこからさらにカウンターの圧力を高める5-3-2などのオーガナイズが用いられることがあると思います。これらのオーガナイズは、最終ラインで無理がきくものの、相手にゴール近くでのプレーを許す場合、相手のプレー分岐を想定しきることができず、攻撃までの応手をデザインするのが難しいように思います。

 4-2-3-1はそれらと比較するとビルドアップの局面で相手の選択肢を限定しやすいのが強みだと思います。ビルドアップの局面で相手を限定できれば、今回のクルブ・ブルッヘのように、列落ちという変化を想定、その応手としての潰しとカウンター、という形で一連のゲームプランのデザインがしやすい。4-2-3-1、今後も「強者」対策としての地位を築いていきそうです。


 PSGは、まだチームとしての練度が低く、「応手の応手」までたどり着くのに時間がかかってしまい今節のような結果になったと思われます。ヌーノ・メンデスの起用など今後に繋がる光明も見えたため、次はどのような応手を準備するのか、また、マンチェスター・シティのような自分たちと比肩するような強者と相対する場合にどのようなオーガナイズを持ち込むのか、今後も注目していきたいと思います。



ちくわ(@ckwisb

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