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【5月号 映画コラム】「新しい生活様式」のヒントを知れる映画

 映画の劇場公開も遠のく新型コロナウイルス禍の最中、感染者が減少して対策を緩めることができる地域に「新しい生活様式」を求める動きがある。新たな様式への転換で、ウイルス感染や拡大の予防をすることが目的で、政府の提示した具体案では「食事ではおしゃべりを控えて」とか「名刺交換はオンラインで」とか、急に移行するには難しそうな提案もチラホラ…。だが、この未曾有の現象を経験している以上、すべてが元通りというわけにはいかないだろう。
 そこで、「新しい」といってもいろんな新しさのある生活様式をまずは映画から学ぼう、ということで、新しい生活様式を知れる、またはそのヒントを与えてくれる映画を、テレビブロスの映画ライター陣がご紹介! 将来、もしかしたら推奨されるかも?


かなり切ないバーチャル恋愛映画
『her/世界でひとつの彼女』

文/折田千鶴子(映画ライター)

 先ごろ『ジョーカー』でさらに株を上げた性格俳優ホアキン・フェニックスが、ウブな純情男を熱演。なんと、彼が恋する相手は、人工知能。一見、アホくさっ、と思えるかもしれないが、これがどうして実に切ない。

 離婚調停中の妻に未練タラタラのセオドアは、自分のPCに最新OSをインストール。聞こえて来たのは、機械音とは思えぬセクシーな声。 “サマンサ”という名のOSは、セオドアの好みや嗜好を学習する機能も備え、ちょっとした会話にユーモアも交えはじめる。セオドアはどんどん、実体のないサマンサに惹かれていく――。

 今や我々の大多数が「目覚まし」や「辞書」など「軽い相談相手」として“Siri”等々を利用しているゆえ、’14年の公開時以上に共感する人が多いかもしれない。恋愛相手に何を求めるか、人間の関係性に何を求めるかなど、普遍的な人間の愛情や感情も含め色々考えさせられるが、独りで心が砂漠化するより、“バーチャル恋愛”は大いにアリだろう。但し、その特性を理解していないと、一途すぎるセオドアのように深手を負う羽目になるので、ご注意を。ちなみにサマンサ役スカーレット・ヨハンソンの、ハスキーボイスの魅力は、とにかく絶大!!

<プロフィール>
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。


なるだけゼロに身を置く日々を
『精神0』

文/森直人(映画ライター)

 行きつけの店が開いていない。経済破綻のことを考えると不安に苛まれる。映画館が閉まっているのはひたすら悲しい。だが良いこともある。物を買うことが減った。お急ぎ便じゃなくても問題なし。仕事も余計な電話やメールが来ない。必要な人たちと、必要なぶんだけコミュニケーション。小学校に行けない息子と公文式のプリントに取り組みながら、意外と穏やかに日々を過ごしている。

 新型コロナウイルス禍での自粛生活の中、素敵な新作が公開されている。デジタル配信「仮設の映画館」で観ることのできる、想田和弘監督のドキュメンタリーシリーズ「観察映画」の第9弾だ。『精神』(’08年)から約10年後、岡山で診療を続けられていた精神科医の山本昌知先生が引退される運びに。冒頭シーンで「今日は0(ゼロ)に身を置く日」という話が出る。「0」というキーワードこそ本作の主題であり、新しい生活のヒントだろう。せわしない社会の喧噪から離れ、ここで示されるのはミニマムな人間と人間の関係だ。とりわけ「手をつなぐ」ショットの意味、肌の温もりは、“接触”が禁じられているコロナ禍だからこそ強いメッセージを持つものになった。

<プロフィール>
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。


どんな状況にも適応する人間のしたたかさ
『パーフェクト・センス』

文/渡辺麻紀(映画ライター)

 新型コロナに感染した場合、味覚や臭覚に異常をきたすことがあるらしい……なんて話を聞くと、ついつい思い出してしまうのがデヴィッド・マッケンジー監督の『パーフェクト・センス』。
 謎の感染症が世界に蔓延し始める。その病は、まず人間から臭覚をなくし、続いて味覚、そして聴覚と、人間の五感を次々と奪って行くのだ。そのとき果たして人類はどうするのか? 臭覚がなくなれば想像力でそれを補い、味覚がなくなれば形状や舌触りで楽しみ、聴覚が失われれば手話を使ってコミュニケーションをとり、楽器の振動に身をゆだねてみる。確かに事態はどんどん悪化して行くものの、それでも状況に順応して生きるだけではなく、楽しもうとさえするのだ。

 つまり、人間って強くてしたたかってこと。『家族ゲーム』のような食事スタイルを推奨されてもヤだし、マスクをずっとつけなきゃいけないのもウザく、テレワークも不自由だけど、そういう中にもきっと、楽しみを見つけ出せちゃうんですよ、私たちは。

<プロフィール>
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。

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