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スーパーミルクちゃんの生みの親・田中秀幸氏にインタビュー

 スーパーラヴァーズ、スーパーミルクちゃん、ウゴウゴルーガをはじめ、ブロス読者ならひと目見ればピンと来る、個性的なグラフィックを生み出してきたアートディレクターの田中秀幸さん。今月10日より『1998 Hideyuki Tanaka Exhibition 2020』と題して渋谷フクラス1F にあるshibuya-sanで個展を開催しています。そのネーミングは、まさに田中さんの独特な世界観が世に広まった90年代後半がテーマ。

 期間中の10月15日には、会場にて田中秀幸さんと「平成レトロ」を提唱する平成文化研究家の山下メロさんとのトークイベントも開催予定(インターネット配信あり)。今回はイベントに先駆け、メロさん自ら田中さんにインタビューを敢行。個展に関するお話や、ブロスとのご縁について伺ってきました!

文/山下メロ

『1998 Hideyuki Tanaka Exhibition 2020』
90年代に個性的なグラフィックで注目を集め、現在も活躍し続ける田中秀幸が、自身初となる新作中心の作品展を開催。展示内容は1998年頃の未発表作品をもとにした新作イラスト、そして1998年から現在までに手がけたアイテムの現物。
shibuya-san特設コーナーおよび「SUZURI」サイト内で購入できるグッズを販売。 shibuya-san会場内に展示する作品キャプションに設置してあるQRコードで「SUZURI」内のグッズ販売ページにアクセスすると、その場でグッズを購入可能に。
2020年10月10日(土)~10月25日(日)
会場:東京都 渋谷フクラス shibuya-san tourist information & art center
時間:11:00~20:00(入場は閉場の30分前まで)
料金:無料

 shibuya-san LIVE and online/田中秀幸×山下メロ トークライブ
10月15日(木)19:30~20:30
参加料:無料
定 員:15名(予約終了)/YouTube LIVEにより同時配信
配信URL:https://www.youtube.com/channel/UC1iQNWOStNbUNp5LM5b3naQ?view_as=subscriber


依頼されたものではない、新作をつくりたい

山下:田中さんとテレビブロスとは、実は古いお付き合いだとか。どんなご縁だったんですか?

田中:『OH!スーパーミルクチャン』(*)の特集を組んでもらったり、電気グルーヴの連載の題字を描いたりしました。当時はテレビ文化が成熟していましたし、面白い雑誌だったのでけっこう読んでいました。
*1998年にスタートしたアニメ『スーパーミルクちゃん』の後継番組。どちらも田中さんが原案・監督・デザインを担当した。

山下:まさに田中さんは90年代からテレビの仕事をたくさんされてますよね。

田中:そうですね。『サタ☆スマ』(*A)、『ココリコミラクルタイプ』(*B)、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』など、番組のセットや衣装、企画などたくさんの仕事をしていました。今回の個展では、過去に手がけた番組関連グッズの現物も展示しています。
*A 1998年から2002年にかけてフジテレビ系列で放送された、当時SMAPだった中居正広と香取慎吾によるバラエティー番組。香取扮する「慎吾ママ」が大人気となりCDやグッズが発売。コーナーで使われた「おっはー」は流行語大賞に選ばれた。田中さんはキャラクターデザイン、セットデザイン、オープニングアニメを担当。
*B 2001年から2007年にかけてフジテレビ系列で放送。ココリコ、松下由樹、坂井真紀、八嶋智人などによる再現コントで構成されたバラエティー番組。田中さんはキャラクターデザイン、オープニングアニメーション、CGデザインを担当。


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田中さんが手がけた『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』のフィギュア。馴染みのある番組デザインがパッケージに落とし込まれている。

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『サタ★スマ』の人気コーナー「慎吾ママ」のCDと「少年頭脳カトリ」のDVDのデザインも田中さんによるもの。

山下:今回のイベントのタイトルですが、「1998」にはどんな意味があるんですか?

田中:1998年あたりというのが、ちょうど篠原ともえの仕事(*)をしていたり、最初の『スーパーミルクちゃん』が放映されたり、自分の作品が世の中に出始めた時期なんです。その頃のことを思い出して原点回帰しようと。
*この頃に大ブレイクを果たした歌手篠原ともえのCDジャケットなど。1996年のセカンドシングル「やる気センセーション」から田中さんが担当した。

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山下:今回の個展は、原点回帰のために企画されたんですか?

田中:個展自体が約15年ぶりなんです。これまでは、仕事で作ったものの展示ばかりでした。今回のように展示に合わせて新作を描き下ろした形の個展は初めてかもしれません。誰かに依頼されたものではない、完全な新作をつくるモチベーションにしたいという思いがありました。あとは「個展をやらないんですか?」と色々な人から言われていたというのもあります。

山下:新作の展示は初めてなんですね。それは意外でした。

田中:これまでは依頼されて作るものばかりでした。依頼とは関係なく描いていたラフスケッチやアイデアスケッチは大量にあるのですが、それらを最後まで完成させて人前に出すということはなかったんです。
今回の展示に出す新作も、そのような1998年頃のアイデアスケッチを元に描いています。

山下:自発的に作ったものはまったくなかったんですか?

田中:ゼロではないです。たとえば「スーパーミルクチャン」なんかは、もともと自分が作りたくて作ったものでした。ただ「こういう枠があるから何か作って欲しい」といった形で依頼を受けていて、厳密に言うと、完全に自発的とは言えないのです。「自由に作ってください」という依頼は多いんですけども、基本的にはもらった仕事という形ですね。

山下:たとえばお仕事を始められる前に、PR用の作品サンプルを作ったことは?

田中:それがなかったんですね。私はサラリーマンとしてデザインの仕事をしていた時期に、芝浦GOLD(*A)でVJをやっていたんです。Amigaというパソコンを持ち込んでCGを使ったVJという、当時では珍しいことをやっていました。それが噂になって、テレビ番組『ウゴウゴルーガ』(*B)の立ち上げに声がかかったのです。そんな感じでしたので、サンプルを作ることもなく仕事が始まっていったんです。
*A 1989年から1995年まで営業していたディスコ・クラブ。1990年代のクラブシーン黎明期におけるターニングポイント的存在。
*B 1992年から1994年にかけてフジテレビ系列で放送された子ども向けバラエティー番組。CGアニメーションの実験的要素や気鋭のクリエイターや渋谷系ミュージシャンの起用から、今も語り継がれる伝説的子ども番組。

山下:では、学生時代などはどうだったんでしょうか?

田中:美大生の頃は課題で作品を作っていました。もともと子どものころから絵を描くことが好きで、学生時代も通して色々と自発的には作っていました。だけど個展を開催するわけではないし、当時はインターネットもありませんでしたから、個人が作品を発表するというのは今ほど容易ではなかったんです。

山下:なるほど、自発的に新作を作っていたけど、それで個展を開くことは本当に今回が初なんですね。

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今回の展示のために1998年頃のスケッチをもとに書き下ろした新作の一部。

自分の作家性が分からなくなっていた

山下:最初に「1998年ごろへの回帰」というおっしゃっていましたが、なぜ2020年の今、回帰しようと思われたんですか?

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