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爽やかな苦味を覚えていて

はじめに。

この記事はひいらぎさん主催の「おすすめCDアドベントカレンダー2022」24日目の記事となっております。他の方の作品はこちらよりご覧いただけますので合わせてどうぞ。

5作目です!(おかしい)
やりたい放題な記事を寛容な心で見てくださった皆さんや許容してくれた主催者のひいらぎさんには頭が上がりません。足を向けて寝られません。本当にありがとうございます……

淡い空色に鮮やかながらもどこか郷愁的な荒さのある緑と黄色で描かれたそれは、今や彼を代表する1曲となっている。9thシングルである「Lemon」は、TBS系ドラマ「アンナチュラル」の主題歌として書き下ろされ、ドラマ人気と共に大ヒットした、言わずと知れた名曲。

今回の記事ではその表題曲について書かせていただきたいと思う。

Lemon

1―Lemon
2―クランベリーとパンケーキ
3―Paper Flower

レモン、と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか。

単純に果物としてのレモンであったり、そこから連想して爽やかな香りや酸味を思い出したり、はたまた文学作品としての「檸檬(著:梶井基次郎)」を思い浮かべたりと様々だろうけれど、やはり果物がポピュラーだと思う。




表題曲と同じ綴りの、「Lemon」というスラングがある。

レモンは見た目は綺麗で腐っていなさそうに見えても、実際食べてみるととても酸っぱく、 見た目は良いが中身は腐っていると判断されてしまうことから、外見では分からない欠陥品という意味がついてしまったそうだ。

主にアメリカでは「欠陥品」「オンボロ車」など、物に対して使用され、 一方イギリスでは「馬鹿」「ふざけた奴」など人に対して使うらしい。「like a lemon」だと「出来損ない」「役立たず」を意味したり、「Do me a lemon」では「冗談でしょ?」という意味になったりするようだ。

レモンが好きな私としては少し心苦しくもあるのだけど、言われてみれば確かに「レモンめっちゃ好きです!毎日食べてます!」みたいな人は中々いないから妥当の評価なんだろうな、とも思う。




美しい見た目とは裏腹に酸味の強い果物であるレモンを曲名にしているのだから、甘酸っぱいような歌詞や曲調なのかと思えばそうではない。

そもそも歌詞で酸味について言及など全くされておらず、レモンの形容詞として登場するのは「苦い」という言葉。
確かにレモンには苦味もあるけれど、あえてポピュラーなイメージの酸味を形容するのでなく苦味を選ぶあたりが彼が作る「大衆音楽」の中に隠された「大衆的ではない部分」をひしひしと感じさせる。


レモンをスラングとしての「外側だけ綺麗に取り繕ったよくないもの」と解釈するなら、この歌詞はどうなるだろう。

言えずに隠してた昏い過去も
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま

どうやらこの曲の主人公である「私」は何か後ろ暗い過去を抱えていて、それを今までずっと言えないままだったようだ。
きっと周りにはそんなことを悟られないように過ごしていたのだろうと思うと、「私」こそがレモンなのではないかとも思う。


レモンは酸味あってこそ成り立つものであるはずなのに、香りや見た目だけで勝手に判断されて勝手に嫌われてしまうのは不憫なものだなと感じてしまう。

曲中の「私」をレモンと解釈できる部分がもうひとつ。

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
その全てを愛してた

悲しくて苦しい思いをした過去を全て愛していたとまで豪語するサビのフレーズ。
この過去、いわば内面を自分自身で許容して愛することが出来ているからこそ、周りに気付かれないよう繕っていたであろう外面とのちぐはぐさが際立って「レモン」らしさが感じられる。

それにしたって辛い過去を「愛していた」とまで断言するのは強すぎる。それがあってこそ今の自分があるからか、それともそうでもしないと自分を許せなかったりするからなのか。このあたりはなんとなく「米津玄師」の色が強く出ている気がする。

マイナー…というか、文章としてしっかりと認識すると重くて暗い言葉も彼の音楽の中では等しくさらっと聴けてしまって、それがないとどこかのっぺりとしてしまうような一種のエッセンスのようにも思えた。




もはや言わずと知れた名曲となったけれど、だからこそ深く考えると多くの人が見落としてきた発見があったりする。

これを機に「大衆音楽」に括られてしまったこの曲を改めて聴いてみてほしいな、なんて思う。

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