見出し画像

子牛はおっぱいから免疫を獲得する話


こんにちは。
上の山放牧場で牛を放牧している渡邊強です。

まさか「おっぱい」というワードに釣られて、この記事を見ている方は少ないと思いますが、
断腸の思いでこのタイトルに決めました。

今日は大真面目に、
産まれた子牛がどうやって免疫を獲得するのか
について、書いていこうと思います。
その仕組っていうのがめっっっちゃ面白いんですよ!

ちなみに、
前回は牛の分娩について書きました。
分娩は待ったなしの世界。でもその分、嬉しさもこみ上げてくる。よかったら見てみてください。

そして牛にとって免疫の獲得も時間との戦いなのだ。

さて、本題。
分娩が終わり、無事産まれてようやく安心。
深夜だったら、すぐにベットで眠りこけたいのですが、実はまだ仕事はいくつか残っているんです。

そのうちの一つが
「産まれてきた子牛に免疫を獲得させる」
という超大事な仕事。

実は子牛は免疫抗体をほとんど持っていない状態で産まれます。
つまり病気に対する抵抗力が無いという事。
人間の場合、胎内にいる時に母親から抗体をもらうそうですが、牛にその仕組みはありません。

じゃあ、どうやって免疫を獲得するのか。
ワクチンでも打つのかというと違います。

免疫は母牛の初乳から獲得するんです!(産んだ後の乳を初乳と言う)

初乳には、高栄養なだけでなく、様々な免疫成分が含まれていて、子牛にとって重要なもの。
絶対に摂取しないといけないものなんです。

さらに面白いのが、
この免疫を子牛が吸収できる時間にはリミットがあって、生後24時間で吸収力がなくなってしまう事。
マリオで言うところの、スターを取った状態みたいなもんです?
まさにゴールデンタイム。

そして生後6時間だと吸収力は半減。母乳も24時間を過ぎると、免疫成分が少なくなると言われています。

このタイミングでしっかり免疫を獲得しないと、肺炎や下痢の感染で命を落としやすくなるんです。


この免疫をしっかり吸収してもらえるようにするのが僕の仕事。
分娩だけじゃなくて、産まれてからも時間との戦い、というのはこういう事なんです。

普通の子牛であれば、すぐに立ち上がって本能的に母牛の乳に向かう。
だけど中には、
虚弱で立つのに時間がかかる子牛、
育児放棄で乳を吸わせてもらえない子牛、
そもそも母乳が少ない母牛だっています。

生き物だから様々な個体がいるのは仕方がない
事。
放っておくとドンドン子牛は弱る一方。
自然界なら淘汰されて終了ですが、人が管理する牛はそうはいきません。

そんな時に使うのが、初乳製剤と呼ばれる粉ミルク。
これには免疫成分が含まれていて、高いもので1袋4000円もします。

1食分(500ml)高すぎだろ…..って思うけど、これを飲ませるか飲ませないかで、後の治療費や成長に影響を与える事を考えると安いものです。そしてリッチでデリシャスな香りがします。マジで。

これを哺乳欲のある子牛には哺乳瓶で、
ある程度の時間が経っても、哺乳欲が無い子牛には「ストマックチューブ」と呼ばれる器具で胃に直接流し込みます。

ストマックチューブ


年々デリケートになっていく和牛。
今では正常に産まれた牛にも必ず給与する初乳製剤。(しかも2袋)

そうして初乳の給与が完了して、一段落。
ここで分娩に関わる仕事は終わり、僕もベットで寝れるわけです。

いかがだったでしょうか?
免疫の獲得って生き物によって違うし、タイムリミットがあるって面白いですよね。

では。

p.s 産後に親牛のおっぱいを触るとブチギレられる。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?