見出し画像

いつも僕が分娩の投稿をする理由。当たり前に産まれる分娩の裏側。

牛の分娩

2月21日深夜1時。
風呂から上がり、さっぱりした気分で歯磨きをしながら牛舎を覗くと、わずかに尻尾を上げて落ち着かない母牛の姿が目に映った。

分娩だ。

分娩予定日から12日過ぎた母牛にゆる~い陣痛がきた。
早い牛なら1、2時間。遅くても6時間以内には産まれる。

そこから1時間置きに分娩の経過を観察をするため、アラームをセット。寝過ごさないようにスヌーズも忘れずに。
牛舎と自宅を往復。

外は寒いし、布団から出る度に相当気合いがいるけど、唯一の救いは、玄関の戸を開けると猫が出迎えに来てくれる事だ。


わざわざ家に戻る理由は、ずっと牛の側にいると牛自身が人を気にして分娩に集中できなくなるから。
人と一緒で、誰だってトイレしているところをマジマジ見られたくはないでしょ?それと一緒です。多分笑
この例えあってるのかな?

まあ、とにかく牛も結構デリケートなんです!!

夜が明けて、
6時前にようやく子牛の足が陰部から出てきた。
この母牛にしては経過が遅いな、という印象。

6時半、頭は見えてきたけど、中々出てこない。
いつもなら楽に産む母牛が今回は時間がかかっているので、心配になり子牛を引っ張ることに。


7時、無事に分娩完了。
かなり大きい雄。子牛は30キロが正常な体重だけど、今回の子は50キロは超えてたと思う。
すぐに呼吸をし始めたので一安心でした。

これが先日の分娩です。


僕が毎回SNSにアップしている分娩の様子。
多分いつも見ているほとんどの人は最初に抱いていた
「わぁ!産まれてる!すごい!!」
という感動も薄れ、
「あぁ、また産まれたのか」と当たり前のように思っている人も少なくないと思う。

でもこの”当たり前”のように産まれるって、実は全然”当たり前”じゃないんです。

ハッキリ言って問題ばかり笑

今日はそんな分娩について書いていこうと思います。

親子ともに命がけのイベント

はじめに
実は分娩の時に死んでしまう牛は少なくない。

例えば

過大児や産道が狭くて出てこれず、臍の緒が先に切れて子牛が窒息。
胎児が正常な体位で来ないまま、産道で引っかかり何時間も気づかずダメになる。
やっと産まれても羊水が気道に詰まって呼吸できない。
子宮捻転、胎盤剥離……

他にもあるけど、どれも珍しい事ではないんです。
どの分娩にも起こる可能性がある話。


分娩はまさに親子命がけのイベント。

そしてそれをサポートするのが人の役割。
だから事故を少しでも減らすために、牛の様子を注意深く観察して、異常があればいち早く対処するようにしています。

一定の時間を過ぎても破水しない、とか
分娩が進まないと思って産道に手を入れて見たら体位がおかしかった、とか
胎児より先に胎盤が出てきてねぇか?とか
経過は遅いけど正常に産道に乗っているからもう少し様子を見よう、とか。

胎児を引っ張る事、一つにしたって色々ある。
足にチェーンをかける位置。引っ張る向き。タイミング。
細かい事を挙げればキリがないけど、
技術と知識、経験が必要になってくる。

なにが起きるか分からないから分娩の時は気が抜けないし、いつも緊張が走る。
ちゃんと対処すれば、ほとんど問題ないんだけどね。その“ちゃんと”が難しいし、ベテランの農家さんでさえ想定外の事態に失敗する事がある。

そして子牛が産まれ、呼吸を始てようやく肩の荷が降りる。

分娩は常に時間との戦いで、待ったなしの世界。

当たり前のように見えている分娩の裏では、実はそんな事が起きてます。


そういう事を乗り越え、子牛が無事に産まれた時には、嬉しくて「産まれたよ!」とついついSNSにアップしちゃうんです。
羊水でベトベトの手のまま。
(その後ちゃんとスマホは消毒します笑)



ここまで読んできて、動物の分娩に人が介入するのに違和感がある人もいると思います。何事も自然に自力で産むっていうのは野生動物にしてみればそうかもしれない。
もちろん自然に産まれる時も多いし、そういう牛は超楽。(そういう牛はケツがでかい)

ただ、牛を飼うことを生業とする限り、救える命は全力で救わないといけないし、
僕らの仕事は牛の命を生かす事でもあると思う

それ以上でもそれ以下でもないんだと思います。


というところで、いかがでしょうか?

いつも僕の分娩投稿を見ている人に、「強も頑張ってんだな」って思ってほしいがために書いてみました。
違いました。嘘です。ごめんなさい。
(そして一番頑張ってるのは間違いなく母牛です)

何気なく今まで見ていた分娩の裏では、こんな事があるんだな、とちょっとでも伝わってもらえると嬉しいです!!

実は産まれた後だって同じぐらい気が抜けないんですけどね!

ではこの辺で!

あ!あと、
先日産まれた牛の分娩経過、まとめてみました。
記録として残します。

2:00 陣痛の強さ変わらず
3:00 陣痛強くなる。
4:30 ねむい。
5:30 二次破水確認。
6:00 胎児の足確認。デカいやんけ。
6:50 ベテランの母牛にしては経過が遅いので胎児を引っ張る。全然出てこなくて焦る。
7:00 7時に市内に流れる時報とともに爆誕。
ケツのデカい牛は子牛が大きくても大丈夫だったから正義。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?