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【詩の森】634 生きもの時間

生きもの時間
 
猫派や犬派
という言葉があるほど
世に猫好きや犬好きは多いが
昆虫好きで殊に
蝶には目がないという人もいるだろう
そうかと思うと
僕のような鳥好きも一定数はいて
バランスがとれている
言葉の分からない動物にも
僕らがシンパシーを抱く理由は
どこにあるのだろう
進化の途中で枝分かれした僕らは
遡れば何かしら共通の部分に
行き着くのではあるまいか
 
鳥や昆虫
動物のはく製もあるけれど
僕らは死んだ動物が好きなわけじゃない
生きているものが好きなのだ
たとえ言葉は交わせなくても
無数の生きものたちと
僕らはこの星の時間を共有している
僕らが世界というとき
生きものたちの世界を除外してはいないだろうか
君は蟻を踏みそうになった足を
あやうく避けたことはないだろうか
一茶の句に
やれ打つな蠅が手をすり足をする
というのもある
 
農耕が人と土地を
固く結びつけてから
限られた地域ごとに
言葉は成熟していったのだろう
それは丁度その土地の気候に合った果物が
育ち実るようなものかもしれない
おなじ漢字圏でありながら
中国語と韓国語と日本語の音は
どうしてこうも違うのだろう
しかしたとえ音は違っても
言葉そのものに大きな違いはない
動物や昆虫たちとも仲良くできる僕らが
同じ人間どうし
仲良くできない理由などありはしない
 
西暦とは
キリストの生誕を起源とする暦だが
ホモサピエンスの誕生は
凡そ20万年前といわれている
西暦の凡そ100倍である
生きもの時間とは
人類誕生を起点とする時間のことだ
グレート・ジャーニー
それはアフリカで生まれた人類が
地球上に散っていった悠久の時間そのものだ
歴史を考える射程として
この生きもの時間を取り込むことができたら
僕らはもう少し違った歴史を
歩むことができるだろう
 
僕らの先祖が
この日本列島に住み着いてから
どれほどの時間が流れたことだろう
文字の無い時代は考古学の領域だが
僕らは今よりももっと緩やかな囲いの中で
自由に行き来しながら
暮らしていたのではないだろうか
古気候学によれば
縄文時代ははるかに温暖だったという
縄文遺跡が
東北や北海道で発見される理由である
当時は縄文海進といって
海が内陸まで入り込んでいた
まさに地球温暖化の時代だったのである
 
人類はこれまでも
気候変動や自然災害など
幾多の苦難を乗り越えて生き延びてきたのだ
そう考えれば地球温暖化が
必ずしも僕らのせいだけじゃない
ことが分かるだろう
人類誕生の詳細は知るよしもないが
西暦などに拘らず
もっと遥かに長い生きもの時間に
想いをはせれば
人も動物も地球上の
同じ家族なのではないだろうか
ともにグレート・ジャーニーを旅した
仲間なのである
 
2024.5.3

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