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【詩の森】680 被統治者教育

被統治者教育
 
この国で初めて選挙が行われたのは
1890年といわれている
その時の有権者は税金を15円以上収めた
25歳以上の成人男子に限られ
全人口の僅か1%程だったそうだ
因みに当時の人口は約4000万人
 
成人男子に普通選挙権が与えられるのは
ずっと下がって1925年のことだ
この年には
あの悪名高い治安維持法もできている
選挙法と抱き合わせだったというのだから
政治の世界は恐ろしい
 
ところで民主主義にとって
選挙民の要件とはいったい何だろうか
当初の税金15円というのは
いわば社会的地位の目安で
税金を納めずに政治に口出しするな
ということだったらしい
 
1925年25歳以上の成人男子には
何の制限もなく選挙権が与えられた
それでも有権者比率は20%程だったという
しかし男尊女卑の社会にあって
女子には未だその資格はないと見做されていた
しかしそもそも資格とは何だろうか
 
恐らく社会の仕組みを理解し
候補者の適不適を判断する洞察力があるかどうか
ということなのではないだろうか
女性にはそれがなくて
男性にはあるはずだというのも
もちろん謂われのない偏見だろう
 
戦後新憲法のもとで
ようやく女性にも選挙権が認められ
1946年初の普通選挙が行われた
投票率は72%
全人口の51%に当たる3687万人が
晴れて有権者数となったのである
 
現在では成人年齢の引き下げとともに
18歳以上の成人に選挙権が与えられる
18歳といえば高校卒業の年である
社会経験も左程ない彼らに
はたして候補者を選ぶ力があるのかどうか
心許ない限りである
 
それゆえ主権者教育が声高に叫ばれるのだろう
しかし公職選挙法では
彼らは実際の政治の蚊帳の外に置かれたままだ
137条の2には
「年齢満18年未満の者は、選挙運動をすることが
できない。」と規定されているのだ
 
そればかりか学校は中立という立場から
政治の話は敬遠しがちだという
スウェーデンの先生が実際の政党政治をモデルに
手作りの授業をするのとは大違いである
かの国の子供たちは
自分たちで社会を変えていくことを学んでいる
 
まさにそれこそが
主権者教育ではないだろうか
自分たちの社会を自分たちで作る
これに勝る喜びはないだろう
この国がやっているのは主権者教育どころか
真逆の被統治者教育ではないだろうか
 
2024.7.21

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