【詩の森】502 括弧付き
括弧付き
おいおい
昨日と意見が変わったからといって
僕を責めないでくれよ
僕も君も
毎日変わっているんだからね
だから
僕の意見はいつだって括弧付きなんだ
つまり
その時点で
僕が知っている情報から導き出した
僕の考えっていうことさ
あの養老孟司さんも
いってたじゃないか
変わるのは人間で
変わらないのは情報のほうだって―――
万物は流転しても
「万物は流転する」という
ヘラクレイトスの言葉は不変なんだよ
僕の詩を読んだある人が
僕をアナーキストだと呼んでいた
きっとそんなふうに
見えたんだろうね
けれどレッテルなんて
意味ないと僕は思うよ
たとえていえば
一瞬を切り取る
写真のようなものじゃないかな
生々流転―――
僕らは毎日変わっているんだからね
そんなものに敢えてレッテルを貼るのは
貼るほうがそうやって
ただ分類したいだけなんだ
標本のようにね
僕は毎日変わっていくよ
今ならはっきりそういえる
それは
僕が考え始めたからなんだ
考えたり学んだりしている人なら
だれだってきっとそうだよ
僕には昨日気づいたことも
今日気づいたことも
たった今気付いたことだってあるんだ
でもそうやってラベル付けして
理解したがるのも人間なんだ
あの養老さんは
こんなこともいっていた
学問とは万物流転するものを
いかに情報という変わらないものに
換えるかという作業だと―――
僕はアナーキストなのだろうか
古稀になるまで
自分と付き合ってきて
僕はまだ自分を一言で表す言葉なんて
見つけちゃいない
僕は死ぬまで括弧付きでいいのさ
2023.5.28
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