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【詩の森】645 途上の人

途上の人
 
弘法にも筆の誤りという
三人寄れば文殊の知恵ともいう
前者はどんな達人でも
ミスを犯すということだろうし
後者は凡庸な人でも集まれば
菩薩の知恵を生むということだ
 
あの人はいい人だと僕らはいう
だから一旦ことが起こると
あんないい人がとても信じられない
きっと魔が差したのだろうと思う
しかしいい人はほんとうは
言葉の上だけではないのだろうか
 
世の中にいい人がいるなら
悪い人もいるだろう
しかし「いい人」も「悪い人」も
単なるレッテルに過ぎない
心を覗いてみればすぐに分かることだが
僕らはそんなに単純ではない
 
いい部分や悪い部分を
出したり引っ込めたりしながら
現実の僕らは生きている
もし人々が
そのことをよく弁えているのなら
ラベル付けなどできないはずだ
 
衣食足りて礼節を知るという
優れた政治家なら
いい部分が出て悪い部分が引っ込むような
寛容な社会を創ろうとするだろう
初めての人生を手探りで歩いていく
僕らは誰もが途上の人なのだ
 
ラベルは権威とよく似ている
権威とは
人を序列化し固定化するものだ
それはまるで
昆虫の標本をピンでとめるように
人々の可能性を閉ざしてしまうだろう
 
やがて心の中でも
序列の下位の者は上位を見上げ
上位の者は下位を見下すようになるだろう
権威主義が蔓延るほど
基本的人権も平等の理念も大きくゆらぎ
世界の歯車が逆戻りするだろう
 
すでにガザでは
無辜の人々の命を
あろうことか先進国が見捨てている
今やどんな場所がガザになっても
おかしくはないだろう
僕らは地獄郷へ向かっているのだ!
 
2024.5.30

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