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【詩の森】ことばのモンスター

ことばのモンスター
 
どんなことばでも
それを周知することができたら
それだけで
ことばは威力を発揮するだろう
それに権威が付加されれば
いっそう効果的だ
それが事実でなくても
少々怪しくても
適切でなくても
かまわない
流通してしまえば
そのことばは
モンスターのように
振る舞って
くれるのだから―――
 
オリンピックは
何があっても開催されるだろう
そうでなければ
復興五輪と名付けた
甲斐がないからだ
復興五輪
なんと禍々しいことばだろう
しかし
福島の実体から
隔絶された人々には
復興を寿ぐ
晴れやかな舞台と映るだろう
それがことばの威力である
もしオリンピックが
開催されることにでもなれば
名実ともに復興五輪と
なってゆくだろう
 
しかし
震災の被災者たち
とりわけ
原発事故避難者たちの想いは
複雑だろう
ふるさとの復興を望まぬ者が
どこにいようか
しかし
相手は目に見えぬ放射能だ
線量が高いということは
放射性物質が存在するということだ
それに福島県の7割を占める
森の除染は手つかずのままだ
政府は
空間線量をいうばかりで
外部被曝よりもさらに怖い
内部被曝については
一切ふれない
未だに甲状腺癌と事故との
因果関係すら認めない政府の
何を信用しろと
いうのだろう
 
放射性物質の半減期を
人為的に変えることはできない
だから国は
被曝基準を20倍に緩めて
人々に帰還を強いた
事故から十年目
国はもう
昔のことにしたいのだろうか
しかし飛散量の多い
セシウム137の半減期でさえ
30年もあるのだ
2017年復興庁は
風評払拭・リスクコミュニケーション
強化戦略に乗り出した
それを担うのは
大手広告代理店である
かつては
原発安全神話を担った代理店が
こんどは放射能安全神話を
手掛けているのだ
 
復興五輪という
ことばに続いて
こんどは
風評被害ということばが
モンスターになっていくだろう
権威の衣を着せられ
金の匂をプンプンさせて―――
モンスターが通れば
なにもかもが
風評被害にされてしまうだろう
風評被害ということばは
事実を隠し
すべてをその一語で片づける
暴力的なことばなのだ
この国が
何一つ変わらないのは
学習しないからだ
その原因は
国民と対話しないことなのだ
ことばに
権威の衣を着せてはいけない
ことばそのものを
モンスターにしてはいけない
それを許せば
モンスターはやがて
批判を許さぬタブーとして
君臨することになるだろう
ことばなのに
もはや口にできぬことばとして
祀られてしまうのだ
そこは
表現の自由から
最も遠い場所なのだ
 
 

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