見出し画像

【詩の森】戦争の足音

戦争の足音―重要土地調査規制法に寄せて(とても長いです)
 
かつて
要塞地帯法という
厳めしい名前の法律がありました
明治32年に公布され
昭和20年失効―――
要塞地帯とは
国防のための営造物と
その周辺区域のことです
更に周辺区域も
第一区から第三区まで分けられ
それぞれ基線から
1キロ・5キロ・15キロ以内
となっています
そこでは撮影はもちろん
模写や模造などの情報収集が
一切禁止されたようです
そして
違反者には
懲役もしくは罰金が
課せられたのです
 
もうお分かりでしょう
この法律は
戦争遂行のための法律です
軍事機密を守るため
軍事施設とその周辺を
監視区域としたのです
この法律が廃止されてから76年
これに類する法律は
ありませんでした
ところが
2021年6月
オリンピックが間近に迫り
コロナ禍の渦中の
この国で
ひっそりと
一つの新しい法律が成立しました
重要土地調査規制法―――
正式名称は
重要施設周辺及び
国境離島等における土地等の
利用状況の調査及び
利用の規制等に関する法律
というものです
衆参両院の総審議時間は
たったの24時間足らず
賛成は自民・公明・維新・国民
反対したのは
共産・立憲だけです
 
昔の法律は厳めしいけれど
ずっと正直です
要塞といえば国防のためだと
直にわかります
しかし
新しい法律の正式名称をみても
重要の意味が
よく分かりません
そこで
条文をひもといてみたのです
第一条の目的には
重要施設の機能を阻害する行為を
防止するためと書かれています
更にわが国の領海等の保全と
安全保障に寄与することが
目的だとも―――
ここでやっと
安全保障ということばが
出てきました
そして第五条には
内閣総理大臣の指定する
注視区域は
重要施設の周囲概ね1キロ以内と
定めているのです
何となく
明治の要塞地帯法と似ていると
思いませんか
そうです
実はこの法律こそ
要塞地帯法の現代版だと
いわれているのです
 
明治の要塞地帯法が
変装して
令和の重要土地調査規制法に
なりすましていたのです
その証拠に
重要施設として
自衛隊の施設・在日米軍の施設
海上保安庁の施設などが
挙げられています
それどころか
政府が政令によって
重要施設を独自に定めることも
可能です
たとえば
社会インフラである原発や
通信施設・空港・銀行・駅なども
想定されているようです
その半径一キロ以内に
いったいどれだけの人が
住んでいるでしょう
さらに驚くことに
注視区域内で
何を可能とするのか
その基本方針の策定を
政府に一任し
オールマイティーな権限を
与えているのです
 
こんな法律があって
いいのでしょうか
これでは中身を伏せたまま
法案を通したようなものです
何が阻害行為にあたるのか
説明もないまま
第9条では
内閣総理大臣の
阻害行為中止命令・勧告を規定し
さらに第25条では
2年以下の懲役もしくは
200万円以下の罰金に処すと
罰則だけはしっかりと
規定しています
この法律の
作りをみただけでも
背筋の凍る思いがしませんか
その恐ろしさが今
市民のなかにじわじわと
浸透しつつあります
 
国防の名のもとに
注視区域内の建物や
その所有者の活動や信条まで
洗いざらい調査される危険は
ないのでしょうか
沖縄で基地反対の
座り込みをしている人々は
注視区域内ということで
強制排除されるのでは
ないでしょうか
原発立地に反対し
土地を守り続けてきた人々を
立ち退かせることだって
できるでしょう
市民の粘り強い闘いを
一気に瓦解させる恐れが
十分にあるのです
もし本当に駅や銀行が
対象にされたら
いったいどれだけの人が
影響を蒙るでしょう
これは簡単にいえば
国が指定した施設の周辺に
住んでいるだけで
住民を監視し
取り締まれる法律なのです
これに共謀罪法や
特定機密保護法が絡んだら
住民が相互に監視しあう
密告社会が到来しないとも
限りません
 
明治からおよそ150年
この国は
前半は戦争に明け暮れ
後半は平和を謳歌してきました
『二度と戦争はしない』
そう誓って
戦後の歩みを進めてきたのです
それはすべての
戦死者たちと交わした
魂の約束だったはずです
それをこの国は今
反故にしようとしています
戦争には
莫大な費用と
国民の総結集が必要です
その遂行のため
戦時立法と呼ばれる
一群の法律があります
実は要塞地帯法も
その一つだったのです
他には
軍機保護法・国家総動員法
国防保安法などです
そして
悪名高い治安維持法は
大正14年の成立以来
改定に改定を重ね
終戦まで猛威を振るって
いたのです
 
これらはみな
個人の権利を剥奪し
反対する者は容赦なく懲らしめ
国家に従わせるための法律です
そして今
この国には
かつての戦時立法の再来
といわれる法律群が
すでに出来上がっているのです
数の力による強行採決―――
有権者が政権与党に
オールマイティーの
2/3以上の議席を
与えてしまったからです
2013年には
特定機密保護法(旧軍機保護法)
2015年の平和安全法制は
戦後初めて
集団的自衛権行使を認め
自衛隊が同盟国とともに
海外で戦うことを可能にしました
2017年には
共謀罪法(旧治安維持法)
そして今回の
重要土地調査規制法は
旧要塞地帯法と旧国防保安法の合体版
だともいわれています
重要土地規制法の成立によって
一連の戦時立法は
総仕上げに段階に入ったのでは
ないでしょうか
 
歴史をひもとけば
かつての戦争は
国民の熱狂とともに
始まっています
国民の大半が冷静なら
戦争など起こりようがないのです
しかし
僕らが気づかないうちに
事態はここまで進行しています
それはこれまで
一部の人々しか
明確に反対してこなかったから
ではないでしょうか
そして
戦前と異なるのは
今やマスコミが
世論を誘導する力を
十分に備えているという事実です
マスコミは
知らせる力と知らせない力の
両方を持っています
北朝鮮のミサイル発射時の騒動を
思い出してください
あの時どのテレビ局も
Jアラートの
不気味な画面一色だった
ではありませんか
マスコミが
恐怖を煽ってきたら
はたして
僕らの何割が
冷静でいられるでしょうか
 
元々一切の軍事力を
放棄したはずのこの国は
警察予備隊を皮切りに
自衛隊を設置し
有事立法と称して
戦時のための法律を着々と
整備してきました
そして
2006年の
第一次安倍内閣による
教育基本法改正以来
子どもたちへの
愛国心教育が進められています
そして
12年後の2018年には
小学校で道徳が教科化されました
子どもの心に
点数がつけられることに
なったのです
さらに12年後
彼らが成人する2030年
愛国心に燃えた
青年たちが
自己決定権をもつ大人として
巣立っていくのです
愛国心は自然に芽生えるもので
強制されるものでは
ないはずなのに―――
 
僕らはすでに
平和の有難さを知っています
しかし
国民の半分が
投票にいかないこの国では
その過半数
つまり全国民の1/4の意志が
政治を動かしているのです
高々2500万人の判断が
一億の民の命運を
握っています
なんだか
馬鹿げていると思いませんか
憲法で戦争放棄を誓ったのは
何だったのでしょう
僕らはまた
子どもたちを
戦場へ送り出す親に
なるのでしょうか
歴史の歯車を
逆転させてしまうのでしょうか
1939年
『戦争が廊下の奥に立ってゐた』
と詠んだ
俳人・渡辺白泉は
治安維持法で検挙されました
太平洋戦争の
2年前のことです
戦争の足音が聞こえませんか
聞こえているのに
聞こえないふりをしていませんか
少しずつ少しずつ
忍び寄り
気がついたときにはもう
手遅れになっている
それが戦争なのです
 
2021年7月14日巴里祭の日に
 
最後までお読みいだだき、ありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?