見出し画像

【詩の森】513 安いと便利と時間の関係

安いと便利と時間の関係
 
トルストイ民話集に
火を粗末にすると―――消せなくなる
というのがある
ちょっとした行き違いが嵩じて
とんでもない結末に至る隣家どうしの話だ
その言でいうなら
便利を求めすぎると僕らは
無能になるのではないだろうか
 
パソコンを使い出してから
漢字が書けなくなった
パソコンではキーを打つだけで
字画をなぞる必要がないからだと思われる
それが便利であればあるほど
その依存度は深くなり
やがて手放せなくなるのだ
僕らは便利教の信者なのかもしれない
 
スマホの普及率は
二人以上の世帯では90%を超えたといわれる
猫も杓子もスマホである
スマホの機能を大別すれば
インターネットアクセス・通話機能・カメラ機能
アプリケーション利用などだろう
そんな便利なスマホを
天邪鬼の僕は持っていない
 
その理由は
便利と引き換えに失うものが多いと思うからだ
例えばアプリの一つに道案内がある
予め目的地を入力すれば
指示に従うだけで目的地に到着できる
しかし誰かに道を尋ねなくてもいいというのは
誰かと話す折角のチャンスを
失うことではないだろうか
 
ラインやショートメールの多用は
直接話すことを敬遠させてしまうだろう
互いに忙しいので
相手の時間を割きたくないという
忖度が働くからだ
しかしそうやって
僕らは自ら分断を招いているのでは
ないだろうか
 
便利とは誰かの考案した
製品や機能や仕組みに縋ることだ
その目的は
大抵は時間の短縮だろう
そのため僕らは高い維持費を払って車を買い
お金を稼ぐために夜も働き
少し割高でもコンビニを利用する
 
さらには
少ないお金を有効に使おうと
安い商品に群がる
しかし安さの向うには労働者の低賃金がある
結局僕らは労働力を安売りし
そのために長時間働かざるを得ず
多忙になって便利に縋るということを
繰り返しているのではないだろうか
 
この悪循環を断ち切る唯一の方法は
労働力を安売りしないことだ
残業なしで暮らせる給料を確保することだ
自給1500円を掲げる政党を応援してもいい
そしてその前に便利に依存し過ぎないことだ
僕の俳友にどこへ行くにも鈍行でという人がいた
彼は移りゆく車窓の風景を
存分に楽しんだことだろう
 
よくよく考えてみれば
カーナビが無かった時代
僕らは道路地図を読むことができた
道に迷ったら道行く人に尋ねるだけでよかった
便利とは自分は何もしないで
他人の力を借りることでもあるのだ
それは僕らの主体性の喪失を
意味しないだろうか
 
2023.6.25

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?