金沢茶屋文化とスクールアイドル
金沢の観光のメインスポットでもある、卯辰山の麓に広がるひがし茶屋街。
私は茶屋街という名前から、軒先でお茶を出して客をもてなす場所というなんともゆるいイメージしかなかった。
しかし実際に訪れるとそんなゆるい場所ではなかった。少し考えれば、ただお茶を出すだけの場所が街として発展するのはおかしいことがわかる。
私は2023年GWにひがし茶屋街で唯一昔からの姿で保存されているという国指定重要文化財「志摩」に訪れた。入館料は500円。
なぜ金沢が蓮ノ空スクールアイドルクラブの舞台に選ばれたのか、建物の中にある看板の説明が「蓮ノ空スクールアイドルクラブ」というコンテンツを読み解くヒントになるだろう。
ラブライブ!を見てきた皆さんはどう思うだろうか?私は「これはつまり、スクールアイドルなのでは?」としか思えなかった。
文章の中でいきなり登場する「限られた空間と時間の中で」というフレーズは無印劇場版で語られているスクールアイドルの重要概念であるし、「芸妓は茶屋という非現実的な空間に生きる存在」というのも蓮ノ空のバーチャルスクールアイドルという概念の元になっていると感じる。
「時節のうつろいに合わせて客の心を満たす」あたりは、蓮ノ空の活動のリアルタイム性に生きているだろう。
現行VTuberは2種類に分けることができると思っており、一つはVTuberの中の人の人格がそのままキャラクターとなるタイプ。
もう一つは完全にキャラクターをかぶって3Dモデルを動かすスタイル、だと認識している。
蓮ノ空のバーチャルスクールアイドルは後者の分類といえるが、中のキャストを公開してるのは少し特殊だろうか。かつてVTuberとして活動していたキズナアイのスタイルと同じ。「非現実的な空間に生きる存在」としてより効果的なのはこのスタイルと思われる。
芸子がいて、客の立ち位置の旦那衆がいる。
アプリを通じて蓮ノ空のスクールアイドルを見ている私たちが旦那衆に当たるだろうか。
かつて旦那衆に求められたのは「芸を解する力量」とあるように、蓮ノ空の活動を見る人たちはある程度のスクールアイドルへの知識、にじさんじやホロライブ等の現行VTuber文化の理解、アプリが動く環境、が必要となっている。ラブライブ!シリーズ見ているけど蓮ノ空だけを追っていないのはVTuber文化への理解が難しい、もしくはアプリの動作スペックを満たす機器を持たない、あたりが説明になるだろうか。
「芸を解する力量」ということについては、私はファッションに関することで説明ができると思っている。
例えば、パリコレ等のファッションショーなどを想像してみてほしい。
洋服へのリテラシーが無いとただ奇天烈な変な格好をして歩いているようにしか見えない。しかし、やっていることは「世界のトップレベルのデザイナーによる新しい価値観の表現」、我々一般人より進んだ感性の元に表現するアートである。
ファッションショーに使用されたコレクションアイテムをそのまま買うことも出来る。しかし、日常的に着るにはかなり浮いてしまうため、コレクションアイテムのデザインの要素を取り入れて、街着として再構築されている。
今、ユニクロなどで買えるファストファッションに並ぶ服の大半の、シルエット、素材感、装飾などのデザインが、数年前にそうしたハイブランドのコレクションで提案されてきた価値観であり、一般庶民に理解できる形に再解釈された姿である。
スクールアイドルの最先端、蓮ノ空の行っていることはVTuberの主戦場、仮想空間で新しい表現を行っている。
アプリ内リアルタイムレンダリング配信だったり、バーチャルとリアルの顔出し同時並行展開などは、新しい価値観といっていいだろう。
ラブライブ!が積み重ねていった「スクールアイドルの歴史」の存在のおかげで、諸々の世界設定の説明を端折ることができ、これらの表現が成立している。蓮ノ空が「なにを表現したいか」を理解しようとして楽しんでる人は、ラブライブ!姉妹作品を深掘りしてずっと見てきていた人たちが多い気がする。
「芸を解する力量」を持った旦那衆、つまるところ私たちに求められる立ち回りの「粋」「野暮」に相当するのはなんだろうか。
蓮ノ空はバーチャル側と現実側の2ラインで動いている。なぜそうなっているのかは色々推察できるが、一番はバーチャル側の世界に雑音を入れたくなかったのではないだろうか。
キャストを非公開にすればどうしても演じている中の人がどういった人なのかを詮索し始める。それは物語に集中できなくなるし、なにより「野暮」な行いだろう。リアルでキャストもステージに上がる。しかし、リアル側の出来事はリンクラの配信に持ち込まない。
アプリ上でそのキャラクターが実在しているという形で反応を返すことが最も「粋」な行い、「最上の客」といえる。
リンクラアプリ上の配信システム、スクールアイドルコネクトでは今のところリアルイベントについての言及が一切無い。代わりにリアルのライブでは幕間に不思議空間にてキャラクターが存在してこちらに声がけする。
いつかこの2つの線が交わるかもわからないが、このルールを守ることが蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブという作品を一番楽しむことができると私は踏んでいる。
もう一つ、リアル側の諸事情でリンクラ上の活動が止まってしまうアクシデントが起こる可能性がある。
2023年8月にはキャストがコロナに感染することで、With×MEETSの配信が中止となり、2週間に渡りゲーム性の対応処置としてプレボ配信が行われることになった。
こういったアクシデントが起こった際に、リンクラ上ではなにが起きていたかの説明を受け、その出来事に全力で乗っかるコメントを返すことが「もっとも粋な計らい」だと私は思う。
ふらっと立ち寄った歴史的建造物に、これほどスクールアイドルと親和性のある概念に出会えるとは思っていなかった。「歴史がある」という設定の意味の深さを考え直すきっかけにもなり、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブという作品を見る視点が大きく変わった。
このことで、過去のスクールアイドルの活動の歴史をストーリー上で重視するのがわかる。金沢の地を歩いて今の姿が過去から地続きであるのを実感できるように、スクールアイドルノートという形で今の蓮ノ空スクールアイドルクラブまでの歴史が繋がっている。
余談、志摩では和菓子と抹茶を頼むことができるが、支払いを後払いにすることで、茶屋遊びの「粋」を感じることができる。
訪れた際には是非注文することをおすすめする。
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