会社を辞めた加藤さん
取引先の加藤さん(仮名)が会社を辞めてしまった。加藤さんとは十年来の付き合いだが不思議なところがある人で、女嫌いを自称しながらフィリピン人の奥さんを娶ったりしていた。
また結婚した事実を積極的に周りに明かそうとはせず、一部の人間に漏らしただけであった。
奥さんが日本人でないことに後ろめたさがあったのかもしれない。それにしてもやや秘密主義的で、周囲との壁を意識的に作る人であったがおれに対しては概ねよくしてくれていた。
その加藤さんが昨年末に退社することになった。その際に加藤さんはおれに「聞いてるかもしれへんけど、今日で辞めることになったんや。オイパラくん今までありがとう」とお礼を言ってくれた。
おれは「聞いておりました。こちらこそ今まで本当にありがとうございました。故郷にお帰りになられるんでしたっけ?寂しくなりますわ。向こうでも元気でお過ごし下さい」などと返してしばし談笑し、やがて別れを告げた。
「男は絶対に失敗できない。稼ぐしか生きる道は無い」という言説については概ねその通りとしかいえない。加藤さんは転職先でもそれなりに厳しい道を進むことになるだろう。
時代が変わっても所詮女は男にぶら下がる存在であり、男はぶら下がられる存在なのは変わらないのだから。
言っちゃ悪いが、加藤さんのような非モテ日本人おじさんの妻にフィリピン女性がなりたがる理由の多くは「先進国人に途上国人が経済的にぶら下がりたい」ためである。
加藤さんとは大したトラブルもなく長年付き合ってはいたもののお互い業務上のパートナーでしかないし、今後彼とのやりとりはほぼ無くなるであろう。
だがしかし、長年の戦友として向こうでもなんとかうまくやってもらいたいと願っているし、年が明けてから加藤さんの会社を訪問するたびに「そういや彼はもう居なかったんだな」などと思い出を噛み締めてしまうのである。
(了)
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