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ぬいぐるみ物語①

皆様、お久しぶりです。miriamと申します。
今回は身辺雑記ではなく、私が作ったお話を書いてみたいと思います。
うちにいるぬいぐるみの物語です。もしよろしければ、お付き合いいただけると幸いです。それでは早速、行ってみましょう!

「あっ!これ可愛い!これにしようっと!!」
インターネットで,ある国宝展のグッズショップのページを見ていた弥生(やよい)さんは、目を輝かせました。甲冑を着た、土色をした武者の―埴輪のぬいぐるみ。
「カートに入れて注文を確定させて・・・と。あとはウチに届くのを待つだけ・・・うふふふふ」
弥生さんはポテトチップスを一枚口に放り込むと、ニッコリと笑いました。

それから数日後のことです。
「四月一日(わたぬき)さーん!!四月一日弥生さーん!!ムサシ運輸でーす!お荷物ですよー!!」
とあるマンションのとある部屋のドアの前で、威勢のいいおじさんの声が響きました。おじさんが帰っていくと、弥生さんは受け取った段ボール箱を見て、うふふと笑いました。
「来た来た、埴輪のぬいぐるみさん。・・・へぇ~っ。思ってたより小さいのねぇ。」
カッターナイフの刃をキチキチッと出して、段ボール箱を封じていたガムテープを切ると、箱の中へ手を突っ込みました。―その瞬間。
「・・・うわっ!!」
いきなり目の前を細い小さな光がものすごい速さで横切り、弥生さんはびっくりしてしりもちをついてしまいました。

「ひぇぇぇぇっ!!な・・・なに?何なの、今のは」
弥生さんは箱の中に入れていた手をまじまじと見つめ、目をぱちくりさせました。今、手のひらの中に確かに感じたぬいぐるみの柔らかさ・・・それがものすごい力で振り切られ、箱の中から何かが飛び出してきたのです。
それは、見事な宙返りをすると横倒しになった段ボール箱の上にスタッと降り立ち、手にした剣をかまえなおしました。土色をした小さな鎧武者が、口元をキリっと引き締めてこちらをにらみつけています。
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!我が名は・・・」
鎧武者はそこまで言うと、急にもごもごと小声になりました。
「我が名は、ぎ・・・玉人(ぎょくと)!!悪しき者どもよ、わが剣のサビとなって果てるがよい!!覚悟!!」
「あ・・・あなた・・・あの・・・え~っと・・・」
弥生さんは、いまにも自分に斬りかからんとしている埴輪の鎧武者に言いました。
「今・・・今、私の手から、こう・・・飛び出た・・・」
「それがどうした!わが身を縛らんとしたいましめから、逃れ出たまでのこと!さあ、剣を抜け!抜かぬか!いざ、尋常に勝負!!」
鎧武者の刀が、ジャキッ!!と鍔(つば)鳴りの音を立てたような気がしました。フワフワの綿と布でできているはずの刀がギラリと光ったように見えて、弥生さんはあわてて両手を上げました。
「うわ~~~っ!!タンマ、タンマ、タンマ!ストーーーップ!!」
「『たんま』・・・?なんだ、それは!さては、怖気づいたか!」
「怖気づくも何も・・・あたし、あなたと戦おうなんて気、さらさらないし。待ってたんだから、むしろ」
弥生さんは、あげた手をひらひらと振りました。
「何・・・だと?待っていた・・・?」
弥生さんの言葉に、鎧武者の表情は急に和らいだものになりました。
「待っていたとはそなたもしや・・・我が同胞か?窮地に陥り、助けを待っていたと・・・そう申すのか?」
鎧武者の体からほとばしっていた殺気がすうっと消え、武者は刀を下ろしました。
「そうか!!いや、悪かった。我がいたところに急に鋭い刃が入ってきたものでな。てっきり、敵の攻撃かと・・・」
鋭い刃?・・・はて?と考えて、弥生さんはやっと気が付きました。ああ、ガムテープを切ったカッターの刃のことか・・・。
「だが、それは我の早合点のようだな。もう大丈夫だ、安心せい!我が来たからには、もうそなたに手は出させぬ」
「はあ・・・あ・・・ありがとう・・・どうも・・・じゃ、とりあえず、どうぞこちらへ」
「うむ!」
胸を張ってとことこと歩き始めた鎧武者を、弥生さんは部屋の中へ案内しました。

「ところで・・・ここは、どこの戦場(いくさば)だ?そなた一人か?友軍はどうした?」
きょろきょろとあたりを見回している武者に、弥生さんはやっとのことで言いました。
「あの・・・ここは・・・戦場`(せんじょう)じゃ、ないです・・・あたしの、家。あなたは私に買われ・・・」
若武者はそこまで聞くと、けげんな顔をしました。
「なに?戦場(いくさば)ではなく、そなたの家、だと?それにしては荒れて見えるがなぁ・・・見渡す限り、紙と、書物と、ホコリだらけだ。向こうでは書物の山が崩れかけておるぞ。本当に、戦場ではないのか?・・・それに・・・」
若武者は弥生さんを見つめると、きっぱりといいました。
「我は、傭兵(ようへい)ではない。金で買われた覚えはないぞ」
弥生さんは心の中で「しまった!」と思いました。ぬいぐるみにだってプライドがある。「買われた」などと本当のことを言えば、自分の命はお金で売り買いできるようなものなのかと思って武者は怒り、悲しむに違いない。
そう思った弥生さんは、言葉というものは本当に難しいものだ、と考えながら、やっと言いました。
「あ!買った・・・んじゃなくて・・・その・・・私があなたの姿を偶然見かけて、ぜひうちへ来ていただきたいな~・・・なんて思って、来てもらったんです」
「ほう。我の姿を見かけた、とな?」
「ええ!あなたのような強そうな方に来て守ってもらえれば、どんなに安心できるだろう、って・・・」
若武者はパッと目を輝かせると、少し赤くなって言いました。
「そうか、そうか、強そうに見えるか!!やはり、わかるものにはわかるのだな!!」
大きくうなずいて、若武者は胸を張りました。
「これからここにいて、私を守ってもらえますか?」
「うむ!!守ってやろう!!安心召されよ。悪しき者ども、不埒な者どもはみんなまとめてこの太刀のサビにしてくれようぞ!!」
そういうと、鎧姿の若武者は腰の太刀をポンポン叩いて、からからと笑いました。

「では、こちらへどうぞ。散らかっていますけど」
弥生さんに案内されて若武者が部屋に入ると、そこには自分と同じ、でも様々な色と形をしたぬいぐるみたちがいました。誰からも不穏な気配や殺気などはまったく感じられません。武者に向かって手を振ったり、ニッコリ笑いかけてくるぬいぐるみもいます。
「うちにはぬいぐるみやフィギュアの類が多いから、仲良くしてもらえると嬉しいんだけど・・・」
「わかった。全部まとめて、我が守ってやろう!!」
ぬいぐるみたちの間から安堵の吐息がもれました。一気に緊張が解けたようです。
ベッドの周りにいたぬいぐるみが、「わーーーーっ!!」と歓声を上げて武者を取り囲み、それから武者は長い長い「自己紹介のことば」に翻弄されてしまい・・・終わったころにはぐったりしながら、こう言いました。
「今まで自分の心も技も鍛えて鍛えて鍛えぬいた・・・そんな自信があったんだが・・・どうやら、忍耐力に関しては、これから鍛えがいのある鍛錬のようだな・・・」
そう言うと、若武者はぐったりとひざをつきました。
「つ・・・疲れた・・・」
・・・そりゃ、私だって思います。初対面のぬいぐるみに周りを取り囲まれて、わあわあ言われたら、そりゃ疲れるかもしれません。
「はにわさん?こんにちは。私はアリクイの、「アリ」です。いつかアリ塚がたくさんある国へ弥生さんに連れて行ってもらって、アリをお腹いっぱい食べるのが夢なんです」
「あーーーー!!アリちゃんずるいーーー!!まずは小さな子たちからよ!!」
「あたしもあたしも、するのー!!じこしょうかい、するのー!」
「順番はしっかり守りましょうね。次は私ですよ。私は・・・」
「ロブちゃんが次って、いつ決まったん-?ねえ、みんな順番に・・・」
あーだこーだ、あーだこーだ、あーだこーだ。
延々自己紹介に付き合った埴輪の武者は、ぐったりしつつも言いました。
「でも・・・みんな、自分のことを包み隠さず教えてくれた。我は、受け入れてもらえたのだな。」
フフッ・・・かすかな笑い声が、埴輪の口から洩れたような気がしました。
「我も返そう、我が心を。ここにいるぬいぐるみたちの身の安全は、この剣にかけて、我が守る。」
先ほどとは全く違う、優しい目をして、武者は言いました。
「そのためには、ここのことをよく知る必要がある。弥生殿、すまないが協力を願えないだろうか」
それから埴輪の若武者、「玉人(ぎょくと)」くんは、弥生さんの膝に座って新聞を読み、こたつテーブルの上に座って「てれび」を見るようになりました。こうしてこちらのことを勉強して、守りに生かすのだそうです。

これが、弥生さんと、埴輪のぬいぐるみの玉人君との出会いでした。

ちなみに。
「ねぇ、玉人って名前、どこで、誰につけてもらったの?」
弥生さんの問いに、玉人くんは、頭をかきながら答えました。
「・・・うん・・・?そ・・・それはだな・・・実は名前はまだなかったのだが、それだと名乗るときに恰好がつかぬ。敵に弱みを見せるわけにはいかぬゆえ、我が自分でつけたのだ。・・・磨き上げた玉のように、自分を磨いて光を放つことができるよう・・・そうなりたい、と思ってな。おかしいだろうか?」
弥生さんはにっこり笑うと、玉人くんの頭をなでました。
「ううん。とってもいい名前だと思う!」
玉人くんは弥生さんを見上げて、照れくさそうに笑いました。

                          ―おしまい―

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