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感想|Kep1er - MVSK

この曲を聴いて(厳密には歌詞の和訳を読んでみて)、かの憎き疫病によりほぼ全ての人々がマスクを着用しているがゆえに誕生した「マスク美人」なるフレーズを想起する。これは、「美人」が世間的な了解としてどうしても女性を指しがちなことにかまけて、女性に対する広義のルッキズムを補強する悪しきフレーズではあるが、「マスクを着けている時にイメージしていた顔立ちが、マスクを外した実際の顔立ちとは異なって見える」というのは、確かに実感を伴っている。

ふと、高校の現代文の授業で読んだ文章を思い出す。ミロのヴィーナスにまつわる文章。おそらく表題もそのまま「ミロのヴィーナス」だったような。論旨は、その両腕の欠落でもって、ミロのヴィーナスは美の無限の可能性を湛えている、というものだった。

今の世の中において、この曲で歌われているところの「Take off your mask」には2つのリスクが伴う。1つ目は、単純にその疫病に自分も相手も罹りやすくなるというリスク。2つ目は、(相手が勝手に抱いたものではあるものの)「無限の可能性」を手放すというリスク。これについては「I'm not fake」「Just look at me now」とお構い無しなご様子。

いわゆる「マスク」ではなく「仮面」という意味でのマスクについても考えてみる。仮面舞踏会が中世・近世のヨーロッパで流行した理由に関して、仮面をつけることによる匿名性が、イエや身分などの面倒なしがらみから自らを解放してくれた、という考察があるようだ。裏を返すと、仮面を外すということは素性を露わにすることにつながる。ゆえに、マスクを外すことは、自分を自分として受け入れてもらえるはず、という相手への信頼を示しうる。

つまるところ、マスクを外すという行為は、これまでも今も、単にマスクを外す以上の意味を持っていることになる。そしてそれらは全て、何かしらのリスクを乗り越え、相手に対する親密さを示すという意味につながる。そんな行為をじっくり1曲通じて勧めてもらえる、まさに恍惚。

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