<第11回>社員の士気が上がる組織  ~ 風通しの良い職場と社員の人財育成


 前回は、社員が真に仕事に向き合うということはどういうことか、恥ずかしながら私自身の経験を述べながら書いてみました。
 今回は、社員が仕事に向き合う現場、即ち職場について、社員の士気が上がる組織とはどういう組織なのか、ということについて書きたいと思います。

 本コラムでは、社員の意識改革、モチベーションのアップなどは、会社からの働きかけによる「やらされ感」では達成できない、と強調していますが、同時に社員の長期的なキャリア形成など、本当に社員の立場に立った人材育成・・・例えば、工夫された研修や経験あるコンサルタントによる面談、社内における対話を重ねるなど、会社が出来る支援の仕組みを整えた上で、社員自身が主体的に行動を起こせるようなことになれば、モチベーションのアップといった困難度の高い課題も達成できると述べてきました。

 最近大変気に入っているビジネス書の書き手である北野唯我氏の最新刊である「職場の『空気』が結果を決める」(ダイヤモンド社)は、私自身の上記の考え方に極めて近く、かつ組織作りにまで示唆を与える好著でした。
 北野氏は、ネット上でも公開されているオープンワーク社(登録ユーザー数320万人以上、社員クチコミ・評価スコア840万件以上の国内最大規模の職場環境データを保有https://www.vorkers.com/company.php?m_id=a0C1000000sjQHC)の、その会社の社員による客観的なクチコミによるアンケート調査を引きながら、「社員の士気が高い会社は、職場の風通し(オープネス)が高い会社である」ことを示しています。

 もう少し詳しく書くと、社員の士気の高い会社において

 ・「法令遵守意識」は高い満足度を担保できている唯一の項目
 ・士気の低い会社で不満が多い「人材の長期育成」と「待遇面の満足度」については、士気の高い会社でも不満に思っている人がきわめて多い。満足している会社数で言うと、(驚くべきことに)人材の長期育成で満足度の高い会社はこの国にはほぼ存在しない(!!!!)。

 というようなことを述べています。そして、

 ・社員の士気を上げるために「改善できること」として、「職場を風通しの良い場所に変える」ことが必要
 として、その具体的な方法についても注目すべき方策を提案しています。

清潔感あるオフィース

 上記の北野氏の指摘には、「待遇面の満足度が社員の士気に影響が少ない」ということが示唆されていますが、このことは私自身このコラムで主張したことと一致しています。
 また、氏は、日本の大概の会社に勤める社員が「人財の長期育成」について満足していないのは、「そもそも社員の考える人財の長期育成というハードルが高すぎるのではないか?」との仮説を述べていますが、もちろんそういう点が全くないとは言いませんが、私はちょっと違う見解を持っています。

 むしろ、長期の人財育成が「出来ていないから」日本に現存する会社においては、社員のキャリア形成(≒長期での育成)に対して会社は良い仕組みを持っていない、あるいは、研修サービスなど社員のキャリア形成に資するアドバイスをやっている会社を企業が雇っていても、そうした人財サービス会社が有効なサービスを提供できていない、のではないかと私は思うのです。
 要するに、企業の側も、目先の業績への効果を狙った社員教育には熱心ですが、(会社の都合を主語においた)企業の従業員(コマ)としての社員の長期での人財育成が中心であり、現在の仕組みが、本当に社員の立場に立った、納得感が高く、社員を満足させるような人財育成にはまだ至っていないということなんだと思うのです。

 北野氏が指摘するように、社員の考える長期の人財育成の基準が「ハードルが高い」のではなく、会社が現在社員に提供する「長期の人財育成の仕組み」の方のレベルが低いからなのではないかと思うのです。

 そう考える理由は、
 ①かつての(昭和の)、「日本株式会社」、特に「良い会社と言われるような」大企業では、会社組織ぐるみで一人ひとりの人財育成を考える習慣があり(特に「ローテーション」方針など)、職場でも上司が部下との人事面談で、必ずそうした話題が出て、「会社は自分の育成に関して長期的に考えようとしている」という実感がありました(私が勤めた最初の会社では、少なくともそうでした)。
 ※但し、それは、終身雇用慣行の下、社員と会社は、社員の長期育成という面では幸せな関係だったのかもしれません。しかし、平成の時代には、「グローバル時代」の掛け声と共に、「成果主義」「効率性」という米国流の価値観が旧き良き時代を破壊しました。
 ②私が過去に実施した、あるいは他の人が実施した、キャリアに関する面談の結果、多少なりとも将来のキャリア形成に関しての不安が払拭され、自分の現在の仕事へのモチベーションがアップした、という事例をいくつも実際に見てきた、ということがあります。私自身、何十年も人財育成のコンサルタントをやってきているわけではないのですが、これまでの40年のビジネス経験の中で、絶対に、社員一人ひとりが、納得感を持って自分自身で自分のキャリアプランを作成し、そのことによって、今の仕事におけるモチベーションが上がる、そして、そうしたサービスを会社が提供してくれるのであれば、間違いなく会社へのロイヤリティも上がる、という確信があります。
 
 北野氏の指摘である、「士気の高い会社でも、人財の長期育成には全く相関がない」というのは、日本株式会社が崩壊し新たな企業と社員の関係性が不明確な現状では、「人財の長期育成に関する仕組みの構築がまだ緒についたばかりで確立していない」ということだと思うのです。

 北野氏のこの著作に関連して思うことが他にもあります。
 法令遵守についてです。

 北野氏は、法令遵守が社員の士気を上げる唯一の共通項目と言っているわけですが、私自身、もう15年位前のことなのですが、コンプライアンス・CSRの調査会社に勤めていたことがありました。

 この会社で学んだことは、
 ・コンプライアンスとは、法令だけでなく、世の中の常識、そして会社組織における企業理念など、一貫して守らなければならないことをきちんと守ること
 ・そうすることによって、企業は社会における存在意義を社会に認められ、業績としても向上する

 といったことで、逆に不祥事等企業が隠したくなるような情報の隠蔽、反社会的な行為による利益、などを許す企業風土があると、それは中長期的には、企業業績ですら棄損することに繋がるということです。

 上記の意味での「コンプライアンス経営」が実行できているかどうかの判断として重視していたのが、やはり、言いたいこと言える「風通しの良い組織かどうか」ということでした。

 そりゃそうですよね。風通しの悪い職場では、社員の士気は上がらないわ、不祥事情報は隠蔽されるわ、イノベイティブなアイデアは握りつぶされるわで、良いことなんかあるわけはありません。


 かつて在籍していた会社で、ものすごく官僚的な会社がありました。

 そこは大学生の就職希望ランキングにも名を連ねる有名大企業だったのですが、働いてみて、驚いたことが「コンプライアンス意識の低さ」でした。
 職場自体では通常業務の中では言いたいことが言える職場だったのですが、会議に出ると、全く議論を戦わすということがないのですね。会議は形式的なものであり、結論は根回しで事前に決まっているのです。

 それを知らない私は、会議の席上で、いわゆる「論理性」「合理性」で意見をズケズケ言い、他の参加者が目を白黒させ、司会役がその場を取り繕って会議が終了しました。
 
 要するに、その会社はかつての帝国陸軍のようなもので、合理性で物事の是非を判断するのではなく、誰誰がこういうからこうしようという人治政治が闊歩してわけなのです。聞くところによると、その会社で偉くなるためには、「絶対に会議で自説は述べないこと」というようなことが言われているようでしたし、法令に対する社員一人ひとりの感度も極めて低くしばしば唖然とさせられました。

 そうこうするうちに、その会社では私の想像通り、大きな不祥事を起こし、またその開示にも時間がかかりすぎて、社会的に激しい批判を浴びました。一応、その後の対応策を発表したものの、内部にいた者、かつてコンプライアンスの調査会社にいた人間としては、「またやるな」と思いました。そして、当然またやりました。

 企業の組織風土は色々で、会社によって全く違う、それが9回の転職経験者の偽らざる観察結果です。
 不祥事を何度か起こしたその会社は、法令遵守など以外でも、経営トップの経営方針が会社全体に徹底されることよりも現場の強さを重視するといった暗黙の風土の問題があり、企業業績としても、はっきり言って潜在力を発揮できない状態でした。
 私はその会社で何年か働いたあと、転職するときに、社長に対して置き土産としてレクチャをさせてもらう機会を得ることが出来、そこで「変化する市場環境の中、業績をアップさせるためには、『企業文化』を変える大革命を起こすことが必要であり、その先陣として社長自身が変わらなければならない」ことをシビアに伝えました。
 
 私の退職以降のことは良く知りませんし、時々新聞紙上で目にするその社長のインタビュー記事に、「コンプライアンス」だとか、「企業文化」の話は出てきませんでした。
 「まあ、その程度の会社だな」と思っていたのですが、先日、その会社のかつての同僚と飲む機会があり、この話をしたら、「そう言えば、最近社長はやたら『文化大革命』と社内では言っていますよ」と言っていました。本当にその会社が風通しの良い会社になって、社員の士気を上げ、業績を上げることができるのか、現時点では不明ですが、かつて働いた会社だけに、良くなって欲しいとは思っています。

 さて、話が横道に逸れましたが、私たちターンアラウンド研究所https://www.turnaround.tokyo/ では、北野氏の指摘した「社員の長期の人財育成で社員が満足している会社は日本ではない」ということにチャレンジしたいと考えています。

 社員一人ひとりが自分のキャリア形成を真剣に考えるための仕掛けを、社員のパートナーである企業が社員に提供する、それが社員の士気を上げ、ひいては会社の発展につながる・・・そんなお花畑のルートを開拓したいと思っています。

お花畑

 また、社員の意識改革だけでなく、職場の風通しの良さなど、企業DNAに対するコンサルティング・アドバイスも、研修サービスなどと一体的にお手伝いできれば、その効果は高まるのではないか・・・お花畑の妄想は膨らむばかりです。

<ターンアラウンド研究所https://www.turnaround.tokyo/ 小寺昇二>

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