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それでも僕がナイロンラインを使う理由

 近年の釣り全般において、PEラインの使用が前提となっている。絶対的な強度が高く細い糸を使用することが出来るため、釣りの種類を問わず、その活躍の場を広げている。アジング等の例外はあるものの、細糸ゆえの飛距離と潮に流されにくい性質を考えれば当然とも思える。伸びが無く、遠くのアタリを伝えやすいのもメリットとして大きい。

 対して、ナイロンラインは「トラブルが少ないことだけがメリットの初心者向け安物ライン」として紹介されることが多い。確かにPEよりは絶対的な強度が落ちるし、感度も悪い。釣具屋でもボビン巻のものが雑多に下の方に置かれていて、何となく印象が悪いのも原因であろう。そしてたまに使われるとしたら、日の目を浴びることのないまま下巻きラインとしてPEの踏み台になっているのだ。

下巻き用のナイロンラインたち

 ではナイロンを使用する機会はもう全くないのかと言えば、そんなことはないと私は思う。むしろ、渓流でスプーンを主体にした釣りをするならPEよりもナイロンの方が有利だと考えている。今回はその理由を述べたい。

 なお、参考までに今の私のタックルを紹介すると、5 ftのライトロッドに2000番程度のスピニングリール、ラインはナイロンの0.8 or 1号で構成されている。使用するルアーは3-5 g前後のスプーンがほとんどで、たまに要所要所でミノーを使う。スプーン9.5割、ミノー0.5割といった使用頻度。


ナイロンの方が優れている点

リーダー不要

 ご存じの通り、伸びのあるナイロンは基本的にリーダーが不要である。PEは伸びが無く擦れ傷に弱いので、ショック吸収のためリーダーを結束する必要がある。

 私は釣りが上手とは言わないけど、ある程度色々とやってきているので完全な初心者というわけではないと思う。とはいえ、やっぱりリーダーを結ぶのはめんどくさい。渓流で使うような0.4号とか0.6号とかの細糸PEだと猶更で、ナイロンだったらスナップの1箇所だけでいいものを、リーダー+スナップと2回も結ぶのはやっぱり面倒だし、確実に余計な時間がかかっている。嫌だよやっぱり。早く楽に出来る方がええに決まってる。

これだけでも面倒。

視認性

 ナイロンの方が視認性が良い。いくらPEに視認性の良いカラーがあると言ったって、同じような色なら物理的に太いナイロンの方が当然見やすい。渓流だとPEは0.4~0.6号程度なのに対して、ナイロンはそのおよそ倍の号数を使う(0.8~1号)。2倍も太いのだから、明らかに見やすい。

 細いPEの場合、投げたスプーンの軌道を見失う。どこに飛んでいったかがわからない。糸自体が細いのもあるが、スプールから糸が放出されるときの抵抗が少ないために、ルアーの初速が早すぎるのも理由であろう。使うのがミノーであれば、そのサイズと空気抵抗の大きさから十分目で追える。しかし、ルアー自体が小さく、しかもよく飛ぶスプーンを目で捉えるのはちょっと厳しい。組み合わせの問題で、「PE×ミノー」であれば丁度良いと思う。でも私はスプーンを使いたい。

 着水後のルアーの位置を把握する上でもナイロンの方がやっぱり見やすい。キャスト時よりはまだ見やすいけど、木の陰になっていたりして光量にグラデーションがかかっている川では、PEはやはり細すぎる。頑張れば見えないことは無いのだが、これはやっぱりストレスだ。流したいコースを確実に通すためにも、太くてよく見えるナイロンの方が良い。

 よってナイロンの方が着水点をコントロールし易く、着水後にルアーの位置を把握する上でも有利である。結果として釣果につながると考えている。

細糸PEは見づらい。
ナイロンは見やすい。

投げやすさ

 これは個人的な好みかもしれないけど、PEはキャストフィールがどうもカタすぎる印象がある。カタい、というのは言い換えれば指を離すタイミング(リリースポイント)が掴みづらいということ。ちょっとズレると狙った位置に入らなかったり、変な弾道で飛んで行ったりする。ナイロンだと適度なゴム感があるので、多少リリースに失敗しても思った通りの所に飛ばせる。竿との相性もあるとは思うが、ナイロンの方が気持ち良く投げ続けられるから、集中力が持続する。

バラしにくい

 PEは伸びない。そのため、糸を張っているときはテンションがかかかっているが、少しでも緩めると全くテンションがかからなくなってしまう。この状態になると一気に針が抜けやすくなる。また、テンションを緩めないようにいくら気を付けていても、魚が首振りすればゼロテンションの時間がやはり生まれてしまう。そのため非常にバラしやすい。ナイロンは伸びるので、多少テンションを緩めてもゼロにはならず、一旦針がかかってしまえばバラしにくい性質がある。伸びのあるナイロンであればバレる確率もグッと下がるし、ゆっくりと余裕を持って寄せて来れるから魚へのダメージも少ない。

 さらに、ナイロンの方が魚もあまり抵抗しないように感じる。本当のところは聞いてみないと分からないけど、伸びながらゆっくりと力がかかるので「なんか流れが強くなったかな?」くらいにしか魚も感じていないフシがある。急激にテンションがかかったり抜けたりするPEは、魚にとって違和感がかなり強いのだろう。

 PEの伸びの無さを補おうとすれば、ドラグもしっかりと調整しないといけなくなってくる。弱すぎると大きな魚の口に針が刺さらないし、強すぎると逆に口切れしてしまうからだ。でもサイズなんていつもバラバラだし、この調整は実際の所なかなか難しい。大抵強めに設定してしまう。結果として口が切れたり傷口が大きくなったりした魚を見ることが多く、かなり気分が悪い。

流れの中から出てきたこのヤマメも、サイズの割にすんなりキャッチ出来た。

PEのメリット?

 さらに、PEのメリットとしてよく挙げられる飛距離・操作性・耐久性についても、渓流という状況限定だが、私はどうも疑わしいと考えている。あくまで「スペック」的なもので、現場で使った時の印象はかなり違う。

飛距離?

 まず、ハッキリ言ってしまうが、ナイロン (1号)とPE (0.4号)で飛距離にそれほど大きな差は無いと感じている。伸び縮みするゴムを想像してもらうと分かりやすい。伸びた分のエネルギーは縮む際に開放される。ナイロンもゴムのように伸びるから、キャスト時に伸びて縮む分、追加のエネルギーとして働くのだ。そのためナイロンは想像以上によく飛ぶ。逆に、伸びないPEでは竿の反発力だけで投げることになる。だからルアーを飛ばすエネルギーの総量が少ない。ただ、PEの放出抵抗はナイロンよりも小さいから、結果的に1号ナイロンと0.4号PEで同じくらい飛ぶ、と考えている。 もちろん竿にも糸にも重さを乗せない投げ方であればPEの方が飛ぶので、そういうキャストしかしない(出来ない?)のであれば話は別だが。

流されにくい?

 糸が細いからPEの方が流されにくいと言われる。果たして本当にそうだろうか。1号のPEであれば、同等の強度のナイロンは4号なのでPEの太さはナイロンの1/4になる。この場合は確かに「細いから流されにくい」と言える。

 でも、渓流でナイロンの1/4の細さのPEを使うことはない。1号前後のナイロンに対して、超超極細にあたる0.3号以下のPEは非常に扱いづらいからだ。よって細くても0.4号以上になる。実用上はナイロンの1/2程度の細さにしかならない。

 この程度だと、むしろPEはナイロンよりもはるかに流されやすい。撚糸であるPEは表面積が大きいことが利いてくるのだ。加えて比重が小さいPEは、水に押される糸の量もおのずとナイロンより多くなってくる(下の図)

PEの方が水に触れる部分が多い。

 結果的にこれらの要素が合わさって、ナイロン1号と4本撚りのPE0.4号で流されやすさに差はないと感じる。
 しかも、リップが上方向へのブレーキとして働くミノーと異なり、スプーンは浮き上がりやすい。これにPEは拍車をかけてしまう。この点からもスプーンとは相性が悪いように思う。

感度?

 感度もPEのメリットして挙げられるが、渓流でやるような20-30 m程度の範囲内であれば実際はナイロンでもアタリや底の様子が十分把握できる。
そもそも竿に伝わる感触でアタリを拾うことが、渓流ではそこまで重視されないと思う。ヤマメ・イワナ類は上流から流れてきた餌を追いかけ、喰ったら上流に反転するという性質がある。なので、アップにルアーを投げて喰ったら、余程の水深でもない限り水中で「ギラッ」と光るのが見えるだろう。そこで合わせればいいし、喰ったのが大物であればある程、反転した勢いで勝手に針にかかっている。また、ダウンで喰わせた場合には反転しないが、明らかに巻きが重くなるし、それが分からなくても巻き続けていればやっぱり勝手に針にかかる。よって、PEの方が絶対的な感度は高いにせよ、そこまでの感度は必要ないと感じている。

フッキング?

 伸びないPEは力が伝わりやすく、合わせが決まりやすいと聞く。しかし実際はナイロンであっても十分に合わせがきく。渓流でやるような距離であれば、多少の伸びは問題にならないからだ。逆に言えば伸びが無いPEは、合わせないとフッキングが決まらない。向こう合わせがほぼ期待できないのである。この点、ナイロンは伸びて縮むので、魚が咥えた段階で勝手にフッキングしていることも多い。よってフッキングの面でもPEが有利とはけっして言えないのである。

ナイロンでもしっかりと上顎にかかる。

耐久性・コスト?

 コストの面だってナイロンの方がだんぜんお得である。耐久性が高いと言われるPEだが、渓流で使う0.3-0.6号あたりは原糸自体が細いのでキャストの摩擦で傷みやすく、先端部分は結構すぐにヘタってケバケバになってくる。結局は数回ごとに先端を数メートルを切り詰めて使う。

 一方、耐久性が無いと言われているナイロンだが、余程の安物を買わない限り1度巻いたら1シーズン(50回程度)は使える。渓流の場合、吸水して弱くなる部分はそれこそ先端の数メートルほどだからだと思う。それも1回使った程度でそこまで強度が落ちる印象もない。

 これでPEラインが100 mで1500円なのに対して、ナイロンラインだと300 mで1000円程度なのだからちょっとバカらしくなってくる。リーダーも毎回のように替えるから、その分だって余計にお金がかかる


ライントラブル

 ライントラブルについては正直PEの方が少ないと思う。やはりナイロンラインはヨレに弱い。すぐにクルクルと糸同士がからまってしまう。PEもヨレないわけではないが、ヨレても絡まりにくい。この点については明確にナイロンラインの方が劣っている。たびたび捨てキャストをして、ヨレを解消する必要があるからだ。これは煩わしい。

 なお、風の強い時もPEが強いのか?という点だが、こちらは渓流・スプーンという状況・用途ではあまり問題とならないと思う。そもそも谷間の渓流で風が強いという状況はなかなか起こりにくい。加えて、糸ふけを出すような操作はあまり行わないタイプのルアーであるから、その点においても風の影響を受けづらいということである。

 だから、ライントラブルがどうしても無くならず困っている、という場合にはPEも選択肢に入ってくるのは申し添えておきたい。

おわりに

 ということで、普段あまり注目されることのないナイロンラインのアドバンテージについて、渓流という限定的な条件でまとめてみた。強いから「何でもかんでもPEでヨシ!」とは限りませんよ、という話。ナイロンにも良い所は沢山あって、それが私の使っている範囲ではPEよりも合っているなあと感じている。

 話は変わるけど、高いモノほど扱いづらい、っていうのは何もPEだけじゃなくて、釣り具全般にそういう傾向がありそうだ。高いロッドほどカーボンの比率を高めてキンキンに軽量化してある分、ちょっと急な力がかかったら折れてしまう。リールも最高級品に限って、設計が新しいせいで、大抵最初に変な不具合(という欠陥?)が出て、文句を言っているうちに後のロットや廉価版でシレッと改良されてたりもする。普通、工業製品って高い物ほど使いやすいもんじゃないの?スマホやパソコンなんてお金を出せば出すほど使用時のストレスは減る。どうも情報がメーカー側に偏り過ぎているし、何というか未熟な業界だなあと思う。

[追記]今回ここで挙げたPEのデメリットについて、何点かはリーダーをナイロンにして長めに取ることで解決できるかもしれない。少し試してみたい。


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