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【やさしい】卵管因子の最重症型【不妊症ガイド】

たなかゆうすけです。

卵管に問題にも程度があるという話をしました。

学術的に重症度分類があるわけではありませんが、卵管因子の最重症型であろう、卵管留水症(卵管水腫)についてお話します。

皆さん、ペンシルバルーンはご存じでしょう。バルーンアートで動物を作ったりする細長い風船です。空気を吹き込んで膨らんだ様子はまさに卵管水腫そのものです。

卵管には子宮側とおなかの中側の二つの端があります。子宮側の端が閉じていておなかの中側が開いている場合には、中に水は溜まりません。おなかの中側にすぐ出て行ってしまうからです。子宮側の端が開いていておなかの中側が閉じている場合には、すぐに水は出ていかずに中に溜まります。ペンシルバルーンの空気を吹き込む側が子宮側で、その反対側がおなかの中側です。水が溜まっていくとどんどんバルーンは膨らんで行きます。

子宮側の入り口は開いているので精子は卵管内を通過できますが、排卵しておなかの中に落ちた卵子は、卵管のおなかの中側が閉じてしまっているため中に入れません。このため精子と卵子が出会えず、受精は起こりません。当然それに引き続く受精卵の発育や子宮内への運搬、着床も起こらず、妊娠が成立しません。

対応としては、

1.卵管を再開通させる
2.卵管で起こることを、代わりに他の場所で起こす

の二つが考えられます。


卵管を再開通させる

卵管を再開通させるときには、子宮の中からアプローチする方法と、おなかの中からアプローチする方法が考えられます。子宮の中からアプローチする方法としてはFTカテーテルを使用することが考えられますが、これは実際にはうまくいきません。FTカテーテルは通常、卵管のおなかの中側の端までは届かないからです。おなかの中側からアプローチする場合は、腹腔鏡手術を行います。おへそからカメラを入れて目の代わりとし、下腹部から鉗子を入れて手の代わりとして、閉じている卵管を開いてしまいます。これを卵管開口術と言います。

そうして再開通させた卵管ですが、ちゃんと機能していなければ妊娠は成立しません。中のヒダ構造がすでに破壊されてしまっていれば、受精卵をうまく子宮の中まで運んでくれません。実際にはこうした卵管の機能を評価することは難しいのですが、大きく膨らんでしまった卵管では機能が損なわれてしまっていることがあり、再開通させても妊娠に結びつかないことが多くあります。


卵管で起こることを、代わりに他の場所で起こす

体外受精・胚移植では、卵管で起こる受精から受精卵の発育、受精卵の子宮内への輸送はすべて体外で代替して起こすことができます。卵管がうまく機能するかどうかを心配する必要はありません。これで問題は万事解決…と言いたいところですが、卵管水腫は体外受精・胚移植でも問題を起こします。

卵管内に溜まった液体は、子宮側の入り口が開いているため逆流することがあり、これが着床を妨げたり、流産の原因となることがあります。絶対に出産ができないというわけではありませんが、着床しなかったり、流産したりすることを繰り返すと、保険での移植回数を使い切ってしまうことがあります。胚移植に先行して対応を行うか、移植不成功の場合に対応を行うかは難しいところではありますが、個人的には明らかな卵管水腫については先に対応することをお勧めしています。

対応としては、中の液が逆流しないように子宮の入り口側を閉じてしまう方法と、卵管を切除してしまい水が溜まる場所を無くしてしまう方法に分かれますが、卵管を切除してしまう方法が選択されることが多いです。


このように、さまざまな問題を起こす卵管水腫ですが、しっかり診断して適切な治療を行えば、妊娠・出産は可能です。原因がわからない着床不全を反復する場合には、再度評価を行うことも重要です。



妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…

たなかゆうすけでした。

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