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戯曲『昨日を0とした場合の明後日』


上演時間45分


・第6回名古屋学生演劇祭
・第3回全国学生演劇祭
・はねるつみき第一回本公演『センテンススプリングブロックス』

と上演された中で、全国学生演劇祭の上演台本をリライトしたものです。


登場人物

女1 
女2 
女3 
男 


【000】


 全国学生演劇祭、二団体めの作品が終わって場転中、うちらがラスト。
 舞台上にはばらまかれた衣装。
 女1を演じる役者以外の役者三人、続々と出てきてアップとか雑談とかをする。


【00】


 開演のアナウンスが鳴る。それかブザー。
 女1を演じる役者も出てくる。
 役者たち、床に散らばる衣装を着始める。


女1  ねえ。ちょっとおかしくない?
みんな  ・・・
女1  ねえ。ちょっとおかしくない?
みんな  ・・・
女1  ねえ。ちょっとおかしくない?
みんな  ・・・
女1  ねえ。ちょっとおかしくない?
みんな  ・・・
女1  おい
女3  え?
女1  え、ねえなんで無視した?
女3  無視してないよ
女1  したじゃん
女3  いや誰に言ってんのかなと思って、私じゃないかなーと思ってスルーしちゃった
女1  いや皆に言ったし。誰も聞いてくれないと独り言になるじゃん、あのさ、誰も聞いてくれないと独り言になるじゃん、なんか、皆いるのに私1人みたいな、皆は仲良く話してたのに私1人みたいな、私だって話しかけてたのに、みんなシラ〜って顔して、え、なにバカされてるよね 本当うっぜんだけど、殺すぞ
女3  死なないもん
女1 (無言で殴る)
女3  てっ! だから、誰に言ってんのかなーって思ったから、
女1  お前、お前に言ったの
女3  ごめんね



 無視して女1、着替える。


女3  ごめんね
女1  ・・・
女3  ごめんね ごめんね ごめんね ごめんなさい ねえ ごめんね ごめんね! ごめんなさい! ごめんなさい! 謝ってんじゃんごめんね!(怒)
女1  ねーえ、おかしくない?
女2  なにがですか
女1  ちょ、あんたも、聞いて
男  聞いてるよ
女1  今までのさー昨日もやってたことない?
女3  うん?
女1  今までここでやってたやつ!
女3  ここでやってたやつ?
女1  だからさっきまでやってたやつ!
女3  何の話かな
女1  だから、ここで、
女3  うん
女1  人が出てきて、動いて、喋ってって、昨日もやってたことない?
女3  なんのこと言ってんのかさっぱりなんですけど
女1  なんでわからんの
女3  は?
女1  ちょ、着ないでそれ私の
女2  あ、ごめん
女1  お前あれだぞ、最近、あれだからな
女2  ごめん
女1  なんで伝わんないかな、もーほんと病むわ、病むわー。・・・。
女1  ねーだから、ここの、今までの全部、昨日もやってたことない?
女3  何回それいうの
女1  なんでわからんのお
女3  はあ
女1  だって今喋ってるこの会話だって昨日だって
みんな  ・・・
女1  おーい
みんな  ・・・
女1  無視されてんのだって昨日

【0】


音楽。
次の文章は、プロジェクターで映し出される。


	(爆)

	僕 君 
	ア ビューティホー スター

	(爆)

	この恋も キスも スキも キライも
	消えたことに気づかないまま消えてゆくんだね

	(爆)

	僕は本当に僕と君だけでよかったんだけど
	君はそういうわけにいかなかったみたいで
	残念だ、本当に残念だった

	(爆)

	ねえ
	これが0なんだね

	はねるつみき
	昨日を0とした場合の明後日


【1】始まり


 女1、まっさらな空間にいる。


女1  まっさらな場所にいた まっさら というと少し違うかもなんだけど 世紀末かなって具合にどこまでもゴツゴツとした岩 岩がゴツゴツと続いて あっ違うこれは岩じゃない コンクリートだ と気づいた時には 昨日まであった私の幸せはもうどこにもないんだなあというのはなんとなく察していた 考えることといえばこれからどう生きていこう ということだけ ああ 情報社会に揉まれても結局は私も野生 野生なのだ


 男が現れる。


男  あ、すみません
女1  あっ。・・はい
男  初めまして
女1  初めまして、
男  はい
女1  はい
男  ・・・
女1  ・・・なんですか
男  いやえっと
女1  はい
男  なんでこうなったかわかりますか
女1  いや
男  ここ、場所どこらへんだかわかります?
女1  いやわかんないですけど
男  あ、そう
女1  はい
男  え、もう帰れないんですかね
女1  えっ帰るってどこにですか
男 家
女1  家?(腑に落ちない感じ)
男  家!
女1  はあ
男  家 あと 大学 友達んち 彼女んち バイト先 車校
女1  え、なに言ってるんですか
男  えっ
女1  ばかですか
男  ばか?
女1  だって、なにもなくなっちゃったことなんてわかりきってますよね? 誰もいない、もう私たちしかいないって
男  え
女1  かーぞくー
男  ・・
女1  しーんゆうー ・・ほら返事がない。やっぱりなにもないです、もうなにもないんです
男  そんな
女1  もう全部0になっちゃったんですよ
男  認めないです
女1  にーんげーん
男  ・・・
女1  ほら
男  本当に・
女1  失ったんだって受け入れなきゃちゃんと、じゃないとダメですよ。私たちこれからも生きてくんですから。
女1  私たち男と女で良かったですね
男  は
女1  早速作りましょう
男  なにをですか
女1  なにをって、この星の、新しい、命
男  え


【2】現代


 女2【高三の女・トモコ】が現れる。


女2 こうして二人は子供を産みました その子供は子供を産んで また子供は子供を産んで 人間たちはあっという間に増え 街ができ国が生まれ今に至るのだと学校で教わりました この2人の子孫は代々国を治め 2人の子孫である王家の人たちは やがて「かみ」と呼ばれるようになりました


 女3【よこちんというあだ名で名前はハルカ】が現れる


女2  でもそれっておかしな話だよね だってこの人間の始まりがたった2人の男女なら 私たちだって2人の子孫で 私たちだって「かみ」じゃない? ね、よこちん

女3  ともちゃん、行こ
女2  うん


 学校の帰り道。


女2  ねえ最近彼氏とどうなの
女3  まあまあかな
女2  ふーん。冬休みどっか行った?
女3  東京ディスティニーランドゥ
女2  いいなあ
女3  で? そっちはどうなの
女2  そっちって?
女3  そうやってとぼける。田中くん
女2  ああ
女3  田中くんもよくやるよねえ 
女2  そうだよね
女3  また告白されたんでしょ
女2  された
女3  またふったんでしょ
女2  ふった
女3  でも、ともさ、田中くんのこと好きなんでしょ
女2  好き
女3  え、ねえほんとにわかんない
女2  何が
女3  なんで好きな人に告白されてんのにふるの?
女2  いやそれどころじゃないじゃん今
女3  えー
女2  恋愛とか、してる場合じゃなくない? 
女3  そうかなあ
女2  いや、もう相手がいる人は別だと思うけど
女3  うん
女2  こんな、人類が滅びるかもってしてる時に告ったりするのどうかと思うわけ。だからちょっと田中くんには萎えてる
女3  私ともちゃんのいうことよくわかんない
女2  わかんない?
女3  うんわかんない
女2  そっかあ
女3  ごめんね


女2  ・・・今日はなんか変わるかなあ
女3  え?
女2 たまに思うの、私たちがしてることに意味はあるのかなって
女3  ・・・
女2  ね、思わん? 思うやろ?
女3  こういうのはやることに意義があるから
女2  あ、うん、いやでもさ
女3  早くいこ
女2  ・・うん


【3】男


 男【25歳くらいの社会人にみえる】が現れ、女2、3の行く手を阻む


男  こんにちは
女2  こんにちは
女3  ・え、知り合い?
女2  いや
女3  えっ?
男  ちょっといいかな?
女2  ・・はい
男  いつもデモにいる子たちだよね?

 顔を見合わせて、歩き出そうとする女2・3


男  あっ 待って待って!
女3  えっ なんですか 怖いです
男  えっ 怖くないよ
女3  どいてください
男  いや
女3  通報しますよ!
男  いやそれはないでしょ
女2  なんですか、
男  いや、君たちさ、今からデモ行くんでしょ
女3  え、
男  デモ行くんでしょ?
女2  行きますけど
女3  なんで知ってるんですか通報します!
男  ちょっと!
女3  なんなんですか、ほんとなんなんですか
男  いや、いつも見てたから
女3  いつも見てたから!?
男  あ 職場の窓から見えるの、デモの様子が
女2  へー、
男  やめた方がいいよ、ほんとああいうの
女3  なんでですか
男  だってデモとかさ、やる意味ある?
女2  どういう意味ですか
男  いやなくない?
女2 よこちん、行こ
男  いやいや、あのさ、うるさくて迷惑してるのねこっちわね、君たちそういうこと考えてる?
女3  いやあの!
男  なに
女3  あなたこそ真剣に考えてるんですか!
男  は? なに
女3  あの人たち偉そうじゃないですか!
男  偉そうって
女3  そういう上下関係みたいなの、よくないと思うんです!
男  ばかなんじゃないの
女3  はあ!? 
女2  よこちんいいよ 行こう
女3  あ、うん
男  とりあえずうるさいからやめてね デモなんかじゃなんも変わらないと思うけどな

 男、去る。

 去った後を見つめる女2・3。


女3  ・・・私帰るわ
女2  えっ
女3  なんか、帰るわ、ごめんだけど
女2  そう、
女3  うん、ごめん、じゃね


 女3、去る。
 少し思案したのち、女2も去る。


【4】かみ


 女1【かみちか】が現れる。
 女1はネックピローを首につけている。
 かみの城。


女1  新キャラです。

女1  痩せたい 海行きたい 友達いない 最近彼氏 会えてねー 寂しい ウケる 寂しがってる私可愛い〜 っつって 無力無知無能わたしたち若者 は大人に食い殺されるだろう 痩せたい 痩せたら どうにかなる気がする 綺麗な女になったら みんなが私の未来 命 大事にしてくれる気がする なんて 気休め ダイエットなんて まやかし 理不尽への怒りの矛先を贅肉に向けてごまかす現実逃避 もーらめらめ ファイトーン わたし に明日って来るのかな でも 足の肉 気になる んだよなあ


 女2は少し高いところ、もしくは離れたところから、女1へ声をかける。


女2  あっ!
女1 (びっくり)
女2  すみませーん!
女1  誰ですか
女2  あの!
女1  ねえ知らん人入ってきた!!
女2  あ、すみません人呼ばないでください!
女1  なに、なんですか
女2  あの、そっち行きますね!
女1  は!?
女2  そっち行きますー!


 女2、女1のもとへ行く。


女2  あ、こんにちわ、
女1  こんにちわ、あの
女2  かみさん
女1  あ、はい
女2  あの、あ、私不法侵入なんですけど
女1  は!?
女2  不法侵入なんですけど、
女1  ねえ不法侵入の人入ってきた!
女2  あの、
女1  誰ですか
女2  あ、原田智子です、あの、普段は学生デモに参加してて
女1  ねえ学生デモ(遮られ)
女2  すいません、聞いてください!
女1  え、
女2  話がしたくてきたんです!
女1  話
女2  デモ、じゃ何も変わらないと思って、直接かみさんと話がしたいと思って、きちゃいました
女1  きちゃいましたって、
女2  きちゃいました
女1  よく入れましたね
女2  あ、ボルタリング部なんで
女1  ああボル・・え、登って入ってきたんですか!?
女2  あの、話、聞いてもらっていいですか、
女1  ええ、こわいです
女2  話、聞いてもらっていいですか!
女1 殺されるぅ
女2  なんでですか
女1  だって18階ですよここ デモの人でしょ 嫌いでしょ私のこと
女2  いいから聞いてください! じゃない 聞かせてください!
女1  ええ、
女2  ウルトラスーパーミサイルのことです!
女1  ・・・
女2  あのぉ、

【5】家


 男、女3を追いかけて道端


男  あ、ねえねえさっきはごめん
女3  えっ
男  ほんとごめんね
女3  いや別に
男  いい子だね二人とも
女3  え?
男  だってデモに二人とも行かなかったでしょ ちゃんと俺のいうこと聞いてくれた
女3  ああ、はい、
男  もともと声かけたのも いつも見かけてて 可愛いなあって思ってんだよね
女3  はあ
男  よかったら俺の家こない?
女3  え、家?
男  だめ?
女3  え、だって家って、
男  え、ねえ、だめかな、俺だめかな、
女3  ・・だめじゃないです

【6】年齢


 かみの城。


女2  あの、黙ってないでなんか言ってくれませんか
女1  ・・・え、なんなんですか 誰なんです? ちょっと私混乱してるんで、もう一回ちゃんと名乗ってください
女2  あの、私思うに、自分が先に名乗るのが礼儀じゃないんですか
女1  ボルタリングで人ん家に入ってきた人が礼儀もクソもないでしょう
女2  それは謝りますけど。
女1  え、ていうか私のこと知ってますよね?
女2  礼儀だから。儀式だから
女1  ・・かみちかです 一応、先祖代々の家業でこの星の長みたいなことやってます 18です
女2  え、18? 私も!
女1  え、ほんとに!?
女2  え、やばい同い年って思わなかった!
女1  え、私もさ、周りに同い年ずっとおらんくて!
女2  そうよね、だって偉い人だもんね
女1  そうそう、だから友達ずっとできなくてさ、
女2  えーそっかー!
女1  タメかー!
女2  やばー
女1  え、嬉しい! 
女2  えー仲良くしよー!
女1  しよー! まじでー!
女1  あ、ねえかみちかって名前どう思う? 
女2  どう思うって?
女1  千の可能性って書いてちかじゃんね、名前は気に入ってるんだけどでもかみちかってフルネームってどうかな
女2  えー超いいと思う
女1  えーそかなコンプレックスだったんだけど〜
女2  そんなことな〜い
女1  なんかアイドルの愛称みたいじゃん〜
女2  え〜可愛いよ〜ちか!
女1  あ〜友達だ〜! 嬉しい〜!
女2  私も嬉しい〜! 高3〜?
女1  あ、大一です
女2  あっ(急に冷たくなる)
女1  ・・・・
女2  ・・・髪染めてらっしゃいますもんね
女1  ちょ敬語戻らんで
女2  あ すいません
女12 ・・・・

【7】確認


 男と女。


女3 お邪魔しました
男  ありがとね
女3  いや、こちらこそ
男  駅まで送るよ
女3  どうも
男  あのさ 俺たち付き合ってるよね?
女3  はい?
男  付き合ってるよね?
女3  え、どういうことですか?
男  付き合ってない男の家上がったりしないでしょ普通
女3  え、 
男  え? 違うの? え、そうじゃないわけないよね
男  え、じゃあどうして家上がったの
女3  ・・ 
男  えっ何なの。ならどうして家上がったの? 
女  ・・・
男  ・・・あ、もしかして彼氏いる?
女3  ・・います
男  じゃ別れて
女3  え、でも
男  俺じゃダメかな
女3  ・・別れます
男  そっか! じゃ付き合おっか


男  ああ、あと、もうデモ行くのやめなね
女3  えっ、いや、でも、
男  大声出してみっともないから
女3  みっともない・?
男  あのね俺、かみの元で働いてるの
女3  えっ、嘘、
男  ほんと。かみの城で働いてるの。だからいつも君たちのこと見かけてた
女3  ・・
男  自分の彼女のみっともない姿見るの嫌だからやめてね
女3  ・・わかった、やめる

【8】ウルトラスーパーミサイル


 かみの城。


女1  流石にそろそろなんか喋ってくれないかな
女2  あっ、すみません・・・こういう気まずいの苦手で
女1  いやわかるけどね
女2  ちょっと頑張って気にしないようにしますね
女1  うん
女2  あの、そう、ウルサイルの話
女1  うるさいる?
女2  あ、ウルトラスーパーミサイルです
女1  そんな風に略されてるんですね
女2  地球の上にあるものすべて消し炭にしてしまうミサイル、
女1  デモの方、ミサイルを早く処分するべきだって言いにきたんだよね? あの、残念なんだけど、必要悪っていうか、
女2  譲って欲しいんです
女1  ・・・譲ってほしい?
女2  はい、ミサイル
女1  譲って欲しいって、え、あ、よくわかんないんですけど
女2  使いたいんで、ミサイルを譲ってほしいです
女1  ・・いやだめですよ
女2  ええ~だめなのかよ~!
女1  逆になんでいいと思ったんですか
女2  え、かみさんも私と同じだと思ったんですけど
女1  は
女2  だってかみさんだってみんな殺したいと思ってるでしょ
女1  ・・・原田さん?
女2  はい
女1  ちょっとちゃんと話しますか

【9】回想シーン


 女3が現れる。


女3  いこ、ともちゃん
女2  ん?
女3  回想シーン!
女2  ああ、デモか
女3  今日かみちかの就任式だよ、張り切らなきゃね
女2  うんわかってるよ
女3  がんばろ!
女2  がんばろ!
女3  気合い!
女2  気合い!


なんか壮大なM


男  これより神職の就任式を執り行います。


就任式。

男が女1にネックピローを授与する。

女1がかみの職についたことがわかる。


女1  今日この時間よりこの星の神を勤めさせていただきます、かみちかと申します。えーと。神だった父さんが死んだのは私が4つの時でした。ニュースは病気で亡くなったと報じられていましたが、本当は、本当は、本当は、殺されました。母が神になれば得をする人物たちの目論見によるものでした。この度亡くなった母もそうです、殺されたのです。果たして人に殺される神がいるのでしょうか


沈黙。それを破る声。


女3  偉そうだからしょうがなくね?
女1  いずれ私もきっと殺されます。将来できるであろう夫や、子供も、いつか殺されます。私は私を守ってくれない星をどうして守らなきゃいけないんですか
女3  かみのくせに何言ってんだ、しねよ!
女1  あなたが死になさい。
女1  ね、私、人間でしょ。何が「かみ」でしょう。嫌いよ、みんな、みんな、
男  (妨害し)終わり 終わりまーす

 男・女1が去る。


女3  おい逃げんのか! かみくそ! かみくそー!


 女3はける。


【10】やり直し


 舞台は再びかみの家。


女2  敵で悪だと思ってたかみさんたちが私たち人に殺されてるんです。私あの時思いました。私、だれを守るためにデモやってんだろうって。私悲しくて、こんな悲しいばっかならもういっそ
女1  うん
女2  だからミサイルほしいなあって バカだって思いますか?
女1  私も、ずっとミサイル撃つこと考えてた
女2  そうなんですか
女1  あの、私恋人がいるんです
女2  へえ
女1  でも今、彼狙われてて。
女2  え、命ですか?
女1  はい、命。何度か危ない目にあってるみたいで
女2  それは
女1  私がかみだからです そうじゃなかったら彼のこと巻き込んでなくて、 何とか変えたいんですけど。かみなんてシステム、変えたいんですけど。もう変えれないと思うんですよね。その前に殺されると思うんです、彼も私も
女2 はい
女1  どうしても彼を守りたいんです
女2  はい
女1  あの、このうちにウルトラスーパーミサイルにも耐えれるシェルターがあるんです
女2  シェルター?
女1  防空壕みたいな
女2  ああ、はい
女1  私がミサイルのスイッチを押すので、原田さん、そのシェルターに入ってくれませんか
女2  ・・・え
女1  世界をやり直してくれませんか
女2  かみさんは
女1  スイッチを押さなきゃいけないので。シェルターには入れません
女2  あの、え、それって
女1  私は死にます。血を絶たないとちゃんと終わらないと思うんです、かみは
女2  え、あの、
女1  町にもう一つシェルターがあります。恋人をそちらに向かわせます。なので全部が済んだらその子と一緒に
女2  嫌です
女1  え、どうしてです?
女2  え、だって、かみさんのこと、結構好きだなって思ったから
女1  ・・・
女2  守りたい人かもなって思ったんです。友達になれるかもなって
女1  ・・すっごい嬉しいですけど、
女2  少し考える時間をください
女1  はい 返事は 私が殺される前にくださいね

 女1、去る。


【11】こどもたち


女2  帰り道は夜だった 市内 名古屋の大須観音って神社みたいな寺みたいなのの近くに住んでる 私の家の二つ隣には演劇とかの小さな劇場があって 衣装っぽいのを着た人達とお客さんっぽいたちがたくさん立ち話をしてて道の両サイドを埋めていた 必然的に私は狭い道路の真ん中を 車道を歩くしかなくて 基本的に真面目だからイライラした 国語の先生が「演劇とデモは似てるよね」って言ってたの思い出して 余計イライラしちゃって イライラ悲しい 貼ってあるチラシを見たら「こどもたち」って書いてあった。さよならって口に出してみる さよならっていうと大抵のことは許せる ほんとにさよならできるっていうか だからさよなら こどもたち。


 学校のチャイム

 次の日、高校の帰り


女3  あ、おった 6組終わるの遅いね、ウケる
女2  よこちん ・・あ、今日もデモいく?
女3  行かない
女2  え、
女3  私もうデモ行かないことにした
女2  あ。え、どうして
女3  行くなってさ
女2  あ、受験? 親?
女3  ううん、彼氏
女2  あ、そう・・
女3  職場でデモされるとうるさいんだって。大声出してる姿、みっともないんだって もういけないよね そんなこと言われたら
女2  イナダ君がそう言ったの?
女3  ああ、変わった昨日。あの人と付き合った。あの男の人。あ、でも彼氏っていうか今朝別れようってラインきたからもう元彼か。覚えてる? 
女2  え、待って待ってどういうこと? イナダ君は
女3  乗り換えたの
女2  え、昨日?
女3  昨日
女2 え。
女3  なんよ
女2  まじで
女3  うん
女2  きも
女3  ・・・
女2  あ、ごめん。
女3  ・・・
女2  でもやっぱイナダ君がかわいそう
女3  ・うん
女2  付き合うってそんななんかな
女3  わからん
女2  イナダ君のこと守ってあげたいとか思わんの?
女3  守る?
女2  うん
女3  ちょっと重くね
女2  え
女3  守るって何? 重くね? なんかわかんないけどさーもっと自由でいいと思うんだよね私
女2  え。じゃあ
女3  ん?
女2  なんでよこちんデモ参加してたの。彼氏とか、家族とか、好きな人をさ、守りたいからじゃないの?
女3  えっ?
女2  前からなんとなく変な感じはしてたけど。ねえなんでよこちんデモやってるの
女3  え、なんか
女2  うん
女3  一体感、あるやん
女2  ・・・
女3  わーってさ、なんか、みんなでわーって叫んでさ、わかるやろ、それにほら、デモで出会えた人だっている。素敵じゃん?そういうの
女2  稲田くんかわいそう
女3  ・・・
女2  最低や

 女2、去る。


【12】ヒトカラ


 ミラーボールとか、カラオケの画面とか、タンバリンとか、マラカスとか、みんなでわちゃわちゃして、楽しそう。


女3  急激に情けなくなった 自分のバカに嫌気がさした 逃げたくなった 逃げたい 何かからすごく逃げたくて どうしようもなくて 大声を出したくなったけど もうそんな場所はなくて 人から 逃げたくて ヒトカラ だから 私は歌うことにした 歌います 歌いまーす! レッツゴー! レッツゴー レッツゴーレッツゴー&ピースピース!


全員で楽しそうに次の歌詞※を歌う。


好きな人が優しかった
嬉しい出来事が
増えました
大事な人がわかってくれた
感動的な出来事と
なりました
ザッツ オール ライト!
ピース!


 女3は空を見上げる。


女3  帰り道、ビルの隙間から見える狭い空、星は見えなかったけど、飛行機が飛んでいた。来月の三連休はともちゃんをディスティニーランドゥに誘おう。デモとかなくてもきっと友達でいれるよね。絶対明日仲直りしよ。絶対明日


 女3、歩き出す。

 街並み、喧騒。人が行き交う帰り道。

 偶然、男とまた出会う。


男  あれ、はるか?
女3  ・・
男  はるかじゃんうけるー
女3  ・・え、何で、なんでそんな何もなかったかのように話しかけれるの
男  えーなんでよ
女3  どうせ、今までだって女の子たくさん、たくさん私みたいに、女の子口説いてさ、どうせ
男  ていうか、こんなに偶然会うってなくない?
女3  ない、もう会いたくない
男  やっぱり運命じゃないかな
女3  は?
男  ねえ、やっぱもっかい付き合わない?
女3  ふざけないで
男  えー
女3  私もうこんなバカなことくりかえしたくないの。あなたもやめた方がいいよ、どうせいつもこうやってやってんでしょ
男  ねえ今から俺の家来てよ
女3  私の話聞いてなかったの
男  だめ?
女3  え、
男  え、ねえ、だめかな、俺だめかな、
女3  ・・・ずるい

【13】苗字


 かみの家


女2  こんばんは
女1  あ、原田さん
女1  今日も登ってここまで?
女2  あ、はい、普通に壁登ってきました
女1  いやすごいなあ、その体でどうやって、ここ18階だよ
女2  えへへ、
女1  そんなすごいならきっと大丈夫だね、私の恋人任せても
女2  ・・はい
女1  ・・あ、覚悟決めてくれたんだ。ありがとう
女2  ・・かみさん、彼氏さんと結婚しないです?
女1  しないよ殺されちゃうよ彼氏。私かみだもん
女2  えっと、じゃあ、
女1  うん、なに?
女2  私と結婚しましょう かみさん
女1  え、へへ、どういうこと
女2  私の苗字あげます!
女1  ・・・
女2  かみって苗字がダメなんなら、私の原田あげます、苗字あげるんで、今! だからかみさんの名前、原田千可って、うん、とっても可愛いと思うし、かみさんとなら全然私同じ苗字で、家族になっていいから だから、死ぬとか言わないでください
女1  ・えーと、
女2  私と結婚したらかみさんはかみさんじゃ無くなるから、彼氏さんと結婚しても大丈夫じゃないですか、
女1  んん? え、それは、ええと、えーと、どういうこと?
女2  ああごめんなさい、なんか、なんでもいいと思うんです、なんでもいいから、私は、守りたい人ちゃんと守りたいなって思ったんです
女1  ・・原田さん。ごめんね。嬉しいよ? でも、ごめんね
女2  嫌です
女1  私がスイッチを押さなきゃいけないんだ

女1  ねえ原田さん。あなたの優しさ受け取れなくてゴメンなさい。あなたが優しいから、私自分が卑しくなっちゃって、ほんとの気持ち言うね。私、あなたのこと、憎い。私は遠くに行っちゃうのに、あなたはこれから私の恋人と2人っきりの世界で生きてくなんて。なんかお芝居みたいだね。原田さん、ヒロイン? 主人公? 羨ましいなあ、私あなたになりたい。本当は死にたくないし、何も譲りたくない。あなたが憎い。私死んだら天国からあなたのことずっと見てるね。見ててあげるね。原田さん、あなたのことゆるせないから、新しい世界でたくさん苦しんでね。たくさん泣いてね。そしたら原田さんのこと、きっと愛おしく思える。あなたが生き抜いたことにちゃんと拍手してあげれるから。原田さん、たくさん悲しんでね

女2  悲しい思いがいやだから、私世界をやり直すんです
女1  わかってるよ。でも私あなたに悲しんでほしい。なんでかなあ
女1  いくか
女2  ・・・
女1  原田さんはシェルターに向かってください
女2  場所どこですか、かみさん
女1  ・・・ちかだよ!


【14】男と女3


 男の家。


男  入って

女3  ベッドに座ると当たり前みたいに押し倒されてセックスが始まる。この歳で割と経験豊富な方だと思うけど、セックスで気持ちいいと思ったことが一度もない。つまり、私は処女だ。処女膜はないけど処女だ。汚らわしいお前と違うんだぞ。純粋なんだぞ。お姫様だぞ。雑に抱いたら絶対ぶっ殺す。そんなことを考えてると突然、彼は、私の首を絞めた


 男が女3の首を絞める
 女3は男を突き飛ばす


男  痛、
女3  え、な、な、何
男  落ち着いて
女3  来ないで! こ、殺さないで!
男  違うよ
女3  え
男  首締められると感度上がるんだよ
女3  ・・そうなの?
男  うん、そう。はるかにもっと気持ち良くなって欲しいからさ

 まちに、アラームが鳴る


女3  え なんだろ
男  ・・・(なんのアラームか察してください!)
女3  こわ、ねえ、何これ
男  ・・
女3  え、ねえ。ねーえー
男  続きしよっか!
女3  え、知ってるこれ?
男  知ってるけど、
女3  知ってるの、
男  ・・かみさま怒らせちゃった罰かな
女3  ? なになに
男  ミサイル発射のアラームだよ、これ
女3  ・・嘘!
男  嘘〜
女3  もーまじ殺す
男  ね、続きしよ。あ、もうこれなくていいよね
女3 は、ちょっと、なに外してんの妊娠しちゃうじゃん
男  大丈夫
女3  いや生無理だから
男  えー俺したい 生で繋がりたい!
女3  クソ野郎
男  口悪いな 大丈夫絶対妊娠しないから!
女3  絶対って何 妊娠したら? 妊娠したらどうするの?
男  何それ超ラッキーじゃん! 責任とって君と結婚する!
女3  ほんと適当しか言わない。嘘つき
男  心外なんだけど 俺嘘ついたこと一回もないよ
女3  嘘ぉ
男  俺わりとちゃんと、結構君のこと好きだよ

 男、女3の首を絞める。


男  これまで 俺 女の子いっぱい連れ込んでさ なんでこんなこと繰り返してたのかって 今気づいたんだけど 子供欲しいんだな


【15】終焉


 爆発音。スモーク。音。
 シェルターに入っている女2以外チリとなり、霧散する。
 衣装を脱いだ女1が入ってきて、男と女3の衣装を剥がしていく。
 世界が終わっていく。


	(爆) 

	僕 君 ア ビューティホー スター

	(爆)

	この恋も キスも スキも キライも
	消えたことに気づかないまま消えてゆくんだね

	(爆)

	僕は本当に僕と君だけでよかったんだけど
	君はそういうわけにいかなかったみたいだね
	本当に残念だ 心底、残念だ

	(爆)

	ねえ
	これが0なんだね
	


【16】0、再び


 この状況を俯瞰して見ていた神が3人、地上を見ながら話している。


女1  ねーえ。ちょっとおかしくない?
女3  え?
女1  こうして歴史は繰り返して行くのか
女3  なにが
女1  え、だからさっき、さっきのこのこれ
男  なにが
女1  五千年前もやってたことない? 今までの
男  今まで?
女1  今までここでやってたやつ!
女3  ここでやってたやつ?
女1  いやわかれ
男  そう言われても
女1  だから、ここで、
男  うん
女1  人が出てきて、動いて!
女3  うーん
女1  人類滅びた方がいいねっつってミサイル飛ばしてほぼ絶滅って、全く同じこと、五千年前もやってたことない? 
女3  あー、やってた思い出した
女1  だよね、やってたよね! 
女3  五千年前も一億年前も70億年前もやってた
女1  ついでに、私のこの話も5千年前も一億年前も70億年前もしたけどね! 何とか止められないかな
男  あ、そうだよね、止めたい
女3  止めれないよ、
男  ええー
女3  俺たちはみてるだけ
女1  でも、なんかできること、
女3  ないよ、見てるだけ
女1  冷たいね、神様のくせに
女1  ああ、でも、人間にとっての神は私たちじゃなかったみたいだよね
男  え、そうなの?
女1  ちかって女の子が神って呼ばれてた
女3  あいつら名前なんて好き勝手つけるからな
女3  でも、そういう時代なんじゃない。だれだってかみになれるんだよ
女1  だからもうその時代は終わったなうじゃん、今からは違う時代なんだよ
男  うまく転ぶといいな〜
女3  うまく行ってもまたすぐ終わっから
女1  そういうこという
女3  そういうもんでしょ
女1  つまんない 繰り返す時代を わたしたち ただ 見てるだけ


	はねるつみき

	昨日を0とした場合の明後日


【17】始まりも再び


 まっさらな空間に女2がただ一人、立っている。


女2  目が覚めたらまっさらな場所にいました。草もない、土もない、まっさら、でした。まさに0でした。ここが終わりだなと思いました。始まりだとも思いました。私は作らなきゃいけません。子供を、街を、緑を、カラオケを、幸せを、希望の、星を、作らなきゃいけません。希望?という言葉を使って違和感があった。人類を殺した私が希望という言葉を使うことはなんて罪だろう。もしかして、五千年前、世界が終わって始まった時、もこんなことがあったのかもしれない。かみの姓に縛られることはそんな人間への罰だった、のかもしれない。そんなことを思った。だとしたら、0を繰り返した意味ってなんなんだろう


 ふと、女2の目の前にネックピローが落ちている。もちろん私たちにそう見えているだけで、女2にとってはネックピローではない。かもしれない。それを拾う。


女2  いや。私は少し学んだ


 女2はネックピローを頭につける。
 王冠やティアラのように見える人がいるかもしれない。0の半分に見える人がいるかもしれない。耳を塞いでいるように見える人もいるかもしれない。ただ滑稽な姿に見える人もいるかもしれない。かわいいと思う人もいるかもしれない。
 女2はゆっくりと歩き始める。

     「誰かの言葉」

	「「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」」

	「この時代の名前どうしよね」

     「アホとか?(笑)」

     「ふざけすぎ」

	「待ってまだ続きがあるの」

	「「そして賢者は経験から悟る」」

	「ねえ、私あの子に頑張れって伝えたい」

	「だからよォ」

	「俺たちは見守るの、それだけなの」



 誰か男の声が、どこか遠く(その声は照明卓か音響卓に座ってる人またはプロジェクター操作者、つまりはギャラリー)から聞こえる。

? にーんげーん!

 女2はネックピローを放り出し、男の声に応えるために大きく息を吸い込む。

 暗闇。


【⓪】


 溶暗。女2を演じた役者は衣装をその場で脱ぎ、ぽいっと捨てる。
 役者が全員出てきて、4人揃ってお辞儀をする。お客さんたちはきっとそれを見て拍手をしてくれる。笑いそうでも泣きそうでもわざと無表情を作って4人ははけていく。最初と同じく舞台上には大量の衣装が散らばっている。

「昨日を0として場合の明後日」

終わり。



※モーニング娘。の楽曲「ザ⭐︎ピース」より引用。


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