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祇園(京都)

「千と千尋の神隠し」ではないが、夜になれば光景は一変するのだろう。人通りの少ない祇園の北側の飲食街ー夜の飲み屋街と言ってしまっていいだろうーを歩いているとそんな感じがした。

四条通りを挟んだ南側の祇園花見小路などは観光客で賑わっていた。八坂神社から建仁寺あたりまでの一帯は何処を歩いても人が多い。安井金比羅宮も「縁切り縁結び」のお社として知られるようになり観光客が多い。この神社周辺は辺りは昔から(おそらく)神社仏閣関係者の遊び場だったのだろう、今でも名残であるホテルが立ち並び、昼間ではあるが仕事の方の迎えの車が路上駐車していた。

一方、北側の飲み屋街は閑散としている。まだ時間も早い昼間の時間ではあるが、そしてそれは此処に限らず各地の盛り場で同じことなのだろうが、四条通りを挟んだ南北のコントラストには少々驚く。居酒屋やBARをはじめとした水商売の店が立ち並んでいるが、建物は20年以上前に建てられたモノが多い感じがする。バブルの残照を感じる過剰なエクステリアが多い。

ふと、案内の彼女に連れられて細道に入ってみた。そこは上階が道の天井を塞いでいる本当に細い路地でどこに通じているのかもわからない。道の奥は薄暗く、人の気配もなかった。

しばらく進んでいくと更に古い建物に突き当たった。手前の建物との隙間から光が指している。雨も吹き込むのか、水たまりもあり、脇にある古ぼけた階段はその雨のためかリノリウムが剥がれ、コンクリートには苔も生えていた。割れたコンクリートの端には、上階の金属の手すりから落ちてきたのであろう赤茶けた錆も浮いている。建物の水色の木の扉は一部はペンキが剥げ、扉の周りは歪んでいるようにも見える。差し込んでくる光はホコリをキラキラと輝かせ、この場所だけ時間が止まっているようにも感じた。足元の消化器だけが新しく、その赤い色がむしろ物理現実的な色彩を帯びている。

小一時間ほどして引き返す事にした。暗く細い小路を戻っていくと路の出口で彼女は言った。

「こういう時、振り返っちゃだめなんだよね。」

(撮影 2023/4)

model;玉井ゆき  (X)
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