第222回 石の卒塔婆に何を想う
1、読書ノート18
南三陸の山城と石塔 (河北選書) / 田中則和 #読書メーター https://bookmeter.com/books/13196538
日頃からご指導を頂いている大先輩の労作がようやく世に出ました。
地域研究のモデルケースとして、目標にしたいこの本を今日は紹介したいと思います。
2、中世を考古学する
考古学と言えば、まだまだ縄文や古墳のイメージが強いのではないでしょうか。
また、ミヤギでは多賀城を中心に奈良・平安時代の
大和政権のフロンティアだったことに由来する城柵という特殊な遺跡の研究が盛んなこともあり
どうしても鎌倉時代以降の研究は進んではいません。
そんなミヤギの中世考古学を長年リードしてきたのが著者の田中則和氏。
得意とするのは人々の信仰が生み出した遺物たちの研究。
今回も当時の人々が極楽浄土へ往生することを願って建立された石塔についての考察を武器に南三陸地域の歴史を明らかにしていきます。
3、物言わぬ資料が描く世界
三陸沿岸はリアス式海岸という地理用語で有名な通り、複雑な海岸線をしており、連続する湾の中に集落が点在するという景観が中世でもありました。
そこにはその地を治める豪族の屋敷があり、先祖を祀る霊場があります。
霊場に数十基、ときには100を超えて建てられる石塔に刻まれた文言を読み解くことで海を通じた人の動き、文化の伝播を追体験することができるのです。
例えば南三陸より少し南側の女川や雄勝という地域には千葉県からやってきた千葉氏という武士が関わる伝説が多く残っていますし、牡鹿半島には千葉県の石塔の影響を受けた特殊な形をした資料も見つかっています。
よく言われるのは
海の武士団とか
海民と呼ばれる水運を担った集団がヒトもモノもコトも盛んに運んでいたということ。
南三陸町にも、わが松島町にも雄勝名産の石で作られた石塔がたくさん残っています。
そこからイメージされる世界はこんなところでしょうか。
雄勝から採取された石が海を伝って北へ南へと運ばれ、その地では僧侶が選んだ文言を刻みつけ、霊場と呼ばれる景色のよい土地に建てられる。
それを見届けた中世人は心の安寧を得て、また前向きに生きていく。
時代が変わっても変わらない人の心がある。
読者の皆さんもぜひ機会があったらこの本を片手に南三陸から雄勝、女川、そして松島まで中世の景観を追いかけてみませんか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?