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第129回 地域のお宝、お分けします

1、文化財の譲渡会という発想

鳥取県は北栄町の資料館で「お別れ展示」と題して、増えすぎた資料の譲渡会を企画したところ、全国から応募が殺到した、というニュースが飛び込んできました。

引き取り手がなければ‘処分’されていたという580点もの資料。

昭和の蓄音機や江戸時代の桶、高さ1.5mもの神輿もあったとか。

譲渡会という発想は正直ありませんでした。さらに全国から応募が集まることも予想できませんでした。

まさに目から鱗です。

2、増え続ける文化財の現実

博物館法は収集については定められていますが、廃棄については想定されていないのが現実です。

出土文化財の置き場所に困って、穴を掘って地中に返したという冗談みたいな話も昔ありました。もちろん発覚して“再発掘”した、というオチです。

記事にも出てくる江戸時代から昭和にかけて、ちょっと昔の庶民の暮らしを物語る民具は、一見単なる古いもの、と見られてしまいますが、適切な展示と解説で価値を持ってくる資料です。

一方で、似た資料が重複することも多く、(それこそがある時代の普遍的な道具であったことの証拠なのですが)、一つの資料が大きくかさばるという場合も多いです。

また発掘調査で出土した考古資料も、膨大な量になります。多くの破片資料から有意な事象を探り当てるのが調査員の腕の見せ所です。もちろん破片資料全てを統計的に処理するような分析も場合によっては行いますが、展示に使われる資料は全体量の1割にも満たないでしょう。

資料は増え続け、減ることはない、というのが常識でしたが、一つ前例ができると流れが変わるかもしれません。

3、残された課題

ただ、現時点で懸念される課題が2つあります。

一つは公平感の問題。

公的な業務で収集されたものを、無償で譲渡する、ということに対して、利益を得た住民とそうでない住民がでることは問題ないのでしょうか。

特定の期日に会場を訪れることができた人だけが譲渡を受けることができる、というのでは不公平感が生まれてしまいませんか。

また、一つのものに希望者が複数出たらどうするのでしょう。先着順?抽選?

100%公平にはもちろん不可能ですが、ある程度説明できる論理が必要になります。

もう一つは倫理的な問題。

譲渡されたものがネットオークションで販売されたらどうしたらいいのでしょう。

無償で譲渡されたものが売られてしまうことに対して、譲渡した側の行政は無責任でいられるでしょうか。

実際に自分の町でやってみることを想定するとクリアしなければならないハードルは高そうです。

ちなみに、昔から考えていたのですが、小さな土器片は出前授業で小学生に預けてもいいのでないかと。

あげるのではなく、預けるんだよ。君たちの町の歴史をものがたる貴重なものだから、大事にしてね。

そう言って渡してはどうでしょうか。

それでも無くしたりするのはしょうがないでしょうし、中には大人になっても大事に取っておいてくれるかもしれない。

将来、私が引退する頃に代わりの学芸員を採用するための試験をするんですよ。受験者が面接官に拳を突き出して、その中には、小学生の時に預けた土器片
入っている。

そんな妄想までしちゃいました。

また一つやりたいことができましたね。

#資料の譲渡 #民具 #博物館 #廃棄 #埋蔵文化財 #出土遺物


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