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あなたは美しい

『中島らも短篇小説コレクション 美しい手』(2016、ちくま文庫)を読んだ。

らもが亡くなったのは2004年7月26日らしい。
あの日、ラジオから「作家の中島らもさんが……」と聞こえてきたので、お、何やろ?とボリュームを上げたら訃報だったのを覚えている。一緒にライブに行った友だちにすぐにメールしたっけ。

らもをはじめて読んだのは高校生の頃。
何を読んだか記憶にないが、中高と灘でギチギチの学校生活を送ったしんどさや、全部あほらしく思えて学校の外に救いを求める姿に、「これは自分や」と思った。そこから、らものエッセイ的なものを好んで読んだ。テレビに出てたら見た。リリパット・アーミーを観に学園祭に行った。

らもはこっち側からあっち側へ行くことに憧れつづけた人な気がする。それがこの短篇集にもよく表れている。
あっち側へ行く手段は何でもあり。祭り(日の出通り商店街 いきいきデー)、ヘビメタ(クロウリング・キング・スネイク)、ホラー映画(コルトナの亡霊)、外科手術(DECO-CHIN)、クスリ(ねたのよい)、臨終(寝ずの番)、転生🐛(黄色いセロファン)……

らもの短篇はよく映像化されていて、しかも長編作品になりやすい。人物が生きてしゃべっているから、読むと表情や情景がうかんできて話をふくらませたくなるのかも。
コメディであれホラーであれ、そこはかとなく哀愁がただよっているところも魅力やと思う。下ネタやダジャレが好きで、かっこつけんのが嫌いなくせにロマンチストな作家やし。

未発表だった表題作は、編者が「この作品が陽の目をみるまでは死ねないと思った」と言うのもうなずける、どストレートにロマンチックな作品。ここでは、映画館のチケット売り場の窓口がこっち側とあっち側を隔てている。
一瞬の、でも一生忘れえぬ恋。

You're Beautiful by James Blunt (2005)
読み終わるとこの曲が脳内に流れていた。
そんなんと一緒にせんといてくれよ、とらも本人には言われるかもしれんけど。

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